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ノー・ディスク・ア・コンピュータ 2

「ところで、ミヤさんみたいに同時に別々の操作をするのって、私にも出来ますかね」

「どうだろう。やってやれない事も無いかもしれないよ」

「でしたら、お掃除終わってからお借りしてもいいですか?」

「うん。今日はもう特に使う用事ないしね」


 掃除機を押して部屋を出る間際、ヨルは振り返ってミヤコへ頼むと、彼女は特に考える間もなく了承した。


 2階層のリビングと自分の船室を掃除しただけのため、時間的には数十分で終わり、ヨルはストレッチ中だったミヤコの船室へとやってきた。


「専用機って、なんか格好いいですよね」


 ミヤコの机の椅子を借りて座るヨルは、興奮を隠しきれない様子で、手にしているミヤコのゴーグルをまじまじと眺める。


「分かる分かる。まあ、ボクは量産機も好きだけれど」

「判を押した様に同じ物を作るのもまた、工業の神髄ですからねえ」

「いやあ、ヨルとは本当話が合うよ」


 ヨルがゴーグルを装着すると、すかさず機嫌がすこぶる良いミヤコが電源を入れ、ニシノミヤハラ社のロゴマークが表示されるが、


「そういえばバンジ氏、今日姿を見ないね」

「メアさんは、確か本業で『南』区画の方に――あれれ……?」

「どうしたんだい?」

「なんか画面が凄くグニャ――」

「えっ、ちょっ」


 〝デスクトップ〟が表示された瞬間、ヨルの瞳がフラフラとし始め、そのまま支えを失った様にぐったりしてしまった。


「おう、ここにいたか。帰っ――どうしたヨルッ!?」


 即座にゴーグルを外すと、ヨルは顔面蒼白状態で気絶していて、ミヤコがパニック状態になって動けないでいると、丁度帰ってきたザクロが血相を変えて飛んできた。


「なにがあった!」

「こ、これを着けたら急にそんな風に……」

「――お前……、いや、今はどうでも良いッ」


 脂汗でじっとりと額が濡れ、たどたどしい様子で話すミヤコへ、ザクロは怒鳴りそうになったが、それを抑えて『NP-47』救急部に緊急通報した。


 数分後、ドタバタと水色の船内服を着た救急隊がやって来て、簡易式装置でバイタルを計りながら担架でヨルを搬送していった。


 ザクロも一緒について行ったため、ソウルジャズ号艦内には、呆然としてベッドに座っているミヤコだけが残された。



                    *



 診断は、一気に脳へ情報が流れ込んだため起きた、一時的なストレス性の失神で、バイタルや脳波などの数字には全く異常が見られず、ヨルは検査後に目も覚めた。


「なんかすいません……。ご迷惑を……」

「万が一って事もあっからな。なんも無えなら無えでいいんだよ」


 ヨルは気分も悪くはなかったが、精密検査のためとりあえず夕方の時間まで病院にいる事となった。


「あとそれとっ、ミヤさんは攻めないであげてくださいっ。本当に善意での事ですからっ。私が頼んだからなのでっ。ミヤさんもショックでしょうしっ」


 下がり眉のヨルがザクロの腕をひしと掴み、至近距離で見上げて頼み込んだ。


「わーったわーった。とりあえず大人しく座っててくれ」


 引きずられてでも離しそうにない勢いに、ザクロは反論すらせずに承諾した。



 ややあって。


「あの……」

「とりあえずしばらく話しかけないでくれ」

「でもその……」

「言ったから、な?」

「うん……」


 ソウルジャズ号に帰ってきたザクロは、ミヤコを締め出しまではしなかったが、かなり不機嫌そうに煙草10箱ほどを持って、第1階層の艦橋に籠もってしまった。


 閉ざされた隔壁扉を見て、自分の脚を抱きしめていたミヤコは、通信端末以外は何も持たずにふらりとソウルジャズ号から出て行った。


 居住区1階層を当てもなく歩いていると、ミヤコはいつの間にか、配管と機械音まみれの『南』区画までやって来ていた。


「迷った……。あれ?」


 すかさず、いつもの様に額のゴーグルを下ろそうとしたミヤコだが、その手が空振って、やっと自分が常備している機材を置き忘れている事に気が付いた。


「端末は……、圏外か。うーん……」


 通路の壁に貼ってある蛍光テープ以外は、前後左右がほとんど同じ景色で、ミヤコはしかめ面をして腕を組んだ。


「とりあえず、縁まで行けば何とかなるかな」


 しばし考え込んでいたミヤコはそうつぶやくと、正面の蛍光ピンクのテープが貼られた通路をひたすら直進していった。


「ここは……。あっ」


 その結果たどり着いたのは、ザクロがいつも通っている、旧後部艦橋を転用した最果ての喫煙所だった。


「おや、ミヤ殿ではござらんか」


 中に入ると、いつものポンチョに丸サングラス、頭にターバン姿の怪しい芸術家である、本名メア・フジエダことバンジがおにぎりを食べようとしていた。


「申し訳ない、もう1つしか無いのでござるよ」


 ミヤコのいかにもヘナヘナした雰囲気から、断腸の思い、といった様子でバンジは梅おにぎりを半分に割いた。


「あ、いや。お腹はへって……ないから」

「これは失敬」


 いつもの様に怪しい風体から、いつも通り底抜けに明るい挙動を見せるバンジに、ミヤコは緊張が緩んで少し中腰気味になり深々とため息を吐いた。


「しかし、クロー殿と一緒でないとは、何かあったようでござるな」

「流石メア氏だね」

「む。なにやら相当堪えている様子で」


 普段はちゃんと芸名で呼ぶミヤコが、本名で呼んできた様子を見て、なにか深刻な事態が発生した事を察し、喫煙室中央のベンチに座るよう促した。

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