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15.マティアス王子視点

違和感が強くなってしまったので、ジュリアの年齢を十二歳から十四歳に変更しました。

 婚約者が決まった。

 そう聞かされたのは、十四歳の誕生日を迎える少し前だった。

 本当はもう少し早くに決まるはずだったが、王家に取り入りたいという権力志向の強い家同士の駆け引きに、王家に力を付けさせたくない派閥が油を注ぎ、両親はその決着を見定めていたらしい。

 王家としては、それらの争いを収めるだけの力がある家が台頭するでもよし、醜い争いを繰り広げる者らを放ってこの隙に自家を富ませている家でも、どちらでも都合が良かった。

 力ある家ならば、王妃が貴族達の掌握を任せられる。実家の影響力を削る方法など王家には幾通りも伝わっているから、どうとでもなる。もう一方でも、権力を底支えする金がある家は好ましい。地位など、どうせ王家が授けることができるのだ。

 王家存続、安定した治世のためには、王子たる私の結婚も王家存続の手段の一つだった。

 長い水面下での争いに、決着を付けたのは、意外にもそれまでの婚約者争いに無関心を貫いていた家だった。

 身分も問題なく、惜しむらくは婚家に王妃となる娘の後ろ盾になる気がないところだろうか。その分、王家の采配に逆らわない娘を手に入れられる所に両親は魅力を感じたようだ。


 ラバール侯爵令嬢と初めて顔を合わせた印象は「意外」の一言だった。今まで顔を合わせたことのある同じ年頃の少女達から寄せられる媚を含んだ視線はなく、楽にするようにと言っても固い態度は崩れない。猫を被っているのかと思ったが、何度かお茶に招いてみても、ぼろが出る様子はない。

 珍しい、と思った。けれどそこには「恋」などという甘い感情はなく、これから人生を共にする婚約者に下心がないのなら、面倒がなくていいなと思っただけだ。王子という立場への敬意はあるし、隣にいて不快ではない。それだけだった、はず。


 気持ちが傾いたのは、忌々しい王宮の庭での襲撃事件だった。

 王の管理する庭に不詳の輩の侵入を許したなど不名誉でしかない。

 しかもそれが事前に匿名の投書があった上でのこととは信じられない。近衛府からは謝罪を受けたが、投書に関してはお知らせすべきことではなかったとの一点張り。そう思うのならば、事件など未然に防げばいいものを。

 だが、あの事件のおかげで、少しだけラバール侯爵令嬢――ジュリアの美点を知ることが出来たのは、よかったのかもしれない。

 あのように、慈愛溢れる人物とは思わなかった。

 最近まで存在すら知らなかった異母弟を咄嗟に庇うとは。

 母上は私の婚約者という立場をまだわかっていないと言われていたし、私もそれはそう思う。だがそんなことよりも、咄嗟のことだからこそ出る人間性に、彼女の本質を見た気がして心が震えた。

 人は美しい物ほど手に入れたくなる生き物だ。

 いずれはこの国の王となる私ならば、より美しい物を手に入れてしかるべき。貴族という、本質がわかりにくい有象無象を日々相手にするからこそ、宝物を身近に置いて眺めたくなるのが人情と言うものだろう。

「今度の婚約発表の宴が楽しみだ」

 ドレスはこちらで贈るとは伝えてある。今までは興味などなかったが、気が変わった。私の隣に立つに相応しい彼女が一番に輝けるよう、手配せねば。

「ひとまず、今日の見舞いを兼ねて手紙を書くとするか」

 侍従がレターセットの準備を始めるのを眺め、私は今後のことに思いを馳せて目を閉じた。

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