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クラッキング・ウイズ・メイド 1

「さァーて賞金稼ぎの皆さんお待ちかね! 『ザ・ショット』の時間だよォ!」

「今日もホットな賞金首の情報をお届けするわ!」


 朝のニュース番組が終わった直後、安っぽい銃声と共にカントリー風の音楽がいかにもな書き割りと共に流れ、カウボーイとカウガールな衣装の男女2人組が、どうにもわざとらしい口振りでそう言いながら現われた。


「――あっ、ケチャップが」

「あんがと……」

「ふぅむ……」

「今日も元気でござるな」


 提供バックで流れる無駄に陽気な音楽が、朝のソウルジャズ号の2階層リビングに流れるが、ちゃんと見ているのはテレビの正面にスツールで陣取るバンジ1人だった。


 その他の3人は、朝に弱いザクロが寝ぼけ眼でホットドッグをもしゃもしゃ食べ、隣に座るヨルがその顔に付いたケチャップを拭き、はす向かいの1人がけソファーに座るミヤコは完全栄養食クッキーバーを片手に工学系の論文を読んでいた。


「やあメアリー!」

「はぁいジョン!」

「今日はビッグでホットな情報を持ってきたんだ!」

「わぁ素敵! 一体どんな賞金首なの?」

「気になるだろう? それはコイツさ!」

「待ってジョン! どうして顔だけ似顔絵なの? メイド服は写っているのに」

「彼女は『コスモメイド』! その道では有名なクラッカーなのさ!」

「ああ、なるほど! つまりクラッキングされてデータが無いのね!」

「その通り!」

「でも手配の罪状は連続殺人なの?」

「クラッキングは取締局の管轄外だからね!」

「いっけない! そうだったわね!」

「HAHAHA! ところでメアリー、殺人鬼シリアルキラーにしては人数が少なくて高額だとは思わないかい?」

「3人で7千400万クレジットは破格ね!」

「そりゃそうさ! この殺された3人、実は全員大企業の役員なんだ! その上彼女、とんでもないクラッキング技術で並のハッカーじゃお手上げときたもんだ!」

「きゃー! それは納得だわ!」


 無駄に高いテンションで喋り続けて、いつも通り話の進みが鈍い様子に、


「やかましい……」


 8割方目が覚めたザクロは渋い顔をしてポツリとつぶやいた。


「そして彼女の得物は高周波カタナブレード! これでスパスパッとぶつ切りにしちゃうんだ! 怖いね!」

「わーお! それじゃ相当な腕利きじゃないと危ないわね!」

「その通りさメアリー! ちなみに区分は生死を問わない(デツト・オア・アライブ)だ!」

「勇気ある賞金稼ぎの皆さんはレッツトライよ!」

「じゃあ今日はこの辺りで!」

「バァイ!」

「『ザ・ショット』!」


 朝から流すにはやたらめったら賑やかな番組が終わり、ナレーションベースの便利掃除グッズの通信販売番組が始まった。


「いやあ、いつ以来の『名前付き(ネームド)』でござろうか?」


 座ったままくるっと回り、後ろにいる3人にバンジが話を振るが、


「あ?」

「どうしました?」

「ごめんよ。なんの話だい?」


 彼女らは番組の音声すら全く聞いていなかったため、バンジは一から説明する羽目になった。


「ほーん。どんなヤツなんだそいつ」


 コーヒーを飲んで完全に目が覚めたザクロは、腕組みをしながら長ソファーの背もたれに半身を預けてバンジに訊く。


「うむ、ではこちらをご覧あれ」


 彼女はそう言うと、天然物で作った青汁を紹介していたテレビを入力モードに切り替え、自分の端末画面をそこに表示した。


 『コスモメイド』ことロザリアは、元は資産家の女性シャルロット・バルリエの家に住み込み勤務するメイドの少女だったが、主人のシャルロットは10年ほど前に何者かに暗殺されたと見られ、ロザリア自身も一度行方不明になった。


 しかし、この数ヶ月前に突如としてメイド服をまとって現われ、クラッキング技術と剣技で立て続けに会社経営者の男女3人を恐らく復讐として殺害していると見られる。


 という情報を見ながら、


「今日日、刀でカチコミかけて親分の仇討あだうちちたぁ驚いた。時代劇じゃあるめぇに」

「どちらかと言えばB級アクション映画ってところかな?」

「ああそうか。時代劇にメイド服なんか出てこねえな」

「しかし、なかなか絵になりそうな取り合わせだね。ちょっと不謹慎だけれど」

「オレ達ぁ不謹慎でメシ食ってんだ。今更だろミヤ」

「うん。それもそうだ」


 ザクロとミヤコは話を脱線させる。


「で、わざわざ話すってこたぁ、なんかそいつの居場所でも掴んでんのか?」

「いやあ、何も」

「テレビで見たから話題にしただけかな?」

「うむ」

「なんだよ」

「しかし、もっと高額な案件はつかんできたのでござるよ」


 バンジは少し声を潜め、ポンチョの中からアナログ文書を取りだしてローテーブルに置く。


「額は2億でござる」

「に、2億……」

「へえ、これは相当なワルと見た」

「どれどれ?」


 指を2本立ててそう言うバンジが広げた、5枚ほどの文書を眺めるヨル、ミヤコ、ザクロ3人だが、


「20年前ちょっとぐれぇまで、ライド情――」


 口に出して読んでいたザクロの顔は、ライド情報通信社、という社名を見た瞬間、露骨に強くしかめられた。


「クローさん……?」

「……」


 いち早く表情の変化に気が付いたヨルがザクロの顔を見上げるも、彼女は何も言うことなく艦橋へと昇っていってしまった。


「あ――」

「ヨル殿。1人にしてあげる事も時には必要なのでござるよ」

「そう、ですか……」


 とっさに追いかけようとしたヨルの前に立ち塞がるバンジは、痛恨の極み、といった表情でかぶりを振ってそう彼女を制止した。


「ライド情報通信社……?」


 その後ろで、ミヤコが記憶の端に覚えがあるその名前を口に出す。

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