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コマンド・ザ・プレジデント 2

「ん? おお、戦闘機のドローンか」

「ただのじゃないんですっ。これっ、人型に変形するそうですっ」

「ほーん、そりゃまた立派なもんだな」


 VTOL戦闘機を模した、小型バイクサイズのドローンを覗き込むように眺めつつ、その周囲を1周するザクロは、廃品から作ったとは思えないクオリティに感心の声を漏らす。


「そ、そ、そう思いますよねっ! 現代においても人型に可変する戦闘機は技術的に困難と言われていて、実際にクサカベ社ですらギミックの強度を実用レベルにできないので、開発計画は頓挫しているんですよっ。ミヤさんのこれはミニチュアとはいえ計算上はその問題をクリアして宇宙空間での高速――」

「まてまてまて、そんないっぺんに言うな!」


 興味を示したと見るやいなや、という勢いでヨルが興奮しながら食い気味にしゃべり始め、その非常に高速かつ滑らかな解説で、ザクロの処理能力を超してしまった。

 

「――はっ。す、すいません……」

「まあ、何となくコイツがやべー代物だっつうのは分かったから構わねぇぞ」


 困惑した様子のザクロを見て、口を押えて謝ったヨルは、気恥ずかしそうに元座っていた艦橋出てすぐ右のフェンス際ベンチに座った。


 喋っている間、活き活きとした目をしていたヨルに、ザクロは口元に僅かな笑みを浮かべつつ、リキッドパイプをくわえながら彼女の隣に座った。


「いやあ、やっぱりボクじゃダメだったよ」


 すると、ミヤコが残念そうな顔で頭頂部を触りながら戻ってきて、期待に応えられず申し訳ない、と続けた。


「ミヤお前、その辺得意中の得意じゃねぇのか?」

「うん。どうもボクは、答えを出す過程を丸ごと飛ばして答えだけ考えてるみたいで、ヨハンナちゃんがかえって混乱してしまってね」

「あー、そうだな。ミヤが良い意味で変態なの忘れてたぜ」

「おや、そうかい? 〝むしろ変態と言われるぐらいを目指しなさい〟、と言われていたから悪い意味であっても嬉しいね!」

「アイツのばあちゃんの語録あんなんばっかだな……」

「ほ、本当におおらかな方だったんでしょうね……」


 失神者が出そうなほど爽やかな笑顔で、頭の高さでガッツポーズするミヤコに、ちょっと呆れて顔をしかめるザクロと引きつった苦笑いをするヨルは、互いの顔を見合わせた。


「早速実演、と行きたい所なんだけれど、ジェットエンジンの実験機は飛ばすのに許可が要るから、今日は無理なんだよね」


 1番に見せたかったんだけれど、とミヤコは腕組みして悔しそうにため息を吐く。


「まあしゃーねぇ。早めに許可して貰えるようにオレからも頼んどく」

「助かるよ」

「クローさんって産業振興局にも顔が利くんですねー」

「利くもなんも、そこの局長のエリーゼさんって艦長の奥さんだからな」

「なるほどっ。そんな偉い方にまで名が知れ渡っているんですねっ」

「……いやまぁ、ガキん頃によく世話になってた、ってだけでな」


 遠くからでも分かる無駄にキラキラした目線をヨルから送られ、ザクロは少したじろぎながら補足する。


「それはそうとミヤ、なんかそれ人型に変形するんだってな。それだけなら行けるんじゃねぇか?」

「ああ、そうだねえ」


 これ以上つっこまれても面倒だ、とばかりにザクロが話題を変更すると、ミヤコはエンジンのハッチを閉め、喜び勇んでゴーグル型モニターを装着した。


「ヨルとクローはボクの後ろに」

「あ、はい」

「おう」


 ミヤコはヨルをそうやって呼び寄せてから、思考操作で人型への変形を指示した。


 すると、機体腹部に折りたたまれていた腕と、機体背部中央が割れて中から逆噴射用エンジンノズルが足裏になる脚が展開し、四つんいから二足で直立する。


 その割れた隙間は、翼が内側に閉じて推進用エンジンノズルと合体し、バックパックの様になる事で塞がれて変形が完了した。


「とまあ、こんな具合さ。欲を言えばもうちょっと速く変形させつつ、かっこよく立たせたいね」

「なるほど……。これで関節部に実用レベルの強度を持たせるなんて、いったいどうやって可能にしたんですかっ?」

「ふふふ。最終的な完成までは企業秘密さ」

「はわ……。残念です」


 シー、と人差し指を立てつつ、ミヤコは大げさに得意そうな様子で微笑み、祖母へ追いつける様にとても頑張った、とだけは伝えておくよ、とすぐに謙遜けんそんを入れた。


「案外これが始まりで、ミヤが戦闘機っつうもんの概念を書き換えたりしてな」


 童心に返った様な少し興奮した表情で、ザクロは自身の背丈より少し高いロボットを見やり、そう言ってミヤコの肩に手を置いた。


「まさか。ボクは新しい物は作れても、新しい概念は生み出せないのさ」


 しかし、ミヤコはどこか冷めた様子で自嘲の笑みを浮かべ、少し諦観の混じった言葉を返すだけだった。


 ややあって。


