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ザ・フロンティア・ダイヤモンド 2

 近くのエレベーターでコンコースまで降り、それなりに並んで球場グルメを手に入れて席に戻った。


「やはり、ここに来て食すならこれでござるなぁ」


 星形の焼き印がされたバンズを使ったチーズバーガーにかぶりつき、咀嚼して飲み込むと、バンジは頷きながら歯形が付いたそれをしみじみ眺める。


「それって、何か特別な素材を使っているのかい?」

「『NP-47(ここ)』で生産されたものとかですかねっ」

「いや。これ自体は単なるチーズバーガーライク品だな」

「ありゃ」

「球場で食べる、という付加価値を味わっているのでござるよ。人というものは情報を食う習性がある故」

「な、なるほど……」


 身も蓋もない事を言って高笑いするバンジに、ヨルはなんとも言えない苦笑いを見せた。


「まあここに来ても同じモノを食す御仁もいるでござるが」

「うっせぇ。オレの自由だろ」

「ああー、利き手はやめるでござるー」


 スッと指さしてきて、ホットドッグを食べる自身をからかうバンジの指を引っ掴んで、ザクロはそれを無理やり下げさせた。


「下らねぇこと言ってねぇで、さっさとグラウンド行ってこい。準備とかあんだろ」

「別に食事をする時間ぐらいはあるでござるよ。18時プレイボールではござらんか」


 真面目なんでござるから、と、16時を少し過ぎた時間が表示される、バックスクリーン上部のアナログ時計を親指でさしてバーガーにかぶりついた。


 じゃれ合っている2人を後目に、ヨルとミヤコはバルコニーのテーブルで各々食事をしていた。


「……? あの、クローさん。あの方達は?」


 丁寧な所作でもって〝星のうどん〟を食べていたヨルは、すり鉢型になっているライトスタンド上部にふと視線を向け、ややガラの悪そうな風体の一団を目で指す。


 その20数人は、スターズのビジターユニホームである、灰色の生地に黄色のボーダーが入ったものに、墨汁をぶちまけたような模様のものを着ていた。


「あー……。アレは星屑ほしくず団だな。一応、私設応援団ではあんだけどよ……」

「分かりやすく言うと、過激な応援団でござるな……」


 2人はその方を振り向き、少し顔を前にもたげて確認すると、犬の糞でも踏んだ様な顔をして鬱陶しそうに説明した。


「そういう方が入っても良いんですか……?」

「まあ、アレも客だしよ。試合進行は妨害してねぇから、お目こぼし貰ってるぐれぇなもんだけどな」


 吐き捨てる様にザクロはそう言って、フェンス際のクッション付きパイプベンチに座り、ベンチ前に出てきたスターズの選手に視線を移した。


 グラウンド内で防球ネットが片づけられていく中、ゾロゾロとベンチ前にしゃがみ込み、各々が念入りにストレッチを開始する。




『スマン。あんま面白く無いよな?』

『別にそういう訳じゃないわよ。ルールもあなたが逐一説明してくれるし、今回のデートで好き寄りにはなったわね』

『じゃあなんでそんなしょっぺぇ顔してんだよ』

『……笑わないで貰える?』

『おう』

『私以外に夢中になってて、ちょっと妬けちゃったなって』

『や、野球にか?』

『もう。笑わないでって言ったのに……』

『悪ぃ悪ぃ。なもん別枠に決まってんだろ』

『そうだけれど。もう少し私の一挙手一投足を見ていて欲しいなって』

『穴が空くほど見てるっつの……。――ニヤニヤすんなっ』

『ふふ。だって、そんな爆発しそうな真っ赤な顔して言う台詞じゃないもの』




「……」

「クロー殿ー。それではちょっと行ってくるでござるー」

「おう。デットボールは止めろよ」

「人をノーコン扱いしないでほしいでござるなぁ」

「扱いというかマジでノーコンだったじゃねぇか」

「何年前の話をしてるんでござるか。この日のために壁当てを1カ月前からやってたんでござるよ。拙者」


 遠い目のまま数分間動かないので、バンジが割と強めに掌で背中に触れ、素早く振り返ったザクロへ、親指で出入口を指して言うとグラウンドに向かって行った。


「あのう、クローさんっ。私、野球のルールはあまり詳しくなくて……。質問してもいいですか?」

「おう。分かんねぇとこがあったら遠慮無く訊けよ」

「あっ、はいっ」


 ぼんやりしている間に、横へ来ていたヨルを視線だけ二度見したザクロがそう言うと、ありがとうございますっ、とヨルは言い、早速グラウンドをあっちこっち見回し始めた。


「なるほど、野球にはセイバーという物があるのか。興味深いね」


 その後ろのテーブル席で、ミヤコは楽しげに理論についての電子書籍を即座に購入して開いていた。


「じゃああの、線とかで囲まれてる所はなんていうんですか? あとどうやって点が入るのかも」

「そこはフェアグラウンドだな。あそこに飛んだ球を守備の選手が持って先にベースを踏んづけられるか、タッチされてアウトにされるまでに、打ったヤツが右のアレに着けばセーフで走者になんだよ。けど直にキャッチされたらそこで終わりだ」

「なるほど」

「でもって走者が3つ全部踏んで回って、最後にあの五角形のホームベースを踏んづければ1点入るって寸法だ」

「ふむふむ」

「アウトを3つ取られたら攻守交代で、今度は逆の立場で同じ事をやる、ってのを9回やって点を多く取ってたもんの勝ちってわけだ」

「アウトがあそこに書いてある1番下なのは分かりますけど、後の緑と黄色は?」

「黄色は〝ストライク〟つって、3つ取られたらアウトが1個ついて、緑は〝ボール〟つって4つ取ったら打者が1塁に安全に進めるってなってんだよ」

「つまりボールを連発すると押し出されて相手に点が入っちゃうと」

「そうなるな。そういうヤツをあんまり口が良くねぇ言い方で、〝ノーコンピッチャー〟って呼ばれたりするんだよ。ノー・コントロールの事な」

「わ、直球ですね……」

「まあ野球用語は大体ストレートな物言いが多いからな。まあ悪口は覚えて帰らなくていいぞ」

「分かりました。……ええっと」

「試合見てたら分かんねぇ事が絶対ぜつてえ出てくっから、無理に探そうとしなくていいぜ」


 と言ったザクロは、訊くものを探している様子で、頭をせわしなく動かすヨルの肩に手を置いた。


「あっ、はいっ! そうですねっ!」


 顔を赤らめて数秒間固まった後、ヨルは更にその色を濃くしつつ、彼女にしては大きな声を出して頷いた。


 わたわたと落ち着かなくなったヨルを怪訝そうにザクロが見ていると、


「球場にお越しの皆様ッ! こんばんはーッ!」

「ひゃわーッ!?」


 球場内に男性スタジアムDJによるアナウンスが流れ、彼女は引っくり返りそうになったが、ザクロに首根っこを掴まれて転倒は回避した。

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