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執着のラブマシーン 2

「話が脱線しちまったな」

「あは」

「そんじゃ、今から連絡とってみっからな。しばらく待て」

「ああ」


 そう言って軌道修正したザクロは、自身の携帯端末を取りだして、早速メッセージの作成にとりかかった。


 ややあって。


「とりあえず、艦長とかその辺にはOKとれたから後は自分でやれよ」


 ザクロは自身の端末に入っている連絡先の内、知り合いの大半である数十人の連絡先をミヤコに共有した。


「ああ。ありがとう」


 『NP-47』の首脳陣から各所のスタッフ陣、アリエルやモネといったザクロの友人達の名前を確認し、満足そうに頷いた。


「愛ね。僕に言わせれば、コロニーの皆が健やかで、妻や娘が穏やかに暮らせるように戦う原動力だね。これでいいかな?」

「やっぱりいつでも一緒にあると嬉しい存在ね。例えばお酒とか」

「……魂の欲するもの、だな」

「そうさね。死んじまっても無くならないもんかねぇ」


 巡に、艦長兼大統領・デューイ、戦術長・アイーシャ、副長・ジェイソン、入管局長・クレーまではまともな話が聞け、ミヤコは満面の笑みでそれを文書ソフトでメモしていく。


「そりゃあお前さんアレよ。酒みてぇなもんのことだァ!」

「まあヤニを吸いたくなる気持ちだな。俺の場合」

「愛と言えばやっぱりケットシーさんのことかなっ! ケットシーさんはご覧の通り普段つれない態度のクゥールなお猫様なんだけど――」

「ほう、それをお訊きになりますか……! ではこのモネ・ヘビガタニ、じっくりたっぷり時代劇やメカニックについて語らせ――」


 だが、保守作業員・ロッキー、警備局員・ジャック、ザクロの親友・アリエル、スネーク・バレー社長・モネは、愛というよりは好物の話になってしまった。


「あのアホ共め、小1時間ずつ喋りやがって……」


 後ろ2人から延々興味の無い話を聞かされ、ザクロはうんざりした様子でソファーに寝転がって悪態を吐く。


「いやあ、ありがとう。とても興味深い話を聞けたよ!」

「それなら良かったです」


 一方のミヤコは、終始飽きもせずに大きく相づちを打ち続け、思考操作による入力で全てを完璧に記述していた。


「やっぱり良い女のケツを追――」


 次に通話を掛けた税関職員・マリーンの話は、その入りを聞いたザクロによって強制終了された。


「ありゃ」

「皆まで聞かねぇでいい。〝煩悩〟って感じに書いとけ」

「うん。そうだねぇ」


 途中で切られたが、ミヤコは多少苦笑いをしているのみで、ザクロのアドバイスを受けて〝生物としての本能〟と記述される事となった。


「――愛ねえ。やっぱり筋肉と同じだな。正しいメゾットで扱えば、裏切らない」

「なるほど」

「そういやお前、先月浮気されて彼女と別れたんだっけ? 絶対良いヤツ居るから気を落とすなよ」

「痛み入るぜ……。うう……」

「……愛は一筋縄ではいかない、か」


 スクワットしながら答えた『ロウニン』・ムサシは、ザクロからの励ましに、そのまま膝を抱えて床に転がってしまった。


 その後、メッセージも含めた愛の概念をあちこちの知り合いからかき集め、


「これであらかた終わったね」


 忙しくてメッセージも後回しになっている数人以外、リストアップされた大半を埋めた。


「おっ。じゃあ最後に愛と言えばのヤツからも訊きにいくぞ」

「おや? 誰だろう。わざわざ移動するってことは囚人。クローが知っていて愛と言えばロザリアさんだね?」

「正解」


 壁面収納から出したミヤコ用のヘルメットを彼女に渡しつつ、ザクロはサムズアップして言った。


「出来れば私も行きたかったです……」


 自分のヘルメットを被ったザクロは、直接通話でちょっと出かける事をヨルに告げ、


「急に予定が入っちまったんでな。……割とすぐ帰って来る(くつ)から、そう寂しそうな顔すんじゃねぇよ。わりいな」

「思いつきで行動してしまってすまない」


 目線だけを気まずそうに逸らしつつ、自分がついて行けない事を悲しむ彼女へ、ザクロはミヤコと共に小さく頭を下げた。


「いえいえ良いんですっ、余裕のある行動をされてくださいねっ」


 気を遣わせたことにわたわたしつつ、ヨルは若干寂しそうにそう送り出した。


「土産の1つでも買って帰るか」

「『アルカトラズ2』にあるものって、刑務作業で作った物だろう? お土産になるものがあるといいね」


 そうだな、とザクロは返しつつ、第2階層前方の格納庫への隔壁扉を開けた。



                    *



 フライフィッシュⅡを駆り、刑務所コロニー『アルカトラズ2』へとやって来たサクロとミヤコは手続きを済ませて、〝『神の種子』強奪テロ事件〟の犯人である、元メイド兼クラッカーのロザリアと面会する。


