21.婚約披露宴(2)
王族の控え室というだけあり、連れて行かれた部屋はとても見事な物だった。飾られている調度品は一流で、置かれている家具も一目で高級品とわかる美しい物だ。
陛下がいらっしゃることを期待したが、残念ながら姿は見えない。殿下も陛下がいらっしゃるとお考えだったようで、侍従に陛下の所在を尋ねておられる。残念なことに答えは後から直接会場に向かわれるとのことだった。
内心の緊張感が増した。陛下は私達のために気を利かせてくださったのかもしれないけれど、しばらくの間ここで殿下と二人きりだと思うと、飾られている調度品を眺めるどころではない。
殿下に連れられてソファへと向かう。殿下は当然のように私の隣へと座った。
「ジュリア、もう少しこちらへ」
袖が触れあう程近くにいるのに、殿下がなおも私を引き寄せようとする。調度品を眺めるどころではない。
「お待ちください。あまり触れると殿下のお支度が披露する前に崩れてしまいます」
殿下は白のジャケットとシャツを身に着けておられ、タイはネモフィラの青、胸にもネモフィラの花を飾っている。白金色の髪は後ろに流す様に整えてあり、殿下の端正な美しさを際立たせていた。
「そうだな、確かにジュリアの言う通りだ」
殿下は残念そうに続ける。
「ジュリアが私の色を身に着けてくれていると思うと、嬉しくてね」
私を見つめる殿下の瞳に危険な色が灯った。
「早く、ジュリアのすべてを知りたい」
耳元で囁かれて、息を呑む。
「怖がらなくてもいい。今すぐは無理だと私も知っている。だから――」
殿下が身を乗り出し、私はソファの端へと追いつめられる。殿下の薄い唇が重なる間際、控えめなノックの音が響き殿下が残念そうに息を吐いた。
「もう時間か」
殿下の体が離れたことにほっとして思わず自分の体を抱きしめた。今の殿下は一度目の無関心な殿下とは全く違う。本当に同じ人物なのかという位に私への接し方が変わっていた。あの庭園での襲撃事件から変わったというのはわかるが、どうしてこれ程までに違うのか理由はわからなかった。
「さぁ、行こう」
言葉と共に殿下が差し出した腕に手を添えると、貴族達の待つ庭園へと歩き出した。
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申し訳ありませんが明日から数日、少し忙しくなるため更新を休みます。




