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だって、今度こそ愛されたい ~巻き戻った世界で、 侯爵令嬢は自分だけを見てくれる人を探します~  作者: 乙原 ゆん


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26.王族の図書館

「少し歩くよ」

 殿下の案内で、普段入ることのない区画を進んでいく。

 最初は道順を覚えようと思っていたけれど、いくつかの回廊を渡ったところで複雑過ぎて諦めてしまった。ここは王宮内のどの位の場所になるのだろうと考えていると、殿下が私の考えていることを察したように告げる。

「この辺りは歴代の王達の改築で特に複雑な造りなんだ」

 侵入者対策かとも考えていたけれど、それは考えすぎだったようだ。なるほどと頷いていると、殿下が視線を前に向けた。

「さぁ、そろそろ着くよ」

 殿下の視線の先に目を向けると飾り気のない石造の塔が見えた。円柱型の作りで、変わった所と言えば窓は一切見えないことくらいだろうか。厳重な作りの扉の前に立ち、殿下が扉に手を翳すと扉の表面に一瞬青い光で魔力紋が浮かび上がり、扉が開く。

「今のは……?」

 驚きを浮かべる私に殿下は嬉し気に言う。

「解錠したんだ。私も最初ここに連れて来てもらった時は驚いた」

 殿下は続ける。

「さぁ、入って」

 促されるままに足を踏み入れると、吹き抜けのある二階分の空間が広がっていた。一階は書棚が規則正しく立ち並んでおり、壁面もまた書棚となっている。入口からすぐのスペースは吹き抜けになっていて、二階部分が少し窺えた。右手に内壁に沿うように作られた階段があり、殿下に促されるまま二階部分に上がっていくと、二階は読書スペースになっていた。奥に書棚は見えるものの、手前にはソファや作業机、書見台が置かれている。

「懐かしいな……。いつも、あそこに座っていたんだ」

 入り口から見えない奥に置かれたソファを見て、思わずと言ったように殿下は呟いた。

「今はこちらにいらっしゃっていないのですか?」

「そうだね。一時期は通い詰めていたけれど、最近はほとんど来る時間がないからね」

 殿下は私に視線を戻すと躊躇いがちに続ける。

「久々に来ると、離れがたいな。少し本も入れ替わっているようだし、この後は庭園の散策にでもと思っていたが、もう少しここで過ごしても良いな。ジュリアはどう思う?」

「折角の機会ですので、私もこちらにある書物を見て回りたいです」

「そうか。なら、お互いここで好きに過ごすとしよう」

 願ってもないことなので頷くと、殿下はそう言い置いて二階奥の書棚に向かう。私は、ひとまず一階にある本を見て回ろうと、階段へと向かった。


 人気の無い書棚に囲まれた空間は、まるで本の森にいるようだ。

 私が探しているのは、王宮の図書館で見つけられなかった『時』を扱う魔術の本。

 殿下が読まれたといっていたのだから、きっとこの中にあるはずだ。

 書物は王宮の図書館と同じ整理方法のようなので、魔術関係の本が集められた棚を見つけてそれらしいタイトルを探していく。

「ない……」

 けれどそれらしいタイトルはなく、諦めかけたところで見覚えのある文字が目に入った。それはおとぎ話で語られる魔術師メルキュールの魔術の実現性を検証するというものだった。あまり期待できそうにないが、他にそれらしい本も無く一応中身を確かめてみることにする。

 本文はタイトルの印象とは裏腹に硬い言葉使いで書かれていた。そのうえ、時間の魔術に関する章が取られ、意外な程にしっかりと論証している。

 しかし、途中まで読んだところで、あまりに衝撃的な内容に息を飲んだ。


 魔術師が自分一人を対象として時を戻す場合、本人の魔力のみを代償とし、巻き戻り後の時間軸に影響は与えない。しかし、他者を対象に含める場合はさらに大きな代償を必要とし、巻き戻り後においても魔術師は代償を負う。巻き戻り後、魔術師は元のように魔術を振るうことはできないだろう。しかし、案ずるなかれ。解決策も準備されている。それは巻き戻した対象者と接触し、さらなる術式を発動させることで解決する。だが、それには――――。


 呼吸を整え、私は最後まで読み進めた。

 とても信じられない内容に目眩さえ感じる。

 この本に書かれた内容が真実なら、私は誰かの意志により時間を巻き戻ったということだ。そして、術式を展開した魔術師は今も代償を払い続けているはず。

 でも、一体、誰がそんなことを?

 私には全く心当たりがない。巻き戻る前、私には魔術師の知り合いなんていなかったのに。

 殿下から声をかけられるまで、私は本を手に持ったまま考え込んでいた。

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