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だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~  作者: 乙原 ゆん


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37.クロードの初講義

 翌日から魔術の講義が開講された。

 休講が続いていたために生徒達は皆、本当に開講されるのだろうかと話をしながら講堂へと向かっている。

 授業開始の鐘が鳴り教壇にクロードが立つと、講堂内は自然と静かになる。

「魔術の講義を選択してくれた君達には休講が続き申し訳なかった。講師のクロードだ」

 だがクロードが名乗ると、途端に講堂内にざわめきが広がる。

「先生、質問が」

 生徒の一人が手を挙げ、クロードは発言を促す。

「聞こうか。えっと、君は?」

「クリストフ・ビノシュです。先生は、王宮を解雇された元筆頭魔術師というのは本当ですか」

 手を挙げたのは、王宮魔術師を目指しているというクリストフだった。

「本当だ。だが学園長の方からも、魔術師としての実力も問題ないと判断してもらっているから安心して欲しい」

「先生は国境での合同演習で力不足だったと聞いていますが」

 挑発するように言うクリストフに、クロードは周囲を見渡して息を吐いた。

「クリストフ君と同意見の者も多いようだな。では、どうしたら君達に納得してもらえるだろうか」

「僕と模擬戦をしてください」

 クリストフの発言に、クロードは片眉を上げる。

「すごい自信だな?」

「中途半端な人物の授業を受ける位なら、王宮魔術師のための試験勉強に充てたいだけです」

「そうか。ならこの際だ。他にも私の実力を試したいという者がいれば全員を相手にしよう。演習場へ移動しようか」

 クロードが短杖を取り出し一振りすると、講堂内にいた全員が演習場へと転移していた。

「なっ。役立たずの魔術師ではないのか」

「こんな事出来るなんて聞いていないわ」

 戸惑う学生達を見ながらクロードが言う。

「模擬戦の必要が無い者はこのまま観戦エリアへ留まるように。模擬戦を希望する者は、準備が出来たら演習エリアへ移動。もちろん、まとめて来てくれても構わない。私からは攻撃しないので、好きなだけ実力を確かめてくれ」

 演習場は闘技場のような造りになっている。演習エリアを囲むように観戦エリアが作られていて、柵で隔てられている。柵自体に魔術がかけられており、演習エリアの魔術が観戦エリアに影響することはないと聞いている。

 私は観戦エリアに留まり模擬戦を見学することにした。他にも残る生徒もいて、この時点で受講生のうち半数はクロードに対する認識を改めたようだ。

「まずは僕が一人で行かせて貰う」

 そう言って最初に演習エリアに足を踏み入れたのは、クリストフだった。

「どんなやり方でもいいのですよね」

 演習エリアの中を進みながら、クリストフが問う。

「あぁ。君らの相手にはそのくらいの手加減でも足りないだろうしな」

「その言葉、後悔されないでくださいね」

 クリストフの言葉の直後、前触れ無く火球がクロードに狙いを定め、続いて風の刃が向かっていく。

 クロードは、火球には水球で、風の刃は土の壁で受ける。

「このくらいは、対応できると。ではこれは?」

 クリストフが言うと、水の竜巻が起き、クロードを呑み込んだ。

「すごい……」

「さすが、クリストフだ」

「王宮魔術師を目指されているというだけありますね」

 私と同様に観戦エリアに残った学生達がクロードとクリストフのやり取りを見ながら話している。

「これで終わりとは、元筆頭魔術師とは案外簡単になれる――」

 竜巻が収まり、現れたクロードの姿にクリストフは絶句した。

「なっ、無傷だと……」

 その立ち姿は模擬戦が始まる前と全く同じだった。

 彼が立つ周辺は水竜巻の影響で水浸しになり、地表も荒れているのにクロードだけが切り取られたように影響を受けた様子はない。

「クリストフ君は王宮魔術師を目指しているんだったな」

 クロードが言う。

「そうですが」

「筋はいいと思うが、お手本通りの使い方だな。王宮魔術師は行儀の良い魔術だけでやっていけるほど、簡単なものではない」

 クロードが杖を取り出し一振りすると、一瞬で荒れた演習エリアが元通りとなる。

「さて、講義ではその辺りのことにも触れていくつもりだが、気は済んだだろうか」

「……はい」

「他に、模擬戦をしたい者はいるか?」

 クロードの言葉に答える者はいない。

 圧倒的な実力を見せられ、戦意喪失したようだ。

「では、まだ時間はあることだし、本日の講義はこのままここで行うとしよう」

 観戦エリアの椅子に座るよう促され、変則的な講義が始まった。

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