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14.襲撃の説明

 王宮の一室に案内されても、エリクは震えが収まらず私とも手を繋いだままだ。

 客室は広く、大きな窓は城の正門側に面していて、襲撃のあった庭は見えないようになっている。

 ぼんやりと行き来する馬車を眺めていると、ノックの音が響いた。お父様だ。お父様は部屋に入るなり、お継母様に駆け寄った。

「襲われたと聞いたが、怪我は?」

「私は何も。狙われたのは子供達ですわ」

「そうか、無事でよかった」

 お父様がお継母様から離れると私達を一瞥し、「二人共無事で何より」と言うと、エリクを抱きしめた。

「怖かっただろう、もう大丈夫だ」

 私は動揺を隠す様に二人から目を離した。

 傷つかないと言ったら嘘になるが「もうお父様の愛を期待してはいないのだから」と自分に言い聞かせる。

 視線を外した先で、お継母様の唇の端がほんの僅かに上を向いている気がした。けれど、すぐに扇で隠されてしまい確証はない。

 侍女が入ってきて、気分が落ち着くというお茶が並べられていく。

 三人掛けのソファにエリクを挟んでお父様とお継母様が座り、私は一人掛けのソファに座った。

 お父様がお継母様に、庭園で起きたことを聞いている。しばらく待ったところでマティアス殿下がやってきた。一緒に先程話をしていた近衛兵の責任者らしき男性も一緒だ。男性はお父様より年上に見える。

 私達は立ち上がり、頭を下げた。

「楽にしていい」

 顔を上げると、殿下と目が合った。意外なことに、私を見て殿下は表情を緩める。

「怪我がなくてよかった」

「……ありがとうございます」

 心配してくださっていたのだろうか。義務的な婚約者というには今までよりも態度が柔らかくなった気がして、意図がくみ取れない。

 混乱する私を置いて、殿下は表情を引き締めると言った。

「今回の件について、近衛兵長であるボートン侯爵が話を聞きたいそうだ。怖い思いをした直後だとは思うが、協力して欲しい。ラバール侯爵、許可を貰えるな?」

「もちろんでございます」

「では、座って話を聞こう」

 殿下に促され、席に着く。

「まず教えて頂きたいのだが、ラバール侯爵にご家族が狙われるような心当たりがあれば教えて貰いたい」

 ボートン侯爵がお父様を見つめながら言う。

「どう、でしょうか。私自身、侯爵という立場にいますから、それなりに人から羨ましがられる立場です。しかし襲われたのは子供達と聞いています。ですので、もったいなくも娘が殿下の婚約者に決まったことが、原因と思っています」

 お父様は、私のせいで今回の件が起きたと思っているのだ。私は思わずうつむいた。

「もしや、婚約の件で侯爵家に嫌がらせがあったのですか?」

「いいえ、そのような事はありません」

「でしたら、何故そのように思われるのか疑問です。正直、ご令嬢を襲うならば、王宮よりも侯爵家を狙いそうなものです」

 ボートン侯爵が視線鋭くお父様を見つめる。お父様はボートン侯爵には答えず、殿下の方を向く。

「今回の件、王宮側に迅速に対応して頂いたと妻から聞きました。なんでも、襲われたタイミングで近衛兵が助けに入ってくださったとか。王宮側は今回の件を把握しておられたのですか?」

 ボートン侯爵が目線で殿下に問い、殿下が頷く。

「詳しいことまでは把握していませんでした。ただ、先日、庭園で何かが起きるだろうという匿名での投書がありましたので、念のために警備を増やしておりました」

「ですが、殿下もその場にいらっしゃったと聞いています」

 お父様が言うと、殿下は頷いた。

「私が現場にいたのは、ジュリアが家族で庭園に来ると耳に挟んだので、折角なのでご家族にも挨拶をしようと思っただけだ。襲撃が重なるとは、思っていなかった」

「そうですか」

 頷きながらも、お父様は納得していない様子だ。

「それに、そちらの令息とも顔を合わせておきたかった。侯爵家を継がせるために引き取られたのだろう?」

「はい。今後の成績次第の部分もありますが、現在はそのように考えております」

 お父様の答えに、ボートン侯爵が驚いたように目を見開く。

「ラバール侯爵家には優秀なご親族もおられると伺っておりますが、ご親族は納得されたのですか?」

「当主は私ですので」

 お父様の言葉に、ボートン侯爵は言う。

「なら、そちらの可能性もあるということですな」

「なっ、我が家門に限って、そのようなこと……」

「悪しからず。あらゆる可能性を考慮せねばなりませんので」

 黙り込んだまま見つめ合う二人を見て、殿下が言う。

「ひとまず、この件は王宮が責任を持って解明させる。ジュリアには王太子妃教育で通ってもらうが、今後はこのような事が起きないよう対応するから安心して欲しい」

「ありがたく存じます」

 お父様が頭を下げるのに従って、私達も頭を下げる。

「それと、今回の件、目撃者もいて箝口令を敷いても絶対はない。ジュリアに傷が付かぬよう、対外的には訓練という形で発表するつもりだ。何か言われても、そう答えるように」

「かしこまりました」

「では、協力感謝する。帰りは王宮から馬車を出す。使ってくれ」

「ご配慮感謝いたします」

 殿下とボートン侯爵が退出すると、そう待つこと無く馬車の準備が出来たと案内された。馬車停めには護衛付きで王族の紋の入った馬車が用意されている。さすがに護衛付きの、王家の紋が入った馬車を襲う人はいないだろう。

 安心して乗り込んだが、馬車の中には沈黙が満ちていた。

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