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4.新しい家族との対面

 侍女の案内で応接室に通されると、中では金髪の女性と父に似た金髪の少年が父と談笑していた。

 継母となる女性とその息子だ。お父様は私との会話では困ったように話されることが常なのに、二人と話している姿は楽しそうだ。一度目の私はそんなお父様の姿にショックを受けて、彼女達を歓迎できなかったのだ。思い返せば、そこからさらにお父様との距離が開いた気がする。

 でも、今度は失敗したくない。心の中ではここで失敗すればあの処刑に繋がるのだという怯えと、それでもどうしても湧き上がる継母と異母弟への嫉妬とを押し殺して、無理矢理に微笑みを浮かべる。


「ジュリア、来たか。こちらへおいで」

 お父様の正面にあるソファに二人は腰かけていたが、私がお父様の隣に向かうと二人は立ち上がった。

「紹介しよう。私の娘のジュリアだ」

「お初にお目にかかります。ジュリアと申します」

 挨拶と共にカーテシーを行うと、女性が猫撫で声を出す。

「流石、王家に選ばれたお嬢様ですね。礼儀作法も既に完璧でいらっしゃるのね」

 お父様は女性の言葉に頷くだけだ。女性は手入れされた真っ赤な爪が印象的でそれがよく似合う、お母様とは違うタイプの美人だ。息子の方は特に表情もなく私を見ているだけだ。弟となった彼のことはよく知らない。一度目は、お父様に愛され、お母様もいる彼がうらやましくて、同じ家の中に暮らしていても彼のことを無視していた。それでも、最初の頃は何度か話しかけられていた気がするが、彼を避けるような行動を取る私の心中を察してか、ある時からはあまり顔を合わせることはなくなった。

 そして、その場に沈黙が落ちた。

 私の挨拶の後、二人の名乗りが続くのかと思ったが、二人にその様子はない。

 二人の紹介はないのだろうかとお父様を見上げるが、お父様も黙ったままだ。仕方なく、お父様を促す。

「あの、お二人はどういった方なのでしょうか?」

「ああ。そうだった。ジュリアにも紹介しよう。今日から妻となるオラール子爵家のご出身のベアトリスさんとご子息のエリク君だ。エリク君はまだ十歳だが、王家に嫁ぐことになるお前の代わりにこの家を継いでもらうつもりでこれからこの家で色々学んでもらう」

 お父様の言葉に、私は黙って頷いた。

 一度目は、彼女達の存在にショックを受けた。当時は王家に嫁ぐ以上、この侯爵家は親戚の誰かに引き継がれるのだと思っていたのだ。だから、それはいい。驚いたのはお父様に母以外に愛する人がいて、子供まで産まれていたことだった。

 お父様が続ける。

「ジュリアにも母親がいた方がいいだろうと思ってね。社交界のことなど、わからないことがあったら頼りなさい」

「ええ。なんでも聞いてちょうだいね」

 過去の私は、それになんと返したのだったか。確か、お父様に既に亡くなった母以外の継母は不要と言うことを伝えたくて、わざと酷いことを言ってしまったのだ。言葉はもっと柔らかかったが、高位貴族と下位貴族では社交界での振る舞いも違う上、これから王宮で王太子妃教育が始まる。だから、彼女を頼るようなことはない、と。

 だって、お母様が亡くなって、お父様は明らかに私より親し気な二人をこの家に招き入れた。不要な私は王家に嫁に出され、彼ら三人で家族として過ごすのだと思うと、私の心は限界だった。

 けれど、お父様は結局私の気持ちに気づかず私を叱り、これを切っ掛けに継母との仲も悪くなっていった。

 今回は継母との仲まで改善したいと思わないが、事を荒立てないよう当たり障りのない返事をする。

「ベアトリス様、よろしくお願いします」

「あら、お母様でいいのよ」

 優しいことを言うベアトリスさんは一見微笑んでいるが、目は笑っていない。

 前回は私の失言のせいで嫌われたと思っていたけれど、それだけではないようだ。

「エリク君はジュリアの弟だ。姉として何かと助けてやってほしい」

「よろしくお願いします」

 頭を下げる少年に、私も同じ返事をする。

 お父様はそれで安心したようで、満足げに頷いた。


「さて、少し時間があるな。私はベティ達に屋敷を案内しよう。ジュリアは勉強があるだろう。先に部屋に戻っていなさい」

「かしこまりました」

「夕食には声をかける。折角だ、今夜は四人で食事をしよう」

「まぁ、嬉しいわ」

 ベアトリスさんが、嬉し気に微笑む。

 前回はベアトリスさんとの仲が対面早々険悪になったために、部屋で反省するよう言われ晩餐にも呼ばれなかったが、今回はお父様と彼女達のやりとりを眺めながら食事をすることになるようだ。

 のけ者にされるのと、顔を合わせているのに疎外感を感じながら食事をするのと、どちらがましだろう。

 感情を押し殺し、微笑みを崩さぬよう気を付けながら三人と共に席を立つ。

 そして、私は一人、扉の前でベアトリスさんをエスコートするお父様と、エリク君の三人で歩く姿を見送った。

 彼らの姿に何も感じないわけではない。だが、どうやっても私はお父様に気にかけてはもらえないのだ。彼らの向かった廊下に背を向け、静かに自室へと戻った。


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