表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/133

ロウニン・ファンク 5

「……ゲッ。エセ侍」


 宇宙港の駐機場に到着したザクロは、宇宙港施設内へと入ってニトウダを探す中で、3階までの吹き抜け沿いの通路から、奇異の視線を集めつつ1階を歩くモネを発見した。


「また邪魔されたらたまったもんじゃねぇ……」


 ザクロはすぐに頭を引っ込めて、そそくさと併設の商業施設の方へと移動した。


「――見付けた」


 モネに気を取られたせいで、彼女はその後ろから警備員に扮したニトウダが付けてきている事に気が付かなかった。


「チッ。こりゃ逃げられたか……?」


 そうとも知らずに、何度も変装を変えて後ろを付けてくる、見付からない相手を探して右往左往したザクロは、3階の奥まった一角に追いやられた喫煙所で舌打ちする。


「ミヤコに連絡を……って圏外かよ。いくら喫煙者つってもここまで扱い悪いとかねーぞ……」


 そこは電波が通りにくい構造の建物かつ、増幅装置がケチられていて圏外になっていた。


「……」


 丁度1本吸い終わって灰皿に潰したところで、俯き加減で腰に手を当てる清掃作業員が無言で入ってきて軽く会釈する。


「お、すまねぇなおっちゃん。今出て――」


 目の前の男がニトウダだと気付かず、横を通り抜けようとしたザクロに、ニトウダは後ろ手に持っていた暴徒鎮圧用の無力化ガススプレーを吹きかけた。


 不意打ちに引っかかり、ザクロは意識を失って膝から床に倒れ込んだ。


 ニトウダは喫煙所前に調整中の張り紙をして鍵をかけ、ザクロを転がして仰向けにすると、外から見えない部屋の奥へ運ぶ。


 念のためもう一度スプレーをかけた後、ザクロの衣服を漁って見える範囲にある武器の類いを全て取り上げ、さらに船内外服とジャケットを脱がせて完全に武装解除した。


 それから、ザクロが使っているベルト型拘束具で彼女の手首足首と膝上を縛り、口に使ってない雑巾を詰めてガムテープで口を塞いだ。


 仕上げにタオルを目に巻いたザクロを荷物の様に抱え、清掃カートのゴミ箱に入れると何食わぬ顔で立ち去る。


 誰にも気付かれないまま、地下駐車場にエレベーターで降り、本物の清掃作業員が縛ってある大型バンにカートを積み込んだところで、


「あいや! あいや、あいや、あいや! 待たれい!」


 今度は最初に陣笠を投げ捨てたモネと遭遇した。


「貴様、ネット放火魔のニトウダであるな?」

「爆弾魔だ! なんだそのしょうも無い犯罪は! で、どうしてここが分かった!?」

「んー。何と言うべきだろうか……。――そう、『ロウニン』の勘だろうよ」

「はぁ?」


 ウザいほどのドヤ顔で言うモネに、ニトウダは梅干しの様に顔をしかめ、


「お前なんかに関わってたまるか! 頭がおかしくなる!」


 人質にするつもりだった2人を放棄して、厄介な変人から一目散に逃げた。


「ぬう、口上すら上げさせてもらえぬとはなあ」


 モネはニトウダが逃げていった先と、近くで倒れている作業員を交互に見やり、ほぼ即決で介抱を優先した。


「もし? 生きて……はいるか」


 ぐるぐる巻きのガムテープを切ってから、駐車場にいたロボ馬から野宿に使うシートを出して敷き、作業員を横たえて自発呼吸のチェックを行う。


「さて、爆弾魔というからには、あの車両にも何かしら仕掛けてある、か?」


 特に細工はされていないが、真ん中に清掃カートが積まれたバンへジワジワ接近してブービートラップを探す。


「ヒッ」


 後もう少しで車体に手が、というタイミングで、無力化ガスの昏睡(こんすい)から目を覚ましたザクロが力の限り叫んで暴れ始めた。


 スロープが片づけられていなかったため、カートが暴れた勢いでバンから滑り落ちて、腰を抜かしていたモネへ襲いかかる。


「えっ、ちょっちょっちょっ! うわああああッ!」


