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16.調理実習

 今日の家庭科の授業は珍しく楽しみだった。なぜなら、今日は調理実習である。合法的にクラスメイトの女の子手料理を食べることができるのだ。女子の手料理って、無茶苦茶テンションが上がるよな。そして俺が楽しみにしていたのにはもう一つ理由がある。



「何をにやにやしているのかしら? 早く準備をしなさい。どうせ、クラスメイトの女の子の料理を食べれるぜとか思っているんでしょう? こちらからしたらただの作業よ」

「相変わらず辛辣!! てかさ、俺の心読みすぎじゃない? マジで聞こえてるの?」

「あなたがわかりやすいだけよ。でもまあ、友達に料理をふるまうというのは悪くないわね」



 そう、調理実習のメンバーには黒川がいるのだ。あきれたという顔をしてこちらを見つめている彼女はジャージにエプロンをしており、いつもとは違うポニーテールだ。長い髪を結えるためにリボンを咥えていた姿を見てちらりと見えるうなじにドキッとしたのは内緒である。なんか不思議な色気があるんだよな。



「そういえば、黒川って料理できるのか? あんまり料理をするイメージがないんだが……」

「へぇー、私みたいに無表情な女は家庭的な事はやってそうにないって思っているのかしら? そうね、ご想像に任せるわ。とりあえずあなたは玉ねぎを切っておいてもらえる?」

「さりげに涙が出る仕事を押し付けられた!!」


 

 俺の言葉に黒川は鼻で笑った。いや、なんか黒川って浮世離れした美しさがあるからか、こういう家庭的なことをやってるイメージがないんだよな。ラブコメのヒロインはすごい上手か、メシマズにわかれるけどどうなんだろうな?



「この顔はまたくだらないことを考えてるわね……」



 黒川はため息をつきながらも、野菜を切り始めた。その手つきはとても手馴れていて、普段から家事の手伝いをしているのだろう、包丁を片手に作業が進んでいく。でも、なんかいいな、こういうの……家庭的な一面をみて、サキュバス召喚をするまで、別世界の住人みたいだった黒川をより身近に感じることができる。

 俺も負けじと自分に課された仕事である玉ねぎを切り始める。半年に一度くらい手伝うくらいだがなんとかなるだろうと思っていたが甘かった。無茶苦茶涙出てくるし、たまねぎたちが不格好なんだけど。



「くそが、玉ねぎなんぞに泣かされてたまるか!! 俺が泣くのは女の子に振られた時だけなんだよ!!」

「もう、何をやってるのよ……玉ねぎは電子レンジでラップをして温めてから切ったほうが涙が出にくくなるわよ。あとね……切り方はこうよ」



 玉ねぎ相手に苦戦する俺をみかねたのか黒川が俺の後ろに立って、手を握って切り方をレクチャーしてくれる。いや、嬉しいだけどさ、すっごい近いんだけど!! 無茶苦茶いい匂いがするんだが……正直料理どころじゃないんだが……てかさ、これってラブコメみたいでいいな!!



「なにをにやにやしているのよ、まさか人妻プレイみたいでいいなとか思ってないでしょうね……?」

「俺は単に一緒に料理をするのってラブコメみたいでなんかいいなって思ってただけなんだが!? てか、それって今朝黒川が回収したエロDVDじゃねえかよ!! ちゃっかりパッケージみてたな?」

「な、なんの事かしら、それより料理を続けるわよ」



 図星を突かれたからか誤魔化すように、彼女は料理を始める。思ったんだけどさ、黒川ってむっつりサキュバスだよな……などと思っているとこちらを睨んでいる彼女が差し出した何かを口に突っ込まれた。



「うお、これは……」

「変な事をかんがえていないで、味見くらいしなさいな、どうかしら?」

「おお、普通に美味いな」

「でしょう、ラブコメの様にメシマズでもなく、驚くほど美味しいわけでもなく、普通に美味しい味でがっかりしたかしら? いっそのこと砂糖と塩でも間違えたほうがよかったかしらね」

「まじで俺の心読んでないか? でもまあ、実際メシマズは中々しんどいものがあるよな」」



 俺は黒川が作った野菜炒めをつまみながらつぶやく。そういえば昔五月雨が友人同士でバレンタインデーのチョコを作りあって交換するのを手伝う事があった。俺と二人で材料を買いに行ったのだが、二人してカカオの含有量が高い方が美味しいと勘違いしていたせいでどや顔で作ったチョコは苦くて食べられたものではなかったのである。まあ、がんばって食べたんだが……それを思い出すと、実際メシマズヒロインは笑えないよな……



「ふふ、どう、私だって結構家庭的なのよ。孤高のミステリアス系ヒロインみたいなイメージと違ってがっかりしちゃった?」

「いや、本当の黒川を知れて俺は嬉しいよ。なんか、お互いの新しい一面を知るって仲良くなっていくみたいなかんじでいいじゃん。てか、自分でそう言う風に思ってたの!?」

「いえ、あなたならそういう風に私を見ていそうって思っただけよ。それにしても、またラブコメ主人公みたいなことをいうのね」

「俺の考えってそんなにわかりやすいの!? てか、今のは素なんだが!!」

「ふーん、だったら……あなたも結構いい事言うじゃない。ラブコメとか意識しないで素のあなたの方がモテるかもしれないわよ。さて、料理はできたし食事までの時間に片付けましょう」

「了解、じゃあ、俺は皿を洗うわ」



 俺は自分たちがつかった機材をシンクに入れてスポンジで食器などを洗い始めてすぐだった。シンクに皿を取るために手をつっこむと、指に痛みがはしり俺は思わず、悲鳴を上げる。



「いってぇ……」

「妻田君大丈夫!?」



 シンクは共用だからだろう、誰かがつけていたのか、何か刃物が入っていたようで、俺の人差し指から血が溢れる。とりあえず何かで傷口を拭かないとと思っている時だった。俺は信じられないものを見た。

 彼女が俺のけがをしていた指をとろけるような目で見ていたかと思うと口に含んだのだ。想定外の事態に俺は一瞬固まった。指をかすかな痛みと生暖かい感触が包む。確かに傷口はなめるといいって聞くけどさ。普通自分でやるよな。というか、これはなんとも刺激的である。てかさ、最初に黒川が抱き着かれた時と同じような表情なんだが……多分正気をうしなっているな。



「おい、黒川大丈夫だから……」

「ああ、ごめんなさい……今日はまだ抱き着いてなかったから抑えられなくて……これを使って」



 俺の言葉に正気に戻ったのか、黒川が慌てて指から口を離して、ハンカチを渡してきた。彼女の唇と指が離れ、わずかに残った唾液が何とも艶めかしい。もう少し見ていたかったが彼女があわてて俺の傷口にハンカチを当てすぐに覆われる。

 羞恥のためか顔を真っ赤にしている彼女を隠すようにして周りを見回すが、みんな自分たちの料理に手一杯だったのか、こちらに注目している人間はいないようだ。いや、一人だけいたわ。中村が信じられないものを見るような目でこちらをみていた。あとで口止めをしておこう。俺の評判はともかく、黒川の評判が下がるのは避けたいしな。その後は先生が俺のケガに気づいて刃物で怪我をしたという事で、一応保健室に行くことになってしまった。ああ、黒川の手作り料理食べたかったなぁ……

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