33.クロード視点(2)
「……そういう訳だったのか」
これまでの事を全て話すと、師匠は深く頷いた。
「信じてくださるんですか?」
自分でも時戻りの魔術が成功したなんて、自分でも魔力枯渇現象がなければとても信じられないのに、納得した様子の師匠の言葉を思わず疑ってしまった。
「でなければ、お前が魔力枯渇を起こしている理由がわからん」
師匠の答えは明快だったが、続く一言に首を傾ける。
「だが、一つわからんこともある」
「何でしょうか」
「そこまで思っていながら、何故、奪いにいかん」
「は?」
意味が分からず、間抜けた顔をしていたのだろう。師匠がオレの額にデコピンを繰り出した。
「痛っ」
「魔力も、命すら懸けるほどにその女性を想っているんだろう。わしは弟子を腰抜けに育てたつもりはないんじゃが」
呆れたように言う師匠にオレは俯いた。
師匠の言うことももっともだが、既にオレは魔力を無くし、筆頭魔術師という地位も失っている。
「何もかもを失い、親も誰かわからない人間に愛されるより、血筋も良く権威がある相手の方が、彼女を幸せに出来ると……」
「それで幸せになれんかったから、巻き戻したのじゃろうに」
「うぐっ」
容赦の無い的確な一言にダメージを受けるオレに、師匠はたたみかける。
「ま、大方、自分に自信がなくて、断られるのを想像して踏み出せなかったといったところか。振られるのが怖いという気持ちはよくわかるが、踏み出さねば得られぬ物もあるのじゃぞ」
「で、ですが、今回は上手くいっているようですし」
「今は問題なくとも、もともと上手くいっていなかった二人だ。今後、こじれた時はどうするつもりじゃ?」
それは、考えなかったわけではない。
「その状態ではもう巻き戻しもできんのだぞ」
容赦の無い言葉の数々に、地にのめり込みそうな程に凹んだオレに、師匠は続ける
「というわけで、へなちょこな弟子のために、わしが色々と手配してきた。無職になった弟子のためにと思っただけじゃが、想い人が学園にいるなら丁度よかったの」
手渡されたのは一通の任命書。
辞令には、王立学園の魔術講師任命の文字が並んでいる。
はっとして顔を上げると師匠は真っ直ぐにオレを見ていた。
「魔力を無くそうと、わしの弟子として学んだ知識はなくなりはせんからな。教えるのは程々で良いから、しっかり口説いてくるんじゃぞ」
師匠の激励に、オレはただ頭を下げた。




