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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
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オート・レストラン・ガール 1

「そうですね……。ちょっと考えさせてください」

「おう」

「……。あっ、私、今日はオートレストランの気分なんですが、『NP-47(このおふね)』のどこにあるか教えていただけませんか?」


 ヨルの衣服をあれこれ購入する道中、昼食の時間になって何を食べるかと訊かれ、ヨルはほわほわとした表情でザクロへそう言うが、


「今はねぇぞ」

「えっ」

「あれ、中身はライク品プリンターつっても、結構な維持管理の手間がいってな」

「えっ」

「公衆機材用ライク品のヤツは、衛生基準が厳しいのが原因なんだけどよ」

「ええっ!?」


 衝撃の事実を聞かされ、パカッと開いた口を両手で覆いつつ目をかっぴらいた。


「うう……」


 今日は落ち着いている、『中央』にある公設のカフェテリア隅のテーブルで、悲しみの表情を浮かべるヨルはカレーライスを食べていた。


「しゃーねーだろ。無ぇもんはねぇんだから。これだって同じもん使ってんだぜ」


 その向かいに座ってホットドッグを食べるザクロは、困ったように眉を寄せ、いたたまれない様子でフォローを入れる。


「やあ、どうしたんだい?」

「おう艦長」


 偶然入ってきたデューイ艦長が2人を見付けて近寄ると、ションボリして半泣きしているヨルに気付き、


「……クロー。僕は基本個人の事情には――」

「いやいやいや! オレが悪い訳じゃねぇから!」


 彼はやや険しい表情で諭そうとしたため、ザクロは大焦りで手を払うように振って事情を説明する。


「ああー。ごめんねヨルちゃん。僕が食中毒予防に基準を厳しくしたせいだね」

「いえ……。食品衛生は大事ですから仕方ありませんし……」


 筋骨隆々な肩を丸めて小さく頭を下げたデューイへ、ヨルは気遣うように笑ってそう言う。


「なんとか新しいの仕入れられねぇか艦長」

「うーん、どうだろう。基準を満たすレベルの機材があるかどうか」

「ミヤに調べて貰うか」


 ザクロは通信端末を取りだして、自室で作業中のはずのミヤコへ通話を繋ぐ。


ひゃあ(やあ)ひょっとまっへ(ちょっとまって)ほふれ(おくれ)


