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ガニメデ恋情 2

「ええっと……、これは……」


 2階層手前にある、倉庫を1つ潰したミヤコの自室で、ヨルは形見の記憶装置に収められた、ミヤコ曰く『ミヤビ文書』をモニターで閲覧する。


「ちゃんと整理されていないんだよね。思いついたものを作る事より先は、全然興味が無かったのかもしれないけれど。祖母が言うには〝統制されたカオス〟なんだってさ」

「なるほど」


 しかしそれは、ファイルや文書の内容内ですらとにかく順番が滅茶苦茶で、ヨルは完全にちんぷんかんぷんになっていた。


「ちなみにこの電子レンジみたいなものは何に使うんですか?」

「これは野球のグローブを柔らかくする装置だね」

「この筒は何ですか?」

「これは確か池の水を凍らせる装置だね」

「……この透明な箱は?」

「これは、箱の中身はなんだろな、をするための装置だね」

「……この、ええっと……」

「それは椎茸しいたけ自動栽培装置バージョン32だね」


 ミヤコに解説してもらったヨルだが、その微妙な使い道しかない道具の数々にどう言ったらいいのか困惑する。


「祖母が言うには、こういう物の積み重ねが偉大な発明を生むんだそうだ」

「説得力がありますね……」

「だろう? ボクもそう思うよ。やっぱり天才は無駄に見える事にでも努力を惜しまないから天才なんだよね。ボクはまだまだだよ」


 非常に得意満面な様子でニッコリと笑い、ミヤコは自分の事を謙遜して祖母を称賛した。


「もういいかい?」

「あ、はい……。凄すぎて参考にならない感じですね……」

「そうなんだよ。解読と応用にはボクも大分苦労していてね。基礎的な技術は一緒だから何とかなっているけれど」


 ミヤコは腕をさすってそう言いつつ、先程のドローンのデータをその発注先にまとめて送った。


「お、返ってきた」


 数分後にその返答が返ってきて、文字だけですら非常に興奮した様子が伝わる程に大絶賛されていた。


「どうでした?」

「満足してもらえたようだ。今すぐにでも欲しいから、ガニメデ第1市まで持ってきて欲しいと言われたよ」

「そんなに」

「よし、船長に相談しないとね」


 善は急げ、とミヤコが第3階層のリビングへと昇ると、ちょうどザクロがリキッドパイプをくわえて、掃除機を使って掃除しているところだった。


「おー、掃除終わったらいいぜ。オレもちょうどそこに用事があっからな」

「そうかい。それはありがたい」


 艦を出してもらえないかと相談すると、ザクロは嫌な顔1つせずにそう言って掃除を再開する。


「何かお手伝いしましょうかっ?」

「んや。もうほとんど終わったから要らねぇよ」

「そうですか……」

「まあ手持ち無沙汰もアレだろ? 艦橋の窓でも拭いといてくれ」

「分かりましたっ」


 少しシュンとしたヨルを見て、ザクロは後回しにしていた窓掃除を頼んだ。


「頑張りますね!」

「足滑らせて転ぶなよ」

「あ、はいっ」


 瞬時に目の輝きが戻るどころかかなり強くなって、シャカシャカと動き出したヨルに忠告をしたが、


「うわっ」

「足元見て歩けよー」

「はい……」


 階段の高さを一つ半ほど間違えて脚を引っかけ、ヨルは危うく転倒しかけるところだった。


 掃除機を収納して艦橋に上がると、ヨルが熱心に正面窓をワイパーと雑巾で掃除をしていた。


 急かすのもなんだから、とザクロは声を掛けずに、後ろの窓から甲板へと出て煙草を1本くわえる。


 着火しようとしたところで、外の無重力区画とのシャッターが開き、縦に長くしたゲームパッドの形に近い小型機が入ってきて甲板に着陸して風防を開く。


「なあザクロ、ちょっとガニメデ第1市まで出してもらえるか」


 コクピットにいたのは、バンジ・サンダー・ストラックことメア・フジエダで、黄色いパイロットスーツ姿の彼女の声は、本来の落ち着いた少し低いものだった。


「おう。どうせ用事があるからいいけどよ。――何焦ってんだメア?」

「別に、なんでもねえよ」

「オレが無理っつったらブルーテイル(そのこぶね)で行くつもりだったろ」

「……そこまで無謀じゃないっての」


 バンジははぐらかそうとするが、いつも通りの奇抜な服装でもふざけた口調でもない上、長年付き合いのあるザクロにはお見通しだった。


「まあ、何があんのか知らねぇけど、お手上げになるめえに相談しろよ」

「そこは〝なったら〟じゃないのか?」

めえって言っとかねえと、おめえ首が回らなくなってから泣きついてくるだろ」

「ガキの頃と一緒にしてんじゃないよ」

「そりゃスマンな。ひとまず格納庫入れっから前で待ってろ」


 ごまかすため、ザクロに軽く突っかかったバンジは、彼女の指示に従ってブルーテイルを格納庫隔壁の前に着陸させた。


 ザクロはハンドアームでブルーテイルを持ち上げて引き込み、フライフィッシュⅡの上にある固定具で両翼をロックした。


「2つも入るんですね」

「上は小せぇのだけだけどな」

「なるほど」


 窓拭きを終わらせたヨルは、モニターに映る格納庫内を見て感心した様子でそう言った。


「……あれ、この方どなたですか?」


 モニターに固定を目視で確認しているバンジを見て、ヨルは首を傾げてザクロへ訊ねる。


「メアだ」

「あ、バンジさんでしたか……」

「分かんねぇ様に普段は変な格好してんだ。むしろ分かんねぇ方がアイツぁ喜ぶ」


 本人がいないとはいえ、知らない人扱いをした事に申し訳なさげにしているヨルに、肩をポンポンと触ってそう言った。


 バンジが格納庫内から第2階層のリビングに直接入った事を確認し、ザクロはコンソールを操作して隔壁を閉めた。


「ミヤ、出るから上がってこい」

「了解。ちょっと待って貰えるかい?」

「どうせもうしばらくかかるから構わねぇよ」


 第3階層の作業部屋にいるミヤコへ内線を使ってそう呼びかけると、ザクロは操縦席に座ってエンジンの起動を開始する。


 ややあって。ミヤコが艦橋に来たところでエンジンが始動し、発艦シークエンスの後に無重力区間へと艦を出した。

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