16.お父様の命令
王宮から帰宅した翌日。
流石に昨日のことがあったばかりで王太子妃教育は休みとなった。あんなことがあったのだ。今日ぐらいはゆっくりしていいかと思ったけれど、習慣からかいつもと同じ時間に起きてしまった。朝食に行くため支度を頼もうとケイトを呼ぶと、ケイトは困惑した様子で入って来た。
「支度をお願い」
「かしこまりました。それと、お嬢様が起きられたら伝えるよう、侯爵様より伝言をお預かりしております」
言い難そうな様子に、悪い知らせかもしれないと心構えをしてからケイトを促す。
「……なにかしら?」
「本日より、お嬢様はお部屋でお食事をなさるようにと侯爵様より指示を頂いております」
「本日より、ということは、もしかしてこれからずっとということかしら」
「……はい」
申し訳なさそうに俯くケイトに微笑みかける。
「そう。わかったわ。ケイトが気にすることはないのよ」
「お嬢様……! 受け入れてしまわれるのですか?」
「ええ。仕方ないわ」
嫌だと言っても、お父様が聞いてくださるとは思えない。むしろ反抗を理由に、叱責されるだけだろう。
「私も昨日のことは伺っておりますが、被害者のお嬢様が何故このような目に遭わねばならぬのです……」
ケイトが怒ってくれるからか、私はお父様の指示を冷静に受け止められている。
「きっとお父様の考えがあるのよ。私にはケイトが居てくれるから大丈夫」
「ですが……」
「あまり反抗的な態度をとって、ケイトまで離されたくはないわ」
なおも言い募ろうとするケイトにそう言うと、ケイトは渋々口を閉じた。
その日の午後、お父様の執務室に呼ばれた。
「お父様、お呼びと伺いました」
「うむ」
お父様は書類から視線を上げ私を見る。
「お前も予想はついておるだろうが昨日の件についてだ。王宮側で調査をすると言っていたが、犯人が捕まるまで悠長にしておくことはできん。我が家としても対策を取ろうと思う」
何を言われるのだろうか。あまりいい予感はしないものの、私は頷いた。
「残念なことに、王家はエリクとジュリア、どちらが狙われたのかはわからないという見解だ。よって、ジュリア、お前は今後エリクに近づかぬように」
「…………」
黙り込む私に、お父様は続ける。
「別にお前を見放すわけではない。お前は王家に嫁ぐ身。であるならば、お前のことは王家がきっと守ってくださるだろう。だが、エリクはこの侯爵家の跡継ぎなのだ。エリクまでも王家に守ってもらうわけにはいかぬ。我らの手で守るしかないのだ」
もうお父様の中で私は家族とは言えないのだと、お話を聞いていて悟ってしまった。どうしようもない虚無感に、私はまだ心の奥底でお父様に期待していた部分があったのだと悟って泣きたくなる。
「賢いお前ならわかってくれるだろう?」
返事を促すお父様に「かしこまりました」と何とか言葉を絞り出し、部屋へと帰った。