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ザ・フロンティア・ダイヤモンド 3

「大変長らくお待たせしました! 本日の対フューチャーズ第8回戦のスターティングオーダーを発表いたしますッ!」


 小気味良いEDMをバックにするDJの発言に対して、球場全体が歓声を上げてかなり大きなざわめきが発生する。


「スターズ、ナンバー1! センター! B・G・ミハラ! 背番号99!」


 コールがかかると、スクリーンに流れ星から選手が降りてくるCG映像と同時に、ライトスタンド側から応援歌のイントロが流れるが、星屑ほしくず団だけが腕を組んで仁王立ちのままだった。


「あっ! はいっ! あの並びの意味ってどういう意味なんですかっ!」

「リーグに寄っけど、ここじゃ1番が俊足で2番が技巧派。3・4・5がパワーとか確実性のある選手で、それ以下は守備力とか一芸に秀でた、みたいな選手だな。ちなみに2番までが上位、5番までが中軸、9番までが下位って呼ぶぜ」


 4番の途中補強選手までが発表されたバックスクリーンから一切目を離さずに、ザクロはやや早口で説明しきった。


「打つ順番1つでも作戦なんですね……。奥深いです……」


 星形がパカッと割れて出てきた、熊のような風貌でかなり恰幅かっぷくの良い5番打者の映像に、確かにパワーがありそうです、とヨルは真剣そのものの顔で付け加えた。


「うーん? 彼らはどうもご不満のようだね」


 セイバー指標の理論書を読み終わったミヤコは、ヨルの隣に座って星屑団の方を見つつ、仏頂面で腕組みのまま微動だにしない異様な集団に不思議そうな顔をする。


「ジョンストン、フジオカ、ルイスの中軸が嫌なんだと。長打打てるやつから並べてんだけど、役割が違うとかネットで文句言いまくってるとか」

「ああ、調べて見たけれど、確かにそのようだね」

「どうせどう並べても一緒だっつのに。――あんまりその手の見ない方がいいぜ」


 すぐにその文句の内容を確認し、やや煙たそうな顔でいうミヤコへ、ザクロはかぶりを振ってため息交じりに言った。


 ついに9番打者まで発表されたところで、


「そして本日の先発投手! アレクサンドラ・オオサキ! 背番号12!」


 少し間が空き、恒星が誕生するように光の粒が集まっていく映像が流れ、キラリと光って、素朴で中性的な顔つきのアレックスが登場する映像が流れた。


 すると、いきなり星屑団からのブーイングが響き、すぐにそれをかき消す様に他の応援団や観客から大歓声が上がった。


「……防御率? 2.41ってそんなに悪いんです?」

「いいや、リーグ平均が3.15とかだからむしろ良い方だぜ。ミヤ、8位とかだろ?」

「正解」

「そうなんですか。……じゃあなんでブーイングが?」

「10試合でだいたい50回投げて2勝4敗だからだろうな」

「スタミナの問題で5回が限界で、援護が全然無いからその数字らしいね」

「それアレックスさん悪く無いじゃないですか」

「ないな。スタミナはともかく大量失点も1回もねぇんだし」


 全試合9回まで投げて0点で抑えないと気が済まねぇらしい、と、ザクロは多分に毒を含んだ言い方でぼやき、今度は相手のオーダー発表が始まったグラウンドを見つめる。


 ややあって。


 試合開始10分前になって、スターズの選手は守備位置について、慣らしで軽くボールを出場選手間で回している中継映像が、バルコニー上方のホログラム画面に表示された。


 ベンチから、体格は上回るがザクロよりは背の低いアレックスが登場したところで、星屑団からヤジが飛んで、他のファンに嫌な顔をされるなどあったが、


「さあ本日の始球式は、独特のストリートアートでお馴染み! バンジ・サンダーストラックさんです!」


 DJに紹介されると、どーもどーもでござるー、とインカムにいつも通りの軽い調子の声を乗せ、バネの先に星が着いたカチューシャを追加しているバンジが現われた。


 グルグルと念入りに肩を回してから投じた1球は、


「あっ」

「いたぁい! ちょっちょっ! おねーさん! そういうギャグいいからっ」


 思い切りすっぽ抜けて、相手のお調子者キャラである、ピンマイクをつけていたヒノキヤの尻にふんわり直撃した。


「申し訳ないでござる……」

「そこで謝んないでよ! これオイシイところなんだからさっ」


 大げさに引っくり返っていたヒノキヤは、起き上がって頭を下げるバンジへ、ツッコミを入れる手の動きを見せて言った。


 よっ野球の上手い芸人ー、とフューチャーズベンチから笑い混じりのヤジが飛び、誰が芸人だよ! と、ヒノキヤが言い返して球場全体がドッと湧いたが、星屑団はやはり仏頂面で無反応だった。


「1ヶ月練習してアレかよ」

「いやー、マウンドから投げる練習してなかったのが仇になったでござるなぁ」


 ひょっこりと帰ってきたバンジは、引きつった笑みを浮かべつつ気恥ずかしそうに笑って誤魔化した。


「さーて、ボチボチプレイボールでござるな」

「だな」

「投げてる感じどうでござろうか」

「まあ、いつも通りじゃねぇの? 映像的に構えたとこ大体行ってるし」

「ちょっと高い気がするんでござるが」

「まあ誤差だろ誤差。入り間違えなきゃいいんだよ」

「あー。確かにど真ん中投げなければ良いぐらいのキレはあるでござるな」


 フェンス際に設置されたドリンクホルダーに、手に持っていた18オンスの紙コップを挿して、ヨルと反対側のザクロの右に座ったバンジは、腕組みしながら彼女とあれこれ議論する。


 グラウンドでは、アレックスが足元の土の具合を確かめつつ、マウンドからサイド気味のスリークォーターのフォームで投球練習をしていた。


「……!」


 会話の割合をモリモリとられていたヨルが、大慌てであっちこっちを見回していると、ミヤコがすかさず通信端末へポジションの表を送ってきて、


「えっと、ポジションっていうのが、手前の4人が右からファースト・セカンド・ショート・サードで、奥がライト・センター・レフト。投げてるのがピッチャーで、一番手前で受けてるのがキャッチャー、で良いんですよねっ?」

「お、おう」


 ヨルはそれを素早く読むと、会話の切れ間を見計らってやや早口でザクロに話かける。


「で、その……、ええっと……」


 急な割り込みに目を丸くするザクロとバンジに見つめられる中、そこで会話が途切れてあたふたと口を開け閉めしていると、丁度プレイボールが掛かってしまった。


「ほ、本当に大した事じゃないので、お時間があるときでいいですぅ……」

「おう、そうか」

「初球良い所に落ちるスライダーでござるな。3ストライク目で欲しいやつ」


 2人が同時にグラウンドを素早く見やった様子を見て、ヨルは尻すぼみな声でそう言って黙ってしまった。


「よーし」

「先頭打者切ったでござるな」

「相手の……ナガサキって初見だな」

「今年のルーキーでござるよ。つい昨日1軍(うえ)に来たばかりだとか」

「てなるとプロ初打席か――ってあっぶなッ」

「ぴッ」

「え、なんだい?」

「わーお」


 首を傾げたザクロにバンジが相手選手の説明をした直後、真後ろに打ち上がったファールボールが、防球ネットを超えて目の前を落下していった。

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