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ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第16話 バースデーを歌って
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ギフト・フォーユー 1

「ヨルには任せろっつったけど、正直ノープランでな……」

「別にザクロは木彫りの熊とかじゃない限り喜ぶし、もうなんでも良いんじゃない?」

「そうだけどそういうもんじゃねえだろ。5年は間空いてんだぞ、5年は」


 『中央』区画第1階層にある4階建てのショッピングモール内にて、バンジことメアとアリエルはフードコートでボックスポテトを2人で分けてもしゃもしゃ食べていた。


 2人のいる席はフロア中央付近にある、衝立の上に造花の植え込みがあるものに囲われている、2人用のものだった。


 3時間ほどああでもないこうでもない、と言いながら店内を彷徨う内に時刻は昼過ぎになっていて、120席ほどあるその周囲に食事をしている客はまばらになっていた。


「そうだ。そのときので良いんじゃない?」

「いや。そんときは通信端末がちょうど壊れちまって、プレゼント代わりに新品を買っただろ」

「あっ、そうだったね……」


 パチン、と指を鳴らして表情を明るくしたアリエルだったが、かぶりを振りつつメアにそう言われてうなだれた。


「無難にアクセサリー類とかにしとく?」

「あいつ最近はつけてねえぞ。無くしたら困るってんで」

「ありゃ。じゃあ加熱式煙草とか? 最近出たニコチンとタールが副流煙にならないやつ」

「無いと分かってても煙を吸わせたくねえって言ってたぜ」

「へー、難儀だね……」

「お前だって猫に吸わせたくねえだろ」

「そりゃそうだ」


 猫っていう種族名じゃなくてケットシーさんね、と細かい注釈を入れつつも、アリエルは納得した様子で頷く。


「人に言わせるけどメアは何か思いついたりしてないの?」

「……。――携帯灰皿?」

「貰ったは良いけど3つも要らねえ、ってこの前ぼやいてたじゃん」

「あっ、だったな……」

「もう金券で良いと思うな」

「馬鹿。なんかこう……、そういうのじゃねえだろ、プレゼントってのはさ……」

「誕生日プレゼント贈るのって、こんな難しかったっけ……」

三十路みそじだかんなぁ。昔みたいに雑なノリで決められる年じゃねえし」

「うーん……」


 一向に話が決まらないまま、やや冷めてきたポテトをもしゃもしゃ食べつつ、2人が唸っていると、


「クロ姉、今更だけど本当に何も用事無かったの?」

「おう」


 少し離れた位置にある、テナントとイートインスペースの間の通路に、ヨハンナに連れられたザクロが現れた。


「――ッ!」

「――げっ」

「……」

「……」

「……隠れなくても良かったんじゃない? なにも後ろめたくないでしょこの集まり」

「……いやなんかこう、一応、騙すのは騙すわけだろ?」


 2人はギョッとした様子で目を見開き、とっさに頭を伏せて造花の植え込みに隠れ、顔を見合わせる。


「で、なんの用事なんだよ。ヒーローショーか?」

「ヒーローショーじゃなくてグリーティングね。ショーはないよ」

「ふーん。アクションしないのつまんなくねぇか?」

「クロ姉ってその辺は小学生と同じぐらいだよね」


 そうか? と苦笑いするヨハンナに返すザクロは、釈然としない様子で首を捻りつつ、彼女に歩幅を合わせて通過していった。


「今、割と重要な話だったね」

「そうか?」

「そうだよ。中身が小学生なら、そのくらいの層が喜ぶ物が正解だよ」

「本人が聞いたら蹴り入れられるぞお前……」


 慎重に顔を上げて、角を曲がって見えなくなった事を確認したアリエルは、ニヤッとしてかなり失礼な事を言ってメアに呆れられた。


「そうと決まれば玩具おもちや売り場だっ」

「……はあ。ド突かれても知らねえぞー……」


 それしかない、とばかりにアリエルは会心の笑みを浮かべ、メアからジト目を向けられつつ、フライトポテトを束でつまんで自身の口にねじ込む様に食べ始めた。


 ややあって。


「――会場真横じゃねーか……っ」


 食べ終わって、ズンズンと進んでいくアリエルについて行くと、よりによって玩具売り場の横が催事場さいじじようで、ヨハンナが上限ぐらいの子供達が何十人も集まっていた。


 簡素な舞台の上に特撮ヒーローが3人並んで、次々とやってくる子供達に握手やら写真撮影やらをして大いにファンサービスをしていた。


 その後ろの通路と会場の間に保護者待機エリアが設けられていて、ザクロが居心地悪そうに父母と交じってヨハンナを見守っている。


「……なんか視線を感じると思ったら、SPがあっちこっちにいるね」

「……仕事の邪魔になるからさっさと行くぞ」


 彼女に気付かれない様、身をかがめて調理器具売り場の商品棚に隠れながら、売り場へと向かう2人は、普通のお客に紛れている大統領付のSP達にジロジロ見られていた。


「とりあえず着いたは良いが、流石にあいつが何のおもちゃ欲しがってるか、なんてアタシ知らねえぞ?」

「そこはもう古今東西変わらないと思うよ」


 まあついて来なさい、と自信たっぷりに、変装の為につけている伊達眼鏡を中指でぐいっと上げてアリエルが歩き出す。


「つまりはラジコンだッ!」

「あー……。多分、その辺に売ってんのなら、ミヤコが作るやつの下位互換にしかならねえぞ。ほれ」


 芝居がかった声で、商品棚のケースの中に並ぶトイドローンを手で指したアリエルへ、メアがすかさずミヤコから貰った、ドローンの性能表のファイルを彼女に送った。


 商品棚備え付けの端末で見られる、3Dデータ化されたパッケージに書いてある表示と、ミヤコのそれを見比べると、装備もさることながらまず速力や上昇力の桁から1つ違っていた。


「ミヤちゃんに発注かければ……」

「つかそもそも、あいつがラジコンで遊んでるとこ見たことあるか?」

「ぐむ……。言われてみれば……」


 目に見えて勢いが無くなったアリエルは、メアの端末を返しながら渋い顔をして言う。


「じゃあどうしよう。水鉄砲とか?」

「秋口の気候設定じゃねーか。今」

「エアガンとか」

「マジもん持ってんのに要ると思うか?」

「……スケボー?」

「大昔から興味なさそうだったろ」

「じゃあ……、これ、とか……」

「……。目に付いたもん適当に言うぐらいなら玩具案は捨てろ」

「そうだね……」


 いろいろ悩んだ挙げ句、アリエルは女子児童向けのお喋りぬいぐるみを指さし、メアから大いにため息を食らった。


「……あっ、そうだっ。試合のチケットとかは? ほら、野球好きじゃん?」

「スターズは丸1週間遠征だよ。そんで、ホームだとしてもクリーンナップ全員怪我でいないせいで8連敗中だぜ? これ以上誕生日を不幸にする気かお前は」


 苦し紛れに一番無難な案をアリエルは出したが、どうもままならずあえなく撃沈した。

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