「おっす、元気そうで何よりだ」

「わざわざご足労頂いて申し訳ございません」

「月の上空なら大した距離じゃねぇからな」


 蛍光オレンジの囚人服の上から拘束衣を巻かれ、鎖で繋がっている車椅子に乗せられた状態ながらも、ロザリアは自分を連れてきた女性刑務官へも含めて丁寧に頭を下げた。


 それぞれメガクラスビーム砲にも耐える、超耐久強化ガラス製はめ殺し窓と、超耐久合金製隔壁で仕切られた面会室は、面会者側にパイプ椅子が2脚設置されている。


「しっかしまあ、スゲえ格好にされてんな……」

「はい。なにやら先日、面会室で囚人が暴れる事案が発生したそうで、規則が改められご覧の通りでございます」


 唯一自由に動かせる頭部で、ロザリアは身体の分厚い布とぶっといベルトを見やりつつ、少し困った様に眉を寄せて言う。


「……ロ――325番は模範囚なので必要無い、と本官は思っておりますが」


 刑務官がこっそりと名前で呼びそうになりつつ、かなり不満そうな声を漏らすが、ロザリアはかぶりを振ってその規則違反スレスレの行為を戒めた。


「規則は規則でございますから。こうやって面会させて頂いているだけでも、大変ありがたい事でございます」


 犯行時とは比べものにならない程、どこかロザリアは朗らかに穏やかな物言いで言う。


「お、そうだ。お前のご主人の墓、この前代理で世話しといたぜ」


 そんなロザリアへ、口元に笑みを浮かべるザクロは、手に持っていた封筒からロザリアの主人が眠る、西洋式の墓の写真を取りだした。


「そこまでして頂けるとは。このロザリア、深く感謝いたします」

「良いってことよ。お前もそっちの方が気を揉まなくて済むだろ?」

「はい。……ところでこの花々は? ああいえ、不満という訳ではありませんが……」

「あ? 墓参りつったらそりゃあ菊だろ」


 キョトンとした様子で瞬きしたザクロは、だよな、とミヤコに話を振る。


「クロー、恐らく彼女達の文化圏では使わないんじゃないかな?」

「あー、そういうことか。すまねぇ」

「その通りでございます。ですが、シャルロットお嬢様は余所の風習に寛容なお方でしたので、謝られることはございませんよ」


 後頭部に手をやって小さく頭を下げたザクロへ、ロザリアは満たされた表情で首を横に振った。


「ところで、ご用件というのは」

「ああ。それはね――」


 やっと本題に入り、ミヤコはくだんの装置などについてロザリアに聞かせた。


「……なんです? その奇怪というか珍妙というか……」

「言ってやるな。これでも大真面目にやってんだから」

「あはは。まあ実際に奇怪で珍妙なことやってるわけだし」


 変な開発のテーマやらなんやらを聞かされ、ロザリアは宇宙人にでも行き会った様に唖然あぜんとしていた。


「そのシステムについては何も申し上げませんが、少しでも記録が残るのは望ましいことですね。ではこのロザリア、持ちうる限りお嬢様についてお話致しましょう」

「一応分かってるとは思うけど、愛についての話だからな?」


 モネとアリエルの様子に近い、少し恍惚こうこつとしたロザリアの様子を見たザクロは、やや引きつった顔で一応確認をとった。


「無論でございます。ですが、お嬢様が関わられているならば、それだけでそこに大きな愛が存在するのでございます。ゆえにお話する全てが愛なのです」

「さいで」


 だが、完全に大真面目な顔でそう言い放ったので、ザクロは肩を落としていつもより低い声でそう言った。


「なるほど、それは良いデータを得られそうだ……!」


 気力が抜けた目をしているザクロの一方、ミヤコのそれはこれまでと変わらない興味津々さで満ち溢れていた。


「オホン、ではまず、お嬢様と私との運命の出会いについてお話させて頂きますと――」


 幼い頃に戦災孤児となったロザリアは、地球のスラム街の中で盗みを働いて生きていたが、同じ境遇の子どもも含めて引き取り、衣食住と教育を提供された、という事を皮切りに、身振り手振りが出そうになるほど熱く語り始めた。

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