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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第10話 フォー・シャッフルズ
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アサルト・オブ・スモーカーズ 1

「やあやあクロー殿。お土産でござるよ」

「お、サンキュ。丁度切らしてたんだ」


 ひょっこりとソウルジャズ号に現われたバンジが、〝ダークナイト・ヘヴィロック〟、という銘柄の紙巻き煙草たばこを2カートンポンチョの下から出してザクロへ手渡す。


「どこ行ってきたんだ?」

「ちょっと小惑星帯のコロニーへ、でござるな」

「ほーん。高かったろ、こんだけありゃあ」

「そう思うでござろう? 心配ご無用。細かい事は伏せるでござるが、土産に貰った玉手箱の類いでござってな」

「まあ察しは付くけどよ、玉手箱じゃあ、開けたらオレぁババアになっちまうだろ」

「出てくる煙はヤニの特別仕様でござる。安心されよ」


 真っ黒に赤い筆記体でロゴが書かれた箱を小脇に抱え、ついてくるバンジと喋りつつ、ザクロはいそいそとリビングから自室へ移動する。


「切らしてたってストックでござったか。クロー殿にしては珍しい」

「ちょいと袖の下に使ったもんでな」

「なるほど」


 1箱開封して、ガワと同じロゴに左右に白いラインが奔る小箱をジャケットのポケットへ入れ、残りをベッドの宮の上にある棚へと収めた。


 ベッドの縁に腰掛けたザクロは、口にくわえていたリキッドパイプを置いて煙草にとりかえ、


「かーっ、やっぱこのクッソ重めぇのは格別だぜ」


 紫煙を肺いっぱいに吸い込むと、美味そうに目を細めつつ煙をゆっくり吐いた。


「クロー殿は本当に美味そうに吸うでござるなあ」


 カカカ、と笑いながら帽子を脱いで傍らに置いたバンジも、喧嘩けんか煙管ぎせるの先に詰めた刻み葉煙草に着火して吸い口をくわえた。


「オレぁ、食いもんのソースついでに煙草買いに行くつもりなんだが、メアもついてくっか?」

「ではお供するでござるが、ヨル殿はお留守番で良いのでござるか?」

「おう。ミヤと借りガレージで何かしらを作り行っててな、むしろオレが留守番してんだよ」

「ほーう。珍しい事もあるものでござるな。あのさみしがりのクロー殿が――あいたっ」

「言ってる事も顔もうっせぇんだよバーロー」


 よく見ると、ちょっと寂しそうな目をしているザクロへ、バンジは生暖かい目を向けてそう言ったため、大いに渋面するザクロに頭をはたかれた。


「ひどいでござるなー。こんな酷いことをするのはどこの誰でござるか?」

「あー、はいはい」

「ぬう、釣れないでござるなぁ」


 叩かれた辺りを触って半笑いで悲しそうな顔をするバンジは、ザクロから面倒くさそうに極めてドライな対応をされ、不満げに唇を尖らせて煙草の煙を吸う。


「しかしアレだな。お前と2人だけってのも久々じゃねぇか」

「そんな前だっけか」

「そうだった気がすんだけど違うっけか」

「分かんねえよ。別に指折り数える様なもんでもねえし」

「ちげぇねぇ」

「ま、アタシが覚えてる限りじゃ、ここで寝っ転がって腑抜けになってたとき以来だな」

「んだよしっかり覚えてんじゃねぇか」

「今思い出したんだよ」

「あっそ」

「てかお前、毎日毎回ホットドッグばっか食ってんじゃねえよ。栄養偏るぞ」

大丈夫でぇじよぶだ。あれだけでバランス良くなるようにしてっから心配すんな」

「あれそんな高性能型じゃ――あ、ミヤにいじって貰ったか」

「正解」

「マジでなんでも出来るなあいつ……」