 四足歩行で必死に真っ直ぐ逃げ、1人アクション映画になっていたモネは、


「あっ、横に逃げれば良いんだ!」


 スッと冷静になって斜め前方向へ転がって避けた。


 カートはそのまましばらく進み、近くの柱に衝突して止まった。


 中のザクロは身動きも取れないまま、シェイクされたせいでカエルが潰れたような声が出た。


「ンガーッ!」


 数秒ほど沈黙が流れた後、ザクロが自力で起き上がってプラ製ゴミ箱の蓋を破壊した。


「ぐ、ふ……」


 しかし手足がまともに使えず、ガスのせいでまだ力が抜けるのと相まって、なすすべもなく転げ落ちてしまった。


「あれ、マツダイラさん? 今外します」


 なんとか拘束を解こうと暴れているザクロへ駆け寄り、モネは手足に巻き付いているベルトを外した。


「――の野郎ォ! 絶対(ぜつてえ)ぶち殺すッ!」


 自由になった手で唾液をたっぷり吸った雑巾を抜いたザクロは、もはや閻魔(えんま)そのものの怒り顔でブチ切れてそれを床にたたき付けた。


 ややあって。


「おい、大丈夫か」


 モネから連絡を受け、サングラス以外の仮装を一切無くした格好のバンジがブルーテイルですっ飛んできて、例の喫煙室にいるザクロたちの元へ駆けつけた。


「……一応な」


 良いようにされてしまったザクロは、インナーの上からジャケットを羽織った姿で、顔を伏せて部屋の三方にあるベンチの左隅で膝を抱えていた。


「えっ、誰?」

「お前こそなんだその喋り……。じゃねえ、ヤツは?」

「取り逃がしたので……。すいません……」

「まあ気にすんな。捕縛を優先してねえならアタシが怒る理由は無え」


 むしろ感謝してえぐらいだ、と言いながら、バンジは小脇に抱えていた黒い替えの船内外服をザクロに渡した。


「じゃあ、私はこれで……」


 仲間が来たのを見届けたモネは、ザクロの失態は見なかった事にする、と宣言してそそくさと去って行った。


「アイツ、割と引き際は心得てるし、普段の言動と違って気持ちの良いヤツなんじゃねえか?」

「……」

「おい、ザクロ」

「……」

「……何されたかは訊かねえが、手を引いたって良いんだぜ。広域宇宙警察に任せるって手もある」

「そんなわけに行くかよ。ヤツに終生〝(とら)われのヒロイン〟扱いされるなんざ、死んでもご免こうむる」


 弱っている様に見えるザクロへ、妥協策を提案したバンジだったが、それに対して顔を上げてそう答えた彼女の目は、血に飢えた猛獣の様にギラついていた。


「そう言うだろうと思ってたぜ。目に物を見せてやろうじゃねえか」

「おう」


 闘志が折れていない事を確認し、バンジはニヤリと笑って拳をザクロの目の前へおもむろに突き出し、彼女はそれに拳を合わせた。





 一旦、ソウルジャズ号に戻るために、ザクロ達が駐機場にやって来ると、駐機枠ギリギリサイズの小型輸送艇が、フライフィッシュⅡの隣に駐まっていた。


「スネーク・バレー……。ノブモトの工場をかっぱらった所じゃねぇか」

「かっぱらったじゃなくて買収な。企業として機能してねえのを潰さねえで建て直したんだから恩人だろ」

「ヨシの姐御(あねご)の積み上げた技術(もん)にタダ乗りしてんだ、かっぱらったと同じだろ」

「お前まだ〝第3工場〟にされたの根に持ってんのか」

「そっちじゃねぇ。純正パーツを軒並み廃盤にされた事に、だ」


 誰も乗っていないそれを、ザクロは睨み付けながら悪態をつき、フライフィッシュⅡこと〝ノブモトSF-22〟に乗り込み、ブルーテイルに先んじて()()()に舞い上がった。


 2機が居なくなってから少し経った頃、箱形の輸送艇の後ろからモネが顔を覗かせた。


 ロボ馬を台車に乗せる作業を社員にやって貰っていて、偶然ザクロの不満を耳にしていたモネは、


「そうか。元のファンならそう思うよね……」


 口元に手を当てつつ目を見開いてそうつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