 彼女は丁度、甲板端のベンチに座って食事中で、モゴモゴとそう言いながらコーヒーでクッキーバーを飲み下す。


「ふう。で、なんだい?」

「いや、ちょっと調べて欲しいことがあってだな」

「うん」


 ザクロはコロニーの基準で導入できる機材がないかどうか訊ね、ついでに値段も調べる様に頼んだ。


「悪いな」

「すいません、わざわざ……」

「いいよ。どうせもう終わって暇していたところだ」


 ミヤコは割と手間のかかる作業を2つ返事で請け負い、早速データベースを探る。


「私のワガママなのに、なんだか申し訳ないです」

「良いんだよ。僕の仕事はここに集まるみんなが、なるべく希望に沿って暮らせる様にする事だからね」


 ザクロの隣に座ったデューイは、リキッドパイプをくわえながら、口元に笑みを浮かべつつそう言ってウィンクした。


「ところでクロー、例の煙草農園の件は助かったよ。アレが無いせいでジャック君とか警備局員の士気がダダ下がりになってて困っていたんだ」

「良いって事よ。オレぁ自分の利益のためにやってんだからな」

「で、ついでに彼から伝言も預かってるんだけど、〝オレはあんなゲテモノ吸わねえよこの野郎〟だそうだ」

「あれ? そうだっけか」

「どうやら素のようだね……」


 わざとらしさもなくパチパチと瞬きをするザクロに、デューイは苦笑を浮かべつつ、テーブルの端末で大盛りのタコスを注文する。


「店長。今ここに居るお客さんの支払いを全部僕にしといて」

「はいよ」


 そのついでにデューイが大盤振る舞いして、お客全員から感謝の言葉を雨あられとうけていると、ミヤコが調べ上げてきたデータが返ってきた。


「どうだった?」

「無ぇってさ」

「ありゃあ」

「あう……」


 そこに書かれていたのは、ギリギリ満たさないものばかりで、条件を満たす物は1つも無かった。


「これは困ったね。変更するにも色々手順があるし」

「もうこの際、自分で作っちまった方が早そうだな」

「うーん。それはそれで結構難しいんじゃないかな」

「まあそうだな。言ってみただけだ」

「クローさんっ」

「なんだ」

「私やりたいですっ。というかやりますっ」


 腕組みをして小難しい顔をする2人の会話を聞いたヨルは、いつになくやる気に満ちた表情で、胸の前で曲げた腕の両拳を握りしめてそう宣言する。


「……まあ、やってみりゃ良いだろうよ。ミヤがいれば何とでもなるだろうしな」

「はいっ」


 その輝く瞳を眩しそうに見つつ、ザクロはその気合いを後押しした。


「それで、やるにあたって色々構造を勉強しなくちゃですね」

「ならピッタリのとこがあるぜ」

「そうなんですかっ?」


 見せてくれるか分かんねぇからひとまず聞いてみっぞ、と中腰で身を乗り出すヨルへ言って、ザクロは通信端末である人物へ連絡をとった。


「あっ、どうもどうもクサカベさん。ご無沙汰しておりますモネ・ヘビガタニです」


 それはスネーク・バレー社の社長のモネで、SVノブモト社屋管理棟にあるオートレストラン機材の整備を見せるようにザクロへ頼まれ、彼女は嫌な顔1つせずに了解してわざわざ立ち会いまで引き受けた。


 ヨルのついでにミヤコも見学に訪れ、ノブモト社のロゴマークに緻密にカットされた、一見金属のブロックに見えるお土産を貰い、ご満悦の表情を浮かべていた。


「すいません。モネさんもミヤさんもワガママにお付き合いさせて……」

「いえいえ。クローさんに割安で運んで貰ってますから、このくらい大した事じゃないですよ」

「ボクは好きで来てるから心配ご無用さ。ところで、『ロウニン』を引退して、どうしてカウボーイなんだい?」


 お互いに恐縮するヨルとモネを余所に、ミヤコはマイペースにただコスプレしているだけのモネへそう訊く。


「ああ、これは単に西部劇と時代劇が好きっていうだけです」

「なるほど。〝好きであるという事に理由も理屈も必要ない〟だね」

「ニシノミヤハラ博士の格言ですね。お孫さんが書かれた伝記をお読みに?」

「ご購入いただいて感謝するよ」

「えっ、ご本人?」

「うん。ボクが書いたよ」

「ええええっ」


 学生か何かと思って今まで講釈を垂れていたモネは、驚き過ぎて引っくり返り、ビンテージ加工された帽子を後ろに落とした。


「あわわわ、さささサインをッ」

「ボクはただ、祖母の言葉をつなぎ合わせて書いただけなのだけれど、いいのかい?」

「もちろんです。このちょっと汚れてますが物理書籍で……、あっ、ありがとうございます」


 慌てふためきながら立ち上がったモネは、腰のベルトの後ろに付いていたポーチから、ポケットサイズの伝記を取りだして中表紙にサインを貰った。


「そんなお仕事もされてたんですか」

「ユキノさんに頼まれてね。ボクが一番知ってるだろうってことで」

「実際、これまでのものでは明かされなかった、記述の宝庫で大変ありがたかったです」


 秘書を呼んで伝記を預けたモネは、興奮気味で事細かに内容について語ろうとしかけ、


「ああっ。失礼しました。つい脱線を……」


 すんでの所で正気に戻ってオートレストランの社食へと案内する。

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