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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
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オート・レストラン・ガール 2

「わあ、こんなにいろいろあるんですねっ!」


 様々な種類の機材がズラリと壁いっぱいに並ぶ光景に、ヨルは鼻息も荒く大興奮でパタパタと駆け寄って、その隅々までじっくりと観察しはじめた。


「良かったらお好きな物をどうぞ。私が持ちますから」


 子どもの様にはしゃぐ様子に、自身たっての希望で導入したモネは表情を緩ませてそう提案した。


「そうですかっ。ありがとうございますっ」


 ヨルは素早く頭を下げつつ素直に受け入れると、ヨルは顎に手を当てて、どれにしようか、といった様子で視線を忙しく動かし始めた。


「いやあ、冥利に尽きるとはこの事です」

「ボクも何となく分かりますよ」


 興奮で頬を少し赤らめて右往左往する彼女を、ミヤコとモネは目線を合わせて頷く。


「あっ、クローさ――」


 恰幅かっぷくの良い男性シェフのイラストが描かれた、ホットドッグも提供する機材を発見して、ヨルは勢いよく振り返ったが、


「――は、いらっしゃいませんでしたね……」


 そこにあったのは目隠し用の観葉植物の鉢植えで、彼女は寂しそうに目を伏せる。


「……これ、私がクローさんの提案を断っておけば……っ」

「まあ、彼女はそういうギブだけなのは一番嫌いだから、いいんじゃないかな?」


 先程よりは幾分元気が無くなっているヨルを見て慌てるモネに、おそらくザクロが一番後悔しているだろうし、と言って落ち着かせる。


 結局、ヨルはつゆ蕎麦そばの小盛りを購入し、ミヤコと半分に分けて食べた。


 食べ終わってしばらくすると、時間通りに整備業者の男性作業員がやってきて、ホットスナックの機材の前扉を開いた。


「なるほど、構造自体は結構単純なんですね」


 ヨルは作業員に許可をとってから、自分の通信端末のカメラで写真を撮り、文書作成ソフトで熱心にあれこれとメモを取っていく。


 最上部に大きな炭水化物とタンパク質ソースが左から並び、その右隣に2つの半分ほどのサイズの植物ソースがセットされていて、その下には出力されるトレーが中で重なるケースがある。


 さらにその下にライク品3Dプリンターのヘッドがあり、印刷が終わるとトレーを乗せている部分がエレベーターの様に下がって、腰高の取り出し口に出てくる様になっていた。


 ちなみに最下部には、制御用コンピューターとクレジットの計算機などが詰まった、銀色のボックスが収まっている。


「ありがとうございました。ええっと、それで、トレーも内部で作成するものはないんでしょうか」


 点検作業を終えて、頭に被っていたビニールキャップを外して汗を拭いた作業員へ、ヨルは肝心の『NP-47』の基準を満たすために実質必須な要素のある機材が無いか訊ねる。


「残念ながら、そういう凝った構造の機材はないっすね。たしか……。そうだ、ニシノミヤハラ社が作ってたってのは知ってるっすけど」


 男性作業員は腕を組みつつ目線を上に向けて少し考え、ポン、と拳で手を打って知り得ている情報を言った。


「ああ、そういえば祖母の会社の資料棟にそういうのがあったね」


 じゃあこれで、と作業員が引き上げてから、頭を傾けて考えていた様子のミヤコがそう言って、旧ニシノミヤハラ社のギャラリーに置かれたその写真を見せる。


「現物を是非とも見たいですっ」

「残念だけれど、閉業したときに引き取った人の家が火事になってもう無いんだ」

「そうなんですか……」

「追い打ちをかける様で心苦しいんだけれど、ボクの調べた限りだと出荷した約8千台も、他の製品と共通になってるせいで部品取りに使われて1台も残ってないそうだ」

「なるほど……」


 ヒントを得られる、と喜び勇んだヨルだったが、言いにくそうにミヤコからそう告げられてテンションを下げた。


「でも全て共通の部品、というのはミヤビ博士らしいですね」

「だろう? 〝うっかり爆発するかもしれないし、できるだけ替わりがあった方が良いよね!〟と祖母は言っていたよ」

「爆発するのが前提って良いんでしょうか……?」

「なにがあっても、っていうぐらいの意味なんだろうけどね。爆発は10代まででしなくなったらしいし」

「何かの比喩でなくて本当に爆発してたんですか!?」

「うん」


 祖母を褒められたミヤコは、非常に嬉しそうな目をして得意そうに言うが、どこかぶっ飛んでいるミヤビ博士のあれこれにヨルとモネは少し引いていた。


「それはともかく、大体どんなのだったか思い出したから作れるはずさ」

「えっ、そうなんですかっ。では手助けの方、お願いしますね」

「うん。まあ、ボクの手に余るかもだけれどね」


 困難が予想される中、急に可能性が開けた事で、ヨルは満面の笑みを浮かべてミヤコの両手を握ってそう言い、彼女はいつも通り自信なさげに小さく笑う。


 それから数日かけて、衛生基準を満たす部品をあちこちからかき集め、工業用レンタルスペースでフレームに組み込んでいく。


 そうして、仕上げにミヤコが組み上げた、整備性の高いシステムを搭載したオートレストラン機材をヨルは完成させた。


 衛生局からの検査はただ単に通るだけでなく、第1級製品のお墨付きというオマケが付いてきた。


「ほー、やっぱやりゃあ出来るもんだな」

「はいっ」


 4種類のホットスナックが楽しめる、あえて古そうに加工した、レトロなデザインのそれを見たザクロは、感心の声を漏らしつつ電源に繋がれたそれをまじまじと見つめる。


「じゃ、早速試食と行っても――おん? 艦長じゃねーか。もしもーし?」


 いざ試運転、という段階になって、デューイから電話がかかってきた。


「やあクロー。朗報だ。クサカベ社に特注で作って貰った例の機材が届いだんだ。ヨルちゃんにも伝えてくれ」

「マジかよ……」

「ん?」


 そんなテンションのやや高い彼の電話を受け、機材をしげしげと見つめる、達成感に満ち満ちたヨルの表情を見るザクロは、なんとも言えない苦い顔をするしかなかった。


 1週間後。『NP-47』『中央』区画の一角に、オートレストランが5年振りに復活した。


 忙しい労働者でにぎわう、店舗奥に整然と並ぶ機材の中央には、ヨルが作ったそれが堂々と鎮座していた。

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