29.学園入学
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
入学式当日。
真新しい制服に身を包み、学園へは一人で向かった。
家からは馬車を出して貰っているが、それも学園で規定された昇降場まで。
お父様は入学式には来てくださると言われていたが、一緒に来てはくださらなかった。
流石に第一王子殿下の婚約者の家族が入学式に出席しないのは問題と思ってくださっているらしい。けれども、一人で学園に行くことになる私がどういう目で見られるかというのは、気にしてはくださらないようだ。
ちなみに、婚約者のマティアス殿下は新入生代表としての諸事があるため、登校は一緒にはできないとお断りの手紙をいただいている。仕方ないことだけれど、結果的に一度目と同じ状況になってしまったことが、少し不安だった。
規定された昇降場で馬車から降りると、冷たい風に身をすくませる。早めに到着するように家を出たおかげで、他の学生とその家族の姿はまばらだ。それでも周囲の視線が集まるのを感じて姿勢を正した。一人での登校は理由があってのこと。何も恥ずべきことはないからと前を向き、入学式の会場へと向かった。
会場に入ると、クラスごとに席が決められているようだった。
クラス分けは、事前に入学案内の手紙にて知らされている。
自分の座席を探していると、見知った姿があった。
「ジュリアさん!」
そう言って、淑女としては少々はしたないが、バシュレ公爵令嬢パトリシアが駆け寄ってくる。
「パトリシア様、本日はご機嫌麗しく」
「もう、パティでいいのに。ジュリアさんが同じクラスで嬉しいわ」
「私もパティ様と同じクラスになれて嬉しく思います」
笑顔に顔が引きつらないように答えると、パトリシアは目を輝かせる。
「マティも一緒よ。今日は同じ馬車で来たのだけれど、その時に聞いたの」
「そうだったのですね。お二人と一緒のクラスになれて私も嬉しいです」
マティアス殿下がパトリシアと親しい付き合いをしているとは知っていた。けれど、婚約者として扱って貰っていなかった一度目と違って、今回は殿下との仲もかなり改善しているのに、やはり私よりもパトリシアの方に殿下のお心があるのだろう。
私の表情が曇ったのか、パトリシアが慌てている。
「あ、違うの。ほら、私一人だと、きちんと時間通りに来られるか不安だからってお父様が殿下にお願いしてくださったの」
「そうだったのですね。お二人は幼い頃から親しくしておられると聞いていますので、お気遣いは不要です」
「まぁ! さすがジュリアさん! マティが気に入っているだけあるわ!」
にこやかなパトリシアに、私は苦い思いが出ないように気を付けながら微笑んだ。
時間が経つに従い、会場に人が増えていく。
パトリシアは他に知り合いを見つけたようで、少し話した後に別の人の元へと向かっていた。私は他に話す人もおらず、配られた式次に目を通す。
すぐに読み終わるけれど、他にやることはないから式次に目を落としたまま、お父様はそろそろ来られただろうかと考えに耽っている。そうしていると後ろから声が聞こえてくる。騎士出身なのか、あまり周りを気にせず声がよく響いている。
「そういえば、この間の合同演習、長かったよな」
「なんでも、筆頭魔術師が役に立たなかったらしい」
「はぁ?」
「お陰でうちの親父がとばっちりでさ、本来魔術師が対応するところを親父達騎士がカバーすることになって大変だったって言ってたんだよな」
「あー、まじか。演習でよかったな」
「本当だよ。魔術師が使う魔術は派手だけど、役に立たなきゃ意味ないしな」
それからも二人は何か話していたようだが、私はそれどころではなかった。
筆頭魔術師とは、クロード様に何かあったのだろうか。
それとも、やはり時戻りの代償のせい、なのだろうか。
確信はないけれど、疑問を晴らすためにも一度、クロードに会って話をした方が良いのかもしれない。
王族のみが入れる図書館で読んだ本の内容が脳裏を過る。あの中には術者が他の人間に時戻りの魔術を行使した場合、何か魔術を使わなければ術者は代償を払い続けると書いてあった。そのせいで彼の経歴に傷を付けているのなら、それは私の責任だ。
考え込んでいる間に式は始まっていた。
一度目と同じく、殿下が新入生代表の挨拶を読み上げているところだった。
式に集中しなければと思うものの、どうしてもクロードのことを考えてしまうのだった。
次回は月or火曜日に投稿できたらと考えています。




