表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロウニン・ソウルジャズ  作者: 赤魂緋鯉
第16話 バースデーを歌って
130/133

誕生日会における規模と幸福感の関係性について 1

 急遽きゆうきよ企画・申請したにも関わらず、艦長のデューイが2つ返事で許可を出させ、『西』の公営カフェテリア1つを貸し切ってヨルとおまけでミヤコの誕生日会が開催された。


「これ言って良いのかな、って思ってたんですが、なんだか規模大きくありません……?」


 ケーキが爆散して、飛散したクリームが付いた服をバックヤードの更衣室で着替えている中、付き添いで付いてきていたミヤコへ、ヨルは恐る恐るといった様子で訊ねた。


「ボクはまあ3人だけれど、ヨルに関係のある人を片っ端から呼んだらこうなったんだよねぇ」


 ワイシャツにクリーム色のセーター、という装飾姿のミヤコは目を少し見開いて、小さく首をかしげながら笑み交じりにそう言う。


 そこまで大がかりになったのは、ダメ元でオートレストラン用自動販売機開発の際に、協力した技術者などへ招待のメールを送ったが、


「まさか会社休みと丸かぶりで全員来る、なんてのは想定外だったね」


 全員の予定がちょうど空いていたため、52名全員が出席した結果、駐艦場では到底収まるものではなくなってしまった。


「あは……。それに、サカノウエ教授に一目会いたい、っていうのもあるんでしょうか?」

「かもしれないね。ユミおばあちゃん、祖母が亡くなってからは余計にガニメデから出てこないし」


 若い頃は野外に頻繁に出かけてたみたいだけれどね、と心配そうにミヤコは顔を曇らせる。


「それにしても、本当にケーキの件は申し訳なかったね」

「いえいえっ、悪気があってされたことでもないですし。私はとても楽しかったですよっ。クローさんも立場上ああ言わざるを得なかっただけでしょうしっ」


 黒いレースのスカートを装飾した、黒い船内外服に着替え終えたヨルへ、ミヤコは改めて頭を下げ、手をパタパタ扇ぐように振る、彼女からの全力のフォローを受けた。


「賑やかなのは嫌いかい?」

「ああいえ、そうではない……、と思います。大勢でパーティーなんて初めてですし……、ちょっと緊張しているだけというか……」

「あっ、なるほどね」


 訊かない方が良かったかな? と口元を抑えるミヤコへ、いいえ、と言いながらヨルはかぶりを振った。


「えっと変な意味じゃなくて、ミヤさんは大分慣れてらっしゃる気がするんですが……」

「ん? ああ、ボクの家というか祖母の方針で、こういうお祝いごとは目一杯規模を大きくする事になってたんだ」

「目一杯」

「例えばものすごく大きなケーキとかを、ニシノミヤハラそぼのかいしやの社員さん全員で食べたり、みたいなね」

「なるほど……。お友達とかもたくさん呼んだりしてワイワイって良いですね」

「だろうね。ボクはいなかったから分からないけれど」

「え……」

「あっ、意地悪されてたとかじゃなくて、話がまるっきり合わなくて申し訳ないから、ボクから距離をとっていたせいだからね」


 社員さんとは話が合うから大の仲良しだったよ? と、自身の一言を聞いて青い顔になったヨルへ、あはは、とミヤコは気にしていない様子で笑った。


「おっと、邪魔してしまったかね?」


 すると、更衣室のドアが開いて、パワードスーツで補助されたユミ・サカノウエが顔をのぞかせた。その後ろにいる、護衛のミナ・サコタが会釈する。


「ううん。どうしたの?」

「いやあ、どうも若い者が生み出す空気感にちょっと気疲れしてね」

「物理書籍へのサイン攻めとか、若い頃のミヤビ博士についての質問とか、ひっきりなしでしたもんね」

「あー、そりゃあ大変だ」


 まんざらではなさそうにはしていたが、サカノウエの表情にはうっすらと疲れの色が見えていた。


「弁が立つから、と折衝せつしようほかにこき使われても、若い頃はこのくらい平気だったんだがね」


 年は取りたくないものだ、と半ば独りごちるように言い、パイプ椅子に座るとミナから貰った水筒のお茶を啜った。


「しかし、こう技術者が雁首そろえて派手にやるというのは、君の6歳の誕生日を思い出すな」

「今ちょうどその話をしていたんだ」

「ほう。奇遇きぐうではないか」

「それで、ちょっと気になっていたんだけれど、どうして祝い事を大規模にする事になったのかなって」

「ふむ。少々長く、というか重い話になってくるが良いかな」

「どうだい主賓しゆひんのヨル氏」

「えっ、まあ、新しいケーキが来るまでしばらく掛かりますし、私が聞いても差し支えなければ……」


 2人が喋っているのをぼんやりと聞いていたヨルは、急に訊かれて瞬きを繰り返しつつ頷いた。


「それは問題ない。私もヤツの逸話をなるべく残したいと思っているからな……」


 ふう、と息を漏らしたサカノウエは、天井の方を見上げながら寂しげにそう言った。



                    *



 26年と少し前。


 火星木星間の小惑星帯宙域を、一隻の改造ミサイル艇の強行輸送艇が航行していた。


 その宙域の小惑星に紛れている、ミヤコの生物学的な父親が作った秘密研究所内にある〝キャベツ畑〟の人工子宮装置『人工胎内システム』から、ミヤビたち3人がすんでのところでミヤコを救出し、輸送艇はその帰途についていた。


 ちなみに研究所は護衛として付いてきていた、広域宇宙警察の前身である、火星連邦宇宙警察によって封鎖されている。


「ふう、なんとか間に合ったね……」

「うむ。老体に鞭打った甲斐があるというものだ……」


 操縦席に座るミヤビと副操縦席のサカノウエは、疲れ切った声でそう言い、窓の中央上部に表示されている艦橋内モニターをチラリと見やる。


 そこに映っているのは、副操縦席の後ろの席に座るミヤコの母・キョウコが、空豆型の簡易保育器越しではあるが、生まれたばかりの娘を抱いていた。


 先ほどまで元気に泣いていたミヤコだが、哺乳瓶から液体ミルクを飲んですやすやと眠っている。


「こう言って良いのか迷うが、おめでとう、と一応言っておく」

「かまいませんよ。腹を痛めようが痛めまいが、この子は大事な娘ですからね」


 遠慮がちに目線を落としながら祝福するサカノウエに、キョウコはさらに少し我が子を抱き寄せつつ、迷いのないまっすぐな目でそう言った。


「流石はキョウコだ。すでに母の強さを感じるねぇ」


 養子ではあるが間違いなく自身の娘である、キョウコの芯のある言葉にミヤビは満足そうに微笑みつつ言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