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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第16話 バースデーを歌って
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ギフト・フォーユー 2

 もうどうしたら良いんだ、とアリエルが頭を抱えていると、


「――玩具も買うのか?」

「――そうそう。というかこれがメインだよ」

「ほー、結構するもんだな……」

「そこは大丈夫。お小遣いとか家庭内バイトで貯めたお金があるから」


 2列隣をザクロとヨハンナが通過し、メアとアリエルは口を押さえて息を潜める。


「……とっととずらかった方が良さそうだな」

「……うん」


 2人は小声でそう言い合うと、低い姿勢でそそくさと玩具売り場を離れた。


「さっきからアイツらなにチョロチョロしてんだか」

「多分、なんか欲しい玩具でもあったんじゃない?」

「そうか」


 怪訝けげんそうに腕を組むザクロと、察した様子で笑みをこらえて頷いたヨハンナが、商品棚から顔を出してその後ろ姿を見送っていた。


 ややあって。

 

「なんか……、なんかねえもんかな……」

「航空機のパーツはって思ったけど、ザクロは性能以外にこだわりないもんね……」

「もう決まらねえし、煙草で良いんじゃね?」

「それはちょいちょいあげてるから特別感ないじゃん?」


 食品まで幅を広げ、1階の専門店街を回って検討を重ねるがピンとくる物がなく、2人は休憩がてら外の歩道に面するファミレスで、3時のおやつを食べていた。


「――ちょっと思ったんだけどよ、〝物〟にこだわるからだめなんじゃねえの?」


 メニュー画像の2倍ぐらいある、ティラミスを食べていたスプーンでアリエルを指しながら、メアは伏せ気味だった顔を上げてそう言う。


 ちなみにアリエルは筋肉の為に、と甘い物ではなく上半分の殻が切り取られ、スプーンで掬う方式でゆで卵を食べていた。


「と、いうと?」

「アイツ、レイのこと話すときって、大体は思い出の物じゃなくて場所だろ?」

「言われてみれば」

「だから、アイツに贈るべきなのは、楽しい思い出なんじゃねえかって思ってな」

「でも問題は、今までの哀しさを超える何かが見当付かないことだよね」

「それなんだよな……」


 両者がため息を吐いて再び停滞しかかったが、


「……いや、そんなこと考えてんのがそもそもの間違いじゃねえのか? そんなん関係なく楽しめそうな感じで良いだろ」


 メアは何度かかぶりを振ってそう言い、やっと話が前に進んだ。


「そっか。よし、じゃあ候補絞ってケーさんに決めて貰おう」

「おいそこで猫の手を借りてどうすんだ」

「ケーさんの腕は黄金だから……!」

「黒猫の単なる前足じゃねーか」

「そうは言うけど、ケットシーさんの判断は一番良いところによく着地するからさー」

「あー、はいはい」


 力強く頷いたアリエルだったが、最終的な判断をケットシーに委ねようとして、メアに頭が痛そうな顔をされて呆れられた。


 ケットシーの信憑性は置いておいて、2人は一度ソウルジャズ号に戻った。


「どうだい。あのこの世の物とは思えない匂いが消えたろう?」

「さっきのがきつすぎて、鼻が利かないのでわかりません……」

「ありゃ」

「何やってたんだ?」

「や。消臭ドローンの実験さ。これでイベントホール内の悪臭をなくして快適にできるそうだ」

「すごいとは思うんですけれど、イベントホールでいつ使うんでしょうか……?」

「そりゃあ、風呂キャ――いてっ」

「……いろいろデリケートだからやめろ。まあ、そんなことよりだ――」


 駐艦場スペースで発明品のテストをしていたミヤコと、それを見ているヨルと共に、艦内第2階層のリビングへ移動して会議を開始する。


「で、どこにする?」


 30分ほど使って、複合アミューズメント施設、釣り堀、遊園地の3候補まで絞り、進行を引き受けていたメアが3人へ訊く。


「オートレストランはだめですか……」

「悪くはねえが、多分アイツの頭が痛くなっから……」


 ちなみに、最後の3つ目の候補は、ヨル案のオートレストランを破って勝ち残っていた。


「ここでケーさんの黄金の右腕の出番だねっ」


 すかさず、土下座して連れてきた、ケットシーの右前足を持って手を上げさせる。彼は非常に不満げな様子で目を細めてイカ耳となっていた。


「ごめんよケーさん。もうすぐ放すからっ」

「……こんなふざけた決定方法でいいか?」

「私はかまいませんよ?」

「ボクもさ。甲乙つけがたい3択だしね」


 むー、と文句を漏らすが、おとなしくしているケットシーを手で指しながら、メアがあとの2人に訊くとどちらも頷いて同意した。


「よしきた。さあケーさん、どれがいいかな?」


 ローテーブルの上で解放され、期待の眼差しを向けてくる同居人間を見やったケットシーは、人間ならため息を吐いていたであろうダルそうな顔で、2番目の電子付箋を選択した。


「おお、ここでわびさびの釣り堀! さすがはケーさん! 渋い!」


 両手でケットシーを指さして褒め称え、彼を抱きかかえたアリエルを見て、


「……あの。ケットシーさんはお土産のお魚が食べたいだけでは……?」


 苦笑いしながらヨルはメアにそう訊き、水を差してやるな、とかぶりをふりつつ彼女は返した。


「でも今からじゃあ、1時間ぐらいしかいられないんじゃないかい?」

「あっ……」


 時計を見ると16時過ぎで、釣り堀は18時までだったため、アリエルはがっくりと肩を落とし、その隙にケットシーはするりと抜け出してキャリーの中に逃げ込んだ。


 遊園地もよく考えたら同じ営業時間であったため、結局、複合アミューズメント施設に行き先が決定した。


 せっかくなので、とザクロと一緒にいたヨハンナもついでに誘い、『中央』にあるボウリング他が楽しめる施設へと連れて行く。


 そこに着いたところ、仕事をさっさと終わらせてきた、ヨハンナの父母が待っていて、彼らによってその場にいた客全員の料金が奢られる事となった。


 夕方5時から3時間程度、いろいろと遊び倒した帰り道。


「どうだったよ。こんな誕生日はさ」


 人がまばらな最終便のゴンドラに乗り、疲れ切って寝ているヨルとミヤコから両肩に頭を預けられているザクロへ、反対側に座るメアはサングラスの下に笑みを浮かべながら訊ねた。


「……レイがさ、過去を気にしてつまらなくなるなんて大馬鹿のやること、だっつってたけど、マジだったなって」


 両サイドの2人を見やりながら言うザクロの表情は明るく、作戦はうまくいった事を確信させるには十分だった。

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