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だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~  作者: 乙原 ゆん


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47.救護室

 廊下では他の生徒から注目の的で、そこまで遠くないはずの救護室がとても遠く感じた。

 マティアスはなんとも思っていないようで、足取りに迷いはない。

 ようやく救護室に到着すると、中には誰もいなかった。

「教師は不在か」

 誰も居ない救護室で空いているベッドの一つに私をそっと下ろすとマティアスは言う。

「救護室の教師を呼びに――いや、ジュリアの侍女を呼んで帰宅の準備をさせるべきか」

 マティアスの言葉に、彼に付き従っていた従者が頷くと静かに救護室を出て行った。

(あっ、ナタリア様を食堂でお待たせしているのに。どうしましょう)

 だが、マティアスの従者に伝言を頼むのは気が引ける。

 私の侍女が来てから頼むしかないだろう。

 考えていると、ふと視線を感じて顔を上げた。

「何を考えている」

 マティアスのネモフィラ色の薄い青い瞳が私を静かに見つめている。

「殿下……。友人を食堂で待たせているので、どう連絡しようかと考えておりました」

 マティアスは驚いたように数度瞬き、言った。

「なんだ。そんなことか。では、従者が戻ったら、伝言にやらせよう」

「ありがとうございます」

 頭を下げると、マティアスの眼差しが少し緩む。

「名は?」

「トレノー伯爵家のナタリア様です」

「そうか」

 マティアスとこうして二人きりで向かい合うのは久しぶりだ。

 黙り込んでしまったマティアスに、何か話しかけた方がよいのだろうか。だが、何を話したらいいのだろう。

 考えていると、扉の向こうから騒がしい声が聞こえてきた。

「ちょっと、どうして止めるのよ」

「殿下のご命令です」

「マティ! お願い! 話を聞いて! これには深い誤解があるの」

「追いかけてきたのか……」

 はっきりと聞こえたその声に、マティアスは一つ息を吐いて私を見た。

「廊下で騒がれると面倒だ。入れてもいいか?」

「はい」

 そうする他はないだろう。このままでは、マティアスをも巻き込んだ悪評も立ちそうだ。

 頷くとマティアスは声を張った。

「構わん。通せ」

 直後、パトリシアが飛び込むように入ってくる。

「マティ! 許してくれたの?」

 だが、すぐにマティアスがベッドに腰掛ける私に付き添うように立っているのを見て、唇を尖らせた。

 マティアスがパトリシアを鋭い眼差しで見つめる。

「許したわけではない。廊下で騒がれるよりは良いと思っただけだ」

 冷静に答えるマティアスにパトリシアは驚いたような顔をしたものの、無理矢理、微笑みを作る。

「でも、ジュリアさんも救護室に連れてきたんだし、もう気は済んだでしょう? 学芸祭に戻りましょう?」

「行きたいのなら、パトリシアだけで行くといい。教師も不在だ。襲われたジュリアを一人きりで残すわけにはいかない」

「どうしてっ! なんで、マティはジュリアさんに急に構うの?」

「どうしても何も、ジュリアは私の婚約者だ。不審者に襲われた彼女の側についていてやりたいと思うのはそんなにおかしいことか」

 冷静に言うマティアスに、パトリシアは私を鋭く見据える。

「でも、マティはジュリアを嫌っていたじゃない」

「嫌ってなどいない」

 間髪を置かず、マティアスが切り捨てるように言う。

 マティアスは私の手を取ると、言う。

「私が婚約し、いずれ結婚したいと思っているのも、今も昔もジュリアだけだ」

 その言葉に、パトリシアだけではなく私も内心驚く。

 今までの行動を振り返っても、マティアスがそのつもりだというのが信じられなかった。

「なら、どうして、彼女じゃなく私を側に置いたの!」

 パトリシアの悲痛なまでの叫び声が響く。

「特に私から声をかけたことなどなかっただろう。学園ではお互いの人脈を築くために別行動しているとはパトリシアも知っていたはずだ」

「そんなの……だって」

 パトリシアは青ざめながらも、なんとか倒れはしないようだった。

 心配して見つめていると、キッと睨み付けられる。

 その時だった。

 救護室の扉が開き、マティアスの従者と共に私の侍女がやって来た。

「お嬢様! ご無事でございますか!」

「大丈夫。怪我はないわ」

 心配する彼女に言うと、ほっと息を吐いた。

 そんなやり取りをしている間に、救護教諭も戻ってくる。

 救護教諭は一通り怪我がないか確認し、私と侍女に言う。

「私の見立てでもお怪我はないようですが、体に傷がなくとも、精神的なショックが後から出ることもあります。侍医がいらっしゃるなら帰宅されてから診察を受けられてください」

「かしこまりました」

 私よりも遙かに熱心に侍女の方が頷き、帰宅するように促される。

「馬車停めまで送っていこう」

 すかさずマティアスが言う。

 パトリシアはどうするのだろうと思って窺うと、パトリシアは一瞬眉間に皺を寄せた後、ツンと答える。

「では、私は失礼するわ」

 救護室を出て行く背中を見送って、私達も馬車停めに向かう。

 さすがに今度は抱きかかえられることもなく、歩いて送って貰った。

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