42.黒川聖
夕方になり日が沈む。体が重いのは気のせいではないだろう。私は部屋に備え付けの冷蔵庫からエナジードリンクを取り出して飲む。心なしか体力が回復した気がする。こんなものは気休めだがないよりはましだ。本当は翔君に抱き着くのが一番なのだけれど……
そう思って私は屋上であった中村さんの顔を思い出す。あの子は翔君の事が本当に大切なのだろう。翔君を心配してあんな行動をしたのだ。もしも、自分の友人が未知の生き物に狙われているとわかっていてあんなふうに行動しできるだろうか? 多分無理なのではないだろうか。
彼にはちゃんと見てくれる人がいる。だったら私は引くべきだ。あの子はちゃんと彼の向き合っているのだ。それ比べて私はサキュバスと召喚者という歪な関係で繋がっているだけなのだから……本来私は他人とまともに関係性を築けないのだから……
「別に大丈夫よ、だってずっと一人っきりだったじゃない。また元にもどるだけですもの」
彼があまりにも自然体だから私としたことが勘違いしてしまったのだ。彼がまあ、こういうこともあるよなみたいな態度でサキュバス召喚を受け入れたから勘違いしてしまった。本来だったらサキュバスと聞いたら人は恐れるものだ。中村さんのように戦うべきものなのだ。
「でも、たのしかった……翔君はバカだけどいいやつだったわよね……」
最初に彼に召喚された時はどうしようって気持ちでいっぱいだった。正直私もテンパっていたのだ。だから抱き着かれて契約が成立してしまった。
そして、サキュバス召喚を説明するために特別教室に彼を呼んだ時も実は恐怖で一杯だった。だって、サキュバスの血を引いている女がクラスメイトとして、普通に授業を受けていたのだ。なんて罵倒されるか、過度に恐れられるだろうか、そんな気持ちでいっぱいだったのだ。だけど、彼はあっさりと受け入れた。それどころか優しいとか、可愛いとか言ってくれたのだ。ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ嬉しかった。
そして、放課後にたまたまゲームセンターで会ったのは驚いた。しかも、私を助けてくれたのだ。私の正体を知ったのだから距離を取ることもできたのに……
「それで……あなたが来たのよね」
私はベットの横にあるパンダのぬいぐるみに話しかける。取ってもらった時はついひねたことを言ってしまったが嬉しかった。
その次に私と彼の関係性が変わる事件がおきる。きっかけは私が体育の授業中に体調不良になった事だった。目立たないようにしていたけれど、彼には気づかれてしまって……そして順守権を使われてしまった。
自分の体調の事を隠したけれど、彼が私のために順守権を使うのは予想外だった。というかそんな使い方をする人間がいるなんて想像もつかなかった。それまではちょっと変わったクラスメイトという印象だった彼のイメージが変わった。誰よりも優しくて、あほだけど、ラブコメみたいな青春を望む素敵な人に変わったのだ。
そして、私たちはそれをきっかけに友人になった。私が彼に抱き着かせてもらう代わりにお弁当を作ることになった。正直に言おう。誰かに……家族以外とちゃんと喋って遊んだりすることが楽しかったのだ。嬉しかったのだ。だから、私は無理やりにでもお昼の時間を独占させてもらうことにした。多分彼は気づいていないけど、私は彼が思っている以上に私の中で大切な友人になっていたのだ。
彼と一緒に下校してよったコンビニのフランクフルトは今までで一番美味しかった。彼との放課後デートは今までで一番大切な思い出だ。そして彼が私のトラウマを聞いて、私のそれは個性だって、私はわるくないっていってくれたのは嬉しかった。そして彼が私の家に行った時にお母さんに行ってくれた言葉を聞いて私は泣きそうになった。話の途中で顔をだせる雰囲気でもなかったのでアイスは溶けてしまったけど、それくらいは許して欲しい。
だけど、それももうおしまい。私はやはりサキュバスの血を引いているのだ。これ以上彼に心配をかけるわけにはいかない、これ以上彼の周りの人を不安にさせることはできない。だから私は一人に戻るのだ。大丈夫、だって今まで一人だったんだから……
「やだよう……寂しいよう……」
なんでだろう、涙が止まらない。なんでだろう悲しさが止まらない。ああ、私にとって彼は私が思う以上に大きい存在になっていたのだ。
ピンポーン、ピンポーン
その時インターホンの音が鳴った。母に頼んで居留守を使ってもらおう、もしも彼だった私はきっと甘えてしまう。だから私は……そうして私は布団を頭からかぶるのであった。
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