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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
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ある天才の奮闘とその限界、彼女が繋いだ未来について 1

「よし、この子の名前はミヤコだ。〝都〟の様に人々が集い愛されるようになって欲しい、という意味だ」

「良い名前じゃないですか養母かあさん」

「ダマされてはならんぞキョウコくん。こやつはもっともらしい事を言っているが、半分は君の京からの連想だぞきっと」

「あはは。でも半分はそう思ってるから」

「ええっ、本当に半分なんですかっ?」

「冗談であるよ」

「ユキノちゃんは純朴で可愛かわいいねぇ」

「お養母さん方、あんまりユキノお嬢さんをからかわないでくださいよ」

「申し訳ない」

「すまないねぇ」

「なぁんだ……」

「あっ、笑ってますね」

「ほほう、この世に生を受けてすぐ我々に付いてくるとは、大物になるやもしれんなハカセ殿」

「大物どころかボクを超える大天才になるんだよセンセイ氏」

「期待値が凄すぎない? まあ賢そうな顔はしてるけど――」

「あーあ、マアズくんがミヤコくんを泣かしたぞ」

「なんでよ!? ちょっとほっぺ突っついただけじゃないっ」

「お母さん……」

「ユキノまでそんな目で見ないでよ。もー……」

「ちょっと寒いんですよ多分。はい、抱っこするよー。よちよち」

「おお、そうであったか。キョウコくんはさすが我が子のことを良く理解しているな」

「じゃあこの猫体温ぬいぐるみ45号機をあげよう」

「普通にエアコン調整しなさいよ」

「それに、ぬいぐるみを抱っこするには早いぞハカセ殿」

「ありゃあ。じゃ、この自動温度調整クッション27号機を」

「人間にも対応してるけど、それ元はペット用品で開発したじゃないの」

「孫に使おうとするなたわけ」

「それもそうだ。じゃあ、このふわふわ羊雲ビーズクッション試作12号で」

「首が据わってないのにそんな丸っこい物で寝かそうとするな」

「乳児の扱いが分かってないなら黙りなさい」

「その通りだね……。じゃあ最後にこの見守り機能つきベットメリー28号機をだね」

「最後の最後で実用品を出してきたな。こんなでも社長なだけはある」

「ヘンテコアイテム以外もあるんじゃない」

「意外と普通ですね……」

「君たちはボクをなんだと思っているんだい……?」

「ヤバい養母ははですね」

「ちょっとまっておくれ。キョウコが言うと冗談に聞こえないじゃないかー」

「実際ヤバいであろう」

「ヤバいわね」

「わ、私は、正気はまだ保たれていると思いますからっ」

「ユキノちゃんそれあんまり擁護ようごになってないよー……」


 平屋の一軒家のリビング中央に置かれたベビーベッドに寝転がる、生まれたばかりのミヤコの周りには、名前に込められた通りにクセは強いが暖かい人々が集い、その全員から愛されていた。





「ほら、おばあちゃんだよー」

「おばー」

「今、ボクのことおばあちゃんって言ったよねっ?」

「いや、単純に何か声を発しただけではないかね」

「せー」

「おお、センセイと言ったぞ!」

「うん。センセイ氏の言葉をそのまま返すよ」

「なにおう」

「おやおや」

「だー?」

「よろしいならば、〝いないいないばあ〟対決でミヤコくんに勝負を決めて貰おう」

「ふふん、四六時中孫の事を頭の隅で考えているボクに勝てるかな?」

「よし私から行くぞ! いないなーい……ばぁ!」

「……」

「残念ながら見てもいないね。じゃあボクの番だ! いなーいいなーい……ばー!」

「……?」

「貴殿も同じようなものじゃないか。キョトンとしているぞ」

「いやいや、反応しているからボクの勝ちだね」

「〝いないいないばあ〟は笑わせてこそじゃあないか。ノーコンテストだ」

「もーいかー」

「そうそう、もう1回だなミヤコくん」

「今度は秘技・唇返しを見せようじゃないか」

「ほほう。では赤ん坊が泣き止むと定評のある、私のアルカイックスマイルをお見舞いするぞ」

「あのー、私、勉強してるのでお静かにお願いします……」

「おお。すまない……、ってクマが酷いぞユキノくん」

「ユキノちゃん、酷い顔だから少し休んだ方がいいよ?」

「火星連邦大学に合格するって、お母さんと約束したんで……」

「それで身体を壊しては天国のお母様方が泣くぞ」

「君が具合悪くしたら、ボクらが彼女に怒られちゃうから」

「勉強なら私達が教えるからとりあえず少し寝なさい」

「でも、ミヤコちゃんのお世話が……」

「あと1時間もすればキョウコくんは帰ってくるから心配いらないさ」

「ほら、この睡眠導入音楽付きふわふわ羊雲ビーズクッションでお休み」

「ま、まだ大丈――。……」

「眠ったよ。よっぽど疲れていたんだね」

「マアズくんが大事な時期に亡くなって、随分と心に来ているようだし、眠れていないのだろう」


 ミヤコが2歳になってすぐ、ヒュウガ重工の圧縮恒星炉の開発主任であるユキノの母・マアズが正体不明の疾患で亡くなり、ミヤビに引き取られたユキノと共に暮らすようになった。





「しかし、ヒュウガ重工の圧縮恒星炉か……。少し、気になるね」

「貴殿が大元の開発者ではないか。マアズくんの死因に関係あるものが出るのかね」

「うん。恒星を再現する訳だから、もちろん放射線とかが出るね。だけど、ボクが開発したのはそれを遮断する格納容器もセットで、かなり安全に扱えるように設計したんだ」

「ふん? それは妙な話だ。仮にヒュウガ某がそれを省いていたとしたら、彼女に汚染が見られるはずだろう?」

「ああ。でもついさっきシーケンサーの検査結果が出たんだけれど、遺伝子配列がおかしな事にはなっていたんだ」

「ほう」


 泥のように眠る、義理の姉の様なユキノの隣で、何かおぞましいものの存在を気取ったかのごとく、凍り付いた表情をする祖母を3歳のミヤコは静かに見上げていた。

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