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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
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アサルト・オブ・スモーカーズ 2

「ご協力感謝します。報酬の方は――」

「現物支給で頼む!」

「アレだけでいいから!」

「証拠品なんで、流石に今すぐって訳にはいかないんですよ……」


 違法転売犯が住むアパートの部屋に、同じ煙草たばこを探していた『ロウニン』の男女3人をくわえて突入し、犯人を失神させる剣幕けんまくで検挙した5人は、部屋の隅に積まれたカートン箱を報酬として管理局員に要求して困らせていた。


「ちっ。しゃーねぇ。とりあえずオレの艦にあるやつ分けてやっから来い」

「おっ、ありがてえ」


 最終的にデューイ艦長に話が行って、現物支給は諦めざるを得なかったため、ザクロは先程バンジから貰った物を分けるために、4人を引き連れてソウルジャズ号へと戻った。


「おや。なんだか賑やかじゃないか」

「お客さんですか?」


 すると、外出していたヨルとミヤコが戻っていて、ドヤドヤと引き連れてきた強面達に目を丸くする。


「――クローお前、こんなグッドルッキング2人をどこでたらし込んできたんだよ」

「――人聞きの悪い事を言うな」

「――あたいあのボーイッシュちゃんをちょっと口説いてもいいか?」

「――やったら煙草やらねぇぞ」


 そんな2人を見て、ちょっと色めき立ってヒソヒソ訊いてくる面々に、ザクロはガンを飛ばして黙らせた。


「お茶とかご用意したほうが良いですか?」

「いい、いい。このゴリラ共にエサをやるな。自分でやらせとけ」

「あ、はい……」


 気の効いたことをしようとするヨルへ、ザクロはデレデレの4人を汚い物を見る目で見ながら、そう言ってやめさせた。


 煙草を2箱ずつ配り終え、早速5人は外から甲板へ上がってそれを吸い、紫煙と共に至福の表情を浮かべる。


「しっかし、何が原因でこんな品薄なんだろなあ」

「貰っといて悪いけど、たったこれっぽっちじゃ3日と持たねえよ……」


 だが、煙を吸う度に短くなっていく煙草を見て、各々どんよりした表情を浮かべてため息を吐く。


「こうなりゃ、農園の方に直に行ってみっか」

「そりゃ良いな」

「だな。なんかトラブってんのかも知れねえし」

「よし。んじゃ、これ吸ったら各自行くぞ」

「そこは乗っけてってくれよ」

「下心むき出しの奴らなんか誰が乗せっかよ。だいたい9人も乗っけたら定員オーバーだっつのバーロー」

「ちぇっ」


 ムサシの発言に一同が同意するが、当然の様に艦橋から乗り込もうとした『ロウニン』達へ、ザクロは出入口に立ち塞がってそれを拒絶した。


「おら。散れ散れ」


 粗雑に追っ払われた『ロウニン』達は、各自の艦に乗って南米大陸西部にある煙草農園へと向かう。


「こりゃまたどういうこった」


 本来ならば忙しく作業員が行き交っているはずの農園は、まるで廃業したかのように人っ子1人見えず、風に乗って砂塵だけが舞っていた。


 鉄の門の手前で呆気にとられて立ち尽くす『ロウニン』5人へ、


「どうやら休業中の様だね。見る限り煙草の葉もしっかり茂っているし」


 農園内に侵入させたドローンなどで得た情報を、ソウルジャズ号の艦橋からミヤコが伝える。


「集団感染でも起きたか?」

「こんな良い感じの気候で?」

「そりゃあ、どこでも食中毒なら何かしらあるだろ」

「住民にでも聞き込めばいいんじゃないの?」

「まあそれが手っ取り早そうだな。ミヤ、地図くれ」

「そういうと思ってもう送っておいたよ」


 無線越しにミヤコへ頼んだ瞬間に、ザクロの端末へ周辺の地図が送られていて、ザクロはそれをその場にいる全員へ転送した。


「クロー、お前かなり良いオペレーション担当を引き入れたもんだな」

「だろ? 整備も出来るしオレぁ大助かりだ」

「いやいや、ボクはただ言われそうなことをやっているだけさ」

「そうやって謙遜すっけど、それが出来るのって案外少ないんだぜ」


 4人がその仕事の速さに感心して、ザクロが頷きながらニヤリと笑って褒め、ミヤコが謙遜する流れを挟んだ後、一同は分担した地区ごとに聞き込みをする。


「誰も何も答えねえな」


 しかし、周辺に住む住人数十名は、箝口かんこう令でも敷かれている様に、農園については何も語ることもなく怯えた様子で家に引っ込んでいった。


「あっ、あの……」

「どしたヨル」

「えっと、もしかして、強盗団とかに町を占拠されてるとか……?」

「おん?」

「ああいえその、昨日読んだ小説にそんなお話があったので……」


 別の住宅へ首を捻りつつ向かっていたザクロへ、ミヤコの隣で様子を見ていたヨルが、おずおずという感じの尻すぼみな声でそう言った。


「その可能性はあるかもしれねぇな。ミヤ、農園のカメラに入れてんよな?」

「今侵入したよ。おや、どうやらヨルの言う通りのようだ」


 すでに防犯カメラシステムへ侵入する用意を調えていたミヤコが、脆弱ぜいじゃくな防壁をサクッと破って侵入し映像を映し、


「おっ、こいつら何人か賞金掛かってんのか」


 写った人物へ同時に顔のスキャンをかけたところ、結構な額の賞金首が12人程ヒットした。


「よーし。おいテメェら。近くにいる知り合い居るだけ呼べ。大捕物だ」


 合計5千8百万クレジットの賞金首達のデータを他の4人へ送り、獰猛どうもうな笑みを浮かべてザクロはそう指示を出した。


 そして――。


「金庫の鍵の在処は吐いたか?」

「いーや。どうも強情な農園主で――」

「オラァ! 死にさらせクソ共が!」

「グワーッ!」

「生け捕り限定だから殺したらダメだろッ! オラ半分死ねッ!」

「ギャアーッ!」


 合計100人も集まった〝ダークナイト・ヘヴィロック〟を愛煙する『ロウニン』達が、夜を待って農園を占拠する強盗団へ襲いかかった。


 後に管理局へまとめて突き出された強盗団は、目を血走らせた野獣の群れに襲われたようだ、と事情聴取に対して怯えながら供述したという。


 数日後。


「いやー、これで安心してヤニを吸えるぜ」


 農園から滞りなく煙草の葉が出荷され、棚に並んだカートン箱1つを抱え、ザクロは上機嫌で帰路についていた。

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