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だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~  作者: 乙原 ゆん


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46.魔術準備室

「あれ、誰も居ない……?」


 魔術科の準備室に向かうと、部屋には明かりがついていなかった。

 まさか呼び出しておいて不在ということもないだろうと、扉に手をかけると、鍵はかかっていない。


「クロード先生、いらっしゃいますか?」


 声をかけるが返事はなく、それどころか姿も見えなかった。

 準備室の中は授業で使うのだろう魔獣の模型や、人型の的、後はよくわからない器具が雑然と置いてあり、当然ながら人が隠れるような場所もない。


「どうしましょう」


 まだ時間はある。少し位待っていた方が良いのだろうか。

 そう考えて、準備室の中に入った瞬間だった。

 準備室の扉が急に閉まり、視界の端に黒い塊が動く。


「……っ!」


 咄嗟に、以前クロード様に教わった結界魔術を発動させていた。

 体に沿わせるように魔術を展開するため、物が多い室内での防御でも使いやすい。

 結界が何か固い物を弾き、私はほっと息を吐いた。


 完全に安全とはいえないまでも、相手が自分に危害を与えることができないと知って、相手を観察する余裕が出てくる。

 襲ってきたのは黒い服をまとった男の人で、口元は黒い布で覆われている。その上、手には棍棒を持っていた。


 男性は私が倒れないのを不思議そうに見ると、もう一度、棍棒を振りかざす。

 殴られることはないとわかっていても、怖いものは怖い。顔を腕で庇おうとしたその時だった。


「ラバール侯爵令嬢! そこにいるか!」


 扉の外からクロード様の声が聞こえ、私は声を上げた。


「……クロード先生!」

「お前、黙れっ……!」


 声を上げた私を止めようと男が棍棒を放りだして襲いかかってくる。


「きゃぁぁぁ!」


 私がその場に蹲った次の瞬間だった。

 何かが破裂する音が響く。

 腕の隙間から、破壊された準備室の扉と、顔色を真っ青にしたクロード様の姿が目に入った。

 おそるおそる顔を上げて周りを見回すと、部屋の反対側に吹き飛ばされ意識を失った男性の姿がある。


「クロード先生……?」

「すまない。驚かせたな。緊急事態だと判断した。怪我は?」

「……大丈夫です。先生に教えて貰っていた結界魔術があったので」

「あれか」


 クロード様は頷くと、気絶している男の方を見る。


「あいつは?」


 首を横に振って、付け足す。


「わかりません。先輩から先生がこちらで待っておられると聞いて来たのですが」

「ラバール侯爵令嬢もか」

「というと、先生の伝言ではなかったということですか?」


 状況が飲み込めない私に、クロード様は頷く。


「侯爵令嬢を呼び出したりなどしていない。それに、オレも研究室で一人で居た所を襲われたんだ」


 こんな時だというのに、クロード様の自称が「オレ」だということに内心驚く。クロード様も動揺しているようだ。

 そのことに少し余裕が戻ってくる。


「先生は、怪我などは……」

「問題ない。返り討ちにしたところで、そいつがラバール侯爵令嬢をここに呼び出したと言い出すから慌てて駆けつけたんだが」


 クロード様は気絶した男性に酷く冷めたい目を向ける。


「何を企んでいたのかはあいつが知っているだろう。だが、それは私一人で十分だ。ラバール侯爵令嬢は午後から魔術の発表があるだろうし、先に――」


 その時だった。


「殿下! あちらです! あの部屋に、ジュリアさんと魔術教師が中に入る姿を見かけたと――」


 甲高い声が遠くから聞こえ、ぎょっとして戸口を見る。

 壊れた扉越しに、廊下の向こうからパトリシア様とマティアス殿下が近づいてくるのが見えた。


 王子の姿に、クロード様と私はひとまず頭を下げて、彼らの到着を待つ。

 だが、近くまで来たところで、パトリシア様が彼女らしくない驚きの声を上げた。


「えっ? なんで扉が壊れているの?」

「二人とも顔を上げよ。これはどういう状況か説明せよ」


 感情の見えないマティアス殿下の声に、クロード様が発言する。


「はっ、恐れながら。私が到着した際には、そちらの男がラバール侯爵令嬢をその棍棒を持って襲いかかっているところでした」


 クロード様の言葉に、マティアス殿下が私を見る。


「ジュリアが武器を持った男に襲われたと? 見たところ無事のようだが」


 眉を寄せるマティアス殿下から目を逸らさず、私は言う。


「結界魔術で、咄嗟に防御が間に合いましたので」

「そうか。怪我がなくてよかった」


 ほっとしたようにマティアス殿下の眉間のしわが緩む。

 まさか、心配してくれたのだろうか。


「それで、この扉は?」

「鍵がかかっていたので、侯爵令嬢を救助する際、やむなく破壊しました」


 マティアス殿下が部屋の隅に倒れている男を見て告げた。


「クロードと言ったな。その男はお前が尋問しておけ」

「はっ」


 クロード様に命じたマティアス殿下は、パトリシア様に向き直る。


「聞いていた話と違うようだが」

「待って、マティ。違うの、これは」


 マティアス殿下の腕にすがりつくように腕を絡ませるパトリシア様だったが、その手をマティアス殿下はさっと払う。


「今はお前の言葉を聞いている場合ではない。ジュリアを救護室に連れて行くのが先だ」

「えっ、ですが、私、怪我は」


 していない、と言おうとしたところで、近づいてきたマティアス殿下からさっと抱きかかえられてしまう。


「怪我はないと聞いたが、念のためだ」

「殿下、ですが」

「ジュリア、腕を首に回しなさい」


 囁くように命じられ、私は恐る恐るマティアス殿下の首に腕を回す。

 普段、パトリシア様とばかりいるマティアス殿下の行動に、頭がついていかない。


「あの、午後から、魔術の発表があるのです」

「まさか、このような目に遭ったのに、学芸祭に参加するのか?」

「そのために練習もして来ましたし」

「下手人の動向もわからぬし、何かあってからでは遅いのだぞ」


 マティアス殿下はクロード様を見る。


「お前、魔術教師だったな。今回、咄嗟に魔術で不審者の攻撃を防御したのだ。学芸祭に参加できなくとも、十分、ジュリアは成果を示したと思うが」

「殿下のお言葉の通りです。成績の方は、配慮いたします」

「ということだ。危ない目に遭ったのだ。今はジュリアは休むべきだ」


 そう言われてしまえば反論のしようもない。

 怒りを灯した眼差しでこちらを見るパトリシア様を置いて、私はマティアス殿下に救護室まで連れて行かれたのだった。

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