「やあ、ウチの娘が世話になっているようだね」


 ザクロの通信端末にデューイから電話が掛かってきて、開口一番、申し訳なさげにスキンヘッドの後頭部に触れつつ言う。


「あのなァ、オレの艦は家出娘の一時避難所じゃねぇんだぞ」

「僕が不甲斐ふがいないばっかりに迷惑かけてすまない」

「全くだ。娘に何を贈ったらこんな事になったんだか」

「それがね、ままごとセットなんだ……」

「おいおいおい、ヨハンナもう中坊だぞ。そりゃキレるに決まってんだろ」

「選んでる自分にラリアットしたい気分だ」


 筋肉ムキムキの巨体がしぼんで見える程、下がり眉のデューイは背中を丸めて反省しきりの様子を見せる。


「今度からちゃんと希望を訊くことにするよ……」

「頼むぜ。毎回泊まりに来られんのは流石に困っからよ」

「いや、本当に申し訳ない。今回は娘の気が済むまで預かって貰えるかな?」

「なんでだよ。早く迎えに来いって」

「いやあ、こういうときに父親が行っちゃうと、かえって意固地になるものだよ」

「そういうもんか? というかエリーゼさんは……、仕事で帰ってこられねぇか」

「そうなんだよね……。もちろんタバコ1カートンぐらいのお礼は渡すから」

「……。しゃーねぇな、それで手を打つぜ」

「ありがとうね。後でジェイジェイに送って貰うよ。はあ、ママになんて言われるか……」

「ご愁傷様」


 終始、大統領かつ艦長であるという役職に見合わない、情けない表情をしていたデューイは、謝礼を約束するとこれでもかと気が重そうなため息と共に通話を終わらせた。


「いやあ、父親するっていうのもなかなか大変そうだねぇ」

「ですね……」


 すぐ横で聞いていたヨルとミヤコは、哀愁漂う一児の父・デューイに同情の苦笑をうかべていた。


「しっかし、オレぁ早くに死んじまったから分かんねぇんだが、オヤジに迎えに来られっとんな嫌なもんかね? メアにも訊けねぇし」

「どうなんでしょう……。私はその、父は……。はい……」

「ボクもいないものだと思ってたし答えかねるね。――あの人を父と呼びたくもないし」


 通信端末を腰ベルトのポーチにしまったザクロが特に表情を変えずに訊いた事に、ヨルは強く言いよどみ、ミヤコはやや引きつった表情で珍しく毒混じりに苦笑して答えた。


「――ああいやスマン、んな事を言わせるつもりで言ったんじゃねぇんだ」


 いろいろと無神経が過ぎた、と2人の様子を見たザクロは言い、この通り、と膝に手を突いて頭を下げた。


「べ、別にそんなに嫌とかではないんで、そこまでされなくても……っ」

「気にしないでおくれクロー」

「サンキュ。今度から気ぃつける」

「まあそれはそれとしてだ。ボクもちょっと気にはなるね」

「あ、右に同じです」

「おめえらもか。こういうときにはクレーのばっちゃんだな」


 なにかと経験豊富なクレーこと、入船管理局長のイサミ・クレへ、ザクロは彼女が仕事中のため質問メッセージを送った。


「うわもう来た」


 すると2分もかからないうちに、人によるとは思うが自分は嫌だ、という内容の返事が来た。


「しゃーねぇなぁ。煙草(たばこ)くれるっていうし、付き合ってやっか」


 ため息は混じっているが、まんざらでもなさそうな様子で言ったところで、


「おん? ――なんだよクレーのばっちゃん、電話してくるほど暇なのかよ」

「普通に有給使って休んでんだよっ! まあいつ呼び出されるか分かったもんじゃないけどね」


 ザクロの端末にクレーから電話が掛かってきて、ご挨拶な彼女へ半笑いで怒ってから豪快に笑った。


「おや、ちゃんといるじゃないか」

「なにが?」

「そこのちっちゃい子だよ」

「え、ボク?」

「……あのなばっちゃん、オレとヨルとミヤコは別に家族的なアレじゃねぇから」

「あらやだ。てっきりヨルちゃんがお嫁さんで――」

「どうも。ミヤコだ」

「――ミヤコちゃんが娘なのかと」


 クレーは顔を赤くして両手で口元を隠し、2人へ丁寧に謝罪を入れた。


「お、お嫁……。はわわ……」

「あっはは。ぼ、ボクより若い義母(かあ)さんか。わ、悪く無いねっ」


 ヨルはその勘違いに耳まで真っ赤にして照れ、ミヤコはツボに入ったようにゲラゲラ笑い転げる。


「――まあでも、ずっとどっか寂しそうだったけど、親友が増えてすっかり元気になったみたいで、ばっちゃんは嬉しいよ」

()()()()()()だっつの。用事がないならもう切るぞっ」


 孫を見る祖母の様に、にこやかな視線を送られたザクロは、早口で居心地が悪そうに言うと通話を乱暴に終わらせた。


「全く、ババ臭くなりやがって……」


 わしゃわしゃ、と頭をかきむしったザクロが、リキッドパイプをくわえてぼやく中、


「……」

「……」


 ただのクルーと言われた、ヨルとミヤコは複雑そうに眉を下げていた。

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