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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
82/133

ある天才の奮闘とその限界、彼女が繋いだ未来について 2

「どうだいミヤコ! 高さ2メートルだけだけれど、空飛ぶ円盤で飛ぶ気分は!」

「すごく楽しいよ! おばあちゃんはなんでもできるんだね!」

「いやいや、なんでもは出来ないよ。出来る事が多いだけさ」

「これのスピードってどのくらいでるのー?」

「設計上は時速70キロだね。今は5キロしか出なくしてるけれど」

「やっていーいー?」

「庭じゃせまいから、会社の実験グラウンドでね」

「わーい」

「やったらダメです! 引っくり返ったり壁にぶつかったら危ないでしょ! ほら、浮くのも30センチぐらいにして」

「わかったー。確かにそうだね」

「大丈夫さー。ミヤコなら扱える様に作ったから。しかもあの子は本人の意思で乗っているよ」

「いくらこの子がガジェットを扱う天才でも、車が凶器になることとか、ハンドルを握る責任までは十全に分かっていないでしょう?」

「あっ」

「そうやってお養母(かあ)さまが甘やかすから、冷蔵庫の中身を全部混ぜてスープにする実験をこっそりするんですよ」

「ああ。あれは凄かったね。絶妙な配分で混ざってて美味しいのなんの。この子は開発の天才だよ」

「お、か、あ、さ、ま? そこに直ってください」

「ひえぇ。そんな怖い顔しないでおくれよー」


 円盤から降りて近寄ってきた、4歳のミヤコの頭を撫でながら非常に機嫌良くそう言ったミヤビは、キョウコの目が笑ってない笑みにヘラヘラ笑いながら正座して謝る。





「うわーお、指名手配者管理局か。これは厄介な所に手を出しちゃったねミヤコ」

「ど、どうしよう……?」

「なーに。まだ迷路防壁も突破されてないんだ、まだなんとでもなるさ」

「本当?」

「うん。見ていてごらん? 迷路を無限に生成するウィルスソフトを使って時間を稼いでから、相手から伸びてくる〝枝〟をこうやって1個1個切っていくんだ」

「おばあちゃん、キーボードだけでいいんだ」

「ボクがだけで良いというより、思考操作と物理両方で出来るのはミヤコだけなんだよ」

「なんで、ぼくだけなの?」

「うーん、そうだね。大きくなったら分かるようになるさ。はい、これで相手から追えなくなったよ」

「ありがとう、おばあちゃん……」

「良いって事さ。ところでミヤコはハッキングに興味があるのかな?」

「うん……。でも止めた方がいいのかな?」

「そんな事はないさ。ミヤコがやったのは良くないことだけれど、正しく使えば誰かを助けられるんだよ」

「そうなんだ」

「だから、ボクが『SYU-MI(シユーミ)』の上手な使い方を教えてあげるよ」

「うん!」

「……この事はお母さんには内緒だよ」

「……わかった」

「ただいまー」

「お帰りなさーい」

「おかえり」

「……お養母さま、またなんか悪だくみしてません?」

「そんなことはないよ。ね」

「ないよー」

「ふーん……。まあ、一応信用しますけど」


 危うくクラッカーとして処罰されかけた5歳の孫と、その危機を軽く救った祖母は、そう全力ですっとぼけてキョウコの疑いの眼差しから逃れた。





「ユキノ。ミヤコはもう寝ちゃったかい?」

「はい。なんかお勉強して疲れたみたいで」

「6歳で勉強疲れを経験するなんて、ボクより成長が早いよこの子は」

「キョウコさんも見られたら良かったんですけどね……」

「そうだねぇ。あれからもう1年か……」

「せめて、ちゃんとお別れ出来れば良かったんですけどね」

「大気圏で燃え尽きちゃったからね。ボクがもっと早く大気圏再突入イオンシールドさえ作っていれば……」

「み、ミヤビさんは悪く無いですよっ」

「ありがとう」

「……あっ、ところで、研究室の人からこれを預かってるんですが」

「ああ。例の件についてのだね」

「どうぞ。物理書類にするなんてそんなに重要な事なんですね」

「まあね。どれどれ……。……こ、これはなんなんだ? こんなものが存在するのか……?」

「どうされたんですか? なんかお顔が怖いですよ」

「……どうやら、ボクはとんでもない化物をこの世に放ってしまったらしい」

「……ミヤビさん?」

「こんなものがあってはいけない……。いけないんだ……! 止めなきゃ……」

「あっ、こんな時間にどこへ?」

「ごめんね。ボクは1週間ぐらい帰れないかもしれない」

「えっ?」

「セン……、ユミおばちゃんに諸々《もろもろ》頼んでっ」

「一体何が……?」


 そう言ってミヤビが自宅を飛び出して1週間後。


「おばあちゃーん。ユキノお姉ちゃんとお弁当もって――どうしたの」

「ああ、間に合わなかった……。なんてことだ……。なんてことだ……」


 ミヤコが6歳になったその日に、人類史上最悪の事故である、ヒュウガの圧縮恒星炉暴走事故が発生し、()()()()()()()()()()()()()





 事故の混乱によって地球で勃発した第三次世界大戦は、ミヤビが生み出した技術によっておびただしい数の死傷者を出す地獄の戦いになり、彼女は世界一人を殺した科学者となってしまった。


 戦争を止めるための発明すら、さらに人を殺す結果を招いたミヤビは、コロニーを改造してエクサクラスビーム砲を開発し、

 月の海1つや二大勢力の無人地帯を1つ消滅させる、というもっと凶悪な暴力の威力によって、3年続いた戦争を止めさせるしかなかった。


 その日から17年後。


「ねえミヤコ。いくら天才と言われても……、やっぱり人のなすことには……、限界があるんだね……」


 元からの高齢に過労とストレスで衰弱し、病室のベッドの上で横たわるミヤビは、26歳となったミヤコにそう言い残し、


「おばあちゃん!」

「ミヤビさん!」

「そうか。君まで……、私を置いて逝くのか……」


 その晩年が波乱に満ちた71年の生涯を閉じた。





「〝困ったときに使いなさい〟、ってこれの事なんだね」


 記録媒体の存在が漏れた事によって、『連邦国』に追われたミヤコは、ミヤビの研究所の地下で『連合国』へと逃れるための超小型宇宙船を発見した。


 それはミサイルサイロのようになっていて、ダミーの宇宙船を120機ほど発射するようになっていた。


「約束は守るよ。おばあちゃん」


 ミヤコは拳を強く握ってそう言うと、宇宙船の本体に乗り込み、『連合国』インド亜大陸州へと旅立った。

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