「なんでか意地でも本人が認めたがらねぇけどな」


 ベッドの宮側から人1人分ほど間を空けて、ザクロ、バンジの順に並んで座り他愛もない会話をしている内に煙草が燃え尽き、連れだって第1階層へと上がる。


 ちなみにバンジはオフだということで、サングラス以外の仮装を一切置いて、黄色の船内外服だけをインナーの上に着ている。


「あ? なんでいつものだけねぇんだおばちゃん」


 まず真っ先に、馴染みの『中央』の片隅にある煙草の販売店へとやって来たが、〝ダークナイト・ヘヴィロック〟の棚だけがスッカラカンになっていた。


「注文かけたけど卸から在庫がないって言われてねえ。取り扱いやめたとかじゃないんだけどさ」

「あーそ」

「それよりネオ・スペース・ダンディズム買っておくれ。在庫が余って仕方ないんだよ」

「んなクセが強いの要らねえよ。メア買ってやれ」

「アタシは葉煙草しか用事ねえから要らねえよ」



 その代わりに、強烈なメントール入り煙草が山のように売れ残っていて、店主の老年女性が勧めるも2人ともにべもなく断った。


「だってさ」

「ちっ。薄情な連中だよ」


 店主は買ってくれないとわかるやいなや、渋面で愛想もなくそう言い放ち、自分で一箱開けて苦々しい顔で吸い始めた。


「悪いけど他の店回るわ。今度入荷したらたんまり買わせてもらうぜ」

「オマケにこいつもたんまりたのむよ」

「要らねえつってんだろ」


 意地でも押しつけようとする店主に、ザクロは手のひらを突き出しつつ眉間にしわを寄せて拒否した。


「ジャックにでも売りつけろ。アイツはメントール吸うぜ」

「じゃあ紹介ぐらいはしておくれよ」

「へいへい」


 頼むよー! と大声での念押しを背に受けながら、ザクロ達は別の場所にある販売店や自販機を見て回るがどこも同じ状態だった。


「なんでどこ行っても1つだけねぇんだよ」

「全部でこれとなると、こりゃあ確かに妙だな……」


 『北』の公園のベンチで、リキッドパイプをくわえて休憩しながら、その不可解な状況に2人は頭を捻る。


「おっ、クロー。お前、どっかで〝ダークナイト・ヘヴィロック〟売ってるの見なかったか?」

「ムサシじゃねぇか。そりゃこっちが聞きてぇよ」


 バンジが通信端末を出して作業を始める中、偶然通りかかったムサシにそう訊かれ、ザクロはため息交じりにかぶりを振った。


「そっかあ。いやな、火星行ってもガニメデ行っても、あちこちコロニー回ってもひとっつも無んだよ」

「オイオイオイ、なんだぁそりゃ」

「そりゃそうだ。1つも正規販売網に乗ってねえんだからな」


 片肘を突くザクロとその正面で腕組みするムサシへ、端末で調べていた情報をバンジは2人へ知らせる。


「ただ中古品取扱い網には結構あるけどな。全部法外な値段が付いてっけど」

「あんだって?」

「どこのどいつだ?」


 前半の内容で諦めムードになっていた2人は、後半のそれを聞いてにわかに殺気立ち始める。


「『NP-47(ここ)』に滞在してるやつが1人いるな」

「メア、転売価格の適正倍率オーバーしてるよなそれ?」

「ほんのちょっとな」

「了解。今すぐ行ってとっちめてやるぜ!」

「よっしゃ俺もつき合うぜ!」

「お前らオフなんじゃねえのかよ」

「オフだろうと何だろうと悪は見逃せねぇな!」

「おうよ! 俺たちゃ誇り高い『ロウニン』だぜ?」


 気取ったことを言っていた2人だったが、本音の所はどうなんだ、とバンジに半笑いで訊かれ、


「買い占めやがってムカつくから八つ当たりだッ!」


 極めて個人的な理由をすぐ漏らして、バンジから訊いた住所へ2人は突っ走っていった。

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