第1話ー楽機隊、始動ー
1
”魔戒の時代”。
これは、この世界がそう呼ばれる様になってそう時間が経っていない頃のお話。
「厄災の日」以降、無政府状態になった世界では紛争や争い、戦いが絶えなかった。食糧などの物資の取り合い、意味のない殺し、快楽の為の人身売買などの裁かれざる罪と呼ばれた行為が世界中で横行した。
「おい!!カナデ!!聞こえているのか、カナデ!!」
厄災の日を境に、確かに世界は変わった。でも、変わったのは人間も同じだった。
「ったく・・・。アイツ、また通信を切ってやがる!!」
「あちゃ〜。これは、今回もあの子に・・・雷が落ちるわね」
それは、今までの世界の常識では幻想と呼ばれていたモノ。人間は突如として、その幻想をその身に宿してしまったのだ。
その幻想とは、”魔法”だった。
「ねぇ、カナデちゃん。ここ、どこなんだろうね?」
だが人間は、幻想の産物たるその”魔法”を得てしまった代償に、とても大切な娯楽の一つを失ってしまった。
「どこだろうと関係ないわよ。私達はただ、純粋にかつぱっぱと任務をこなすだけよ」
それは、森羅万象あらゆる音で紡がれる芸術と呼ばれた物。音色という物に想いを込めて人々に安らぎや安寧を与えた物。それは、────”音楽”だった。
「そしてまさか、本当にこんな所に潜んでいたとはね・・・」
蒼色の髪をした少女はゆっくりと手に持つモノを構えると、廃墟が並ぶ瓦礫の山で”音楽”を奏で始めた。すると同時に、その少女の前に立っていた黒髪の少女が腰に掛けていた刀を抜き
それと同時に、刀を持つ少女の髪の一部が白色に、瞳の色が赤色に変化した。
「お前達!!殺っちまえぇぇえええ!!!!!」
「「うおぉおおおおおおおおお!!!!!」」
少女達の前には、初めから潜んでいたのか大勢の武装した人達が突然現われ、少女達へ向かって一斉に襲いかかって行く。
─刀剣術・第一楽章「始奏の一太刀」─
およそ普通の人間の物とは思えない動きを見せた少女から放たれた一太刀で、少女に向かって襲いかかって行く人間達の大半が一瞬で切り倒してしまった。
「こ、この動き。この耳障りな音楽は・・・。ま、まさか、こいつら・・・!?」
音楽を奏でるという行為は、もはやただ音色に想いを乗せる物では無くなり。力を行使する為の、”魔法”を扱う為の手段と成り果ててしまった。
「楽機隊か・・・ッ!!!!」ら
”音楽”は戦いの為の手段と化し、娯楽としての”音楽”は完全に消え去った。
「クソがッ!!これでも食らいやがれぇええ!!!!」
少し離れた距離から敵は黒髪の少女の頭をめがけて一発の弾丸を撃ち飛ばす。しかし、その弾丸は少女の頭には命中する事無く、少女の頬を掠めるだけに終わってしまった。
「・・・、ッ!!歌葉、お願い!!」
”音楽”を演奏し奏でる蒼色の髪の少女は、演奏している”音楽”に少しだけ力を込める。すると、敵の遠距離からの攻撃で頬に傷を負った黒髪の少女の傷が、光に包まれて癒え始めた。
「な、!?傷が治っていく・・・だと?これがあの、”魔法”という物なのか・・・!!」
なおも奏で続けられる”音楽”に合わせる様に、黒髪の少女は敵を斬り倒しながら、リズミカルに剣戟の音を響かせていく。その様はまるで、歌っている様に映って見えた。
「これで終わりよ・・・、盗人さん達!!」
黒髪の少女が最後の一人を切り倒すと同時に、蒼髪の少女の演奏する”音楽”は終わりを迎えた。
荒れ狂う戦場で、”音楽”に身を乗せて戦うその少女達の様はまるで・・・。
「”歌奏少女・・・────」
これは、そんな彼女達がこの荒れ果てた世界から失われた”音楽”を取り戻す為の、革命の物語だ。
2
「お前達、何度言えば分かるんだ!!通信機はちゃんと常にオンにしておけと言っているだろう!!!!」
ここは、極東国 自衛軍大阪支部 第十四小隊の移動型拠点の管制室。そして長い赤色の髪の女性の怒鳴り声がこの鉄の箱で出来た管制室中に響き渡る。
「すみませんでした、四条指揮官」
「すみませんでしたー」
「八代は破損していたからともかく・・・。おい時咲、なんだお前のその態度は・・・?」
「もう、ごめんって言ってるじゃん!!わざとじゃないから許してよぉ!!」
「許す訳ないだろ!!これで何回目だと思ってるんだ!!」
赤色長い髪が特徴的な、この第十四小隊の指揮官を務める女性こと四条 魅果。そして黒髪の少女こと、この小隊の隊員時咲 カナデは、魅果に頭を鷲掴みにされて怒られていた。
そんなカナデの隣には同じく蒼髪の少女が、カナデと同じくこの小隊の隊員の八代 歌葉が大人しそうに座っていた。
「だってぇ、通信機から聴こえてくる声の音が耳障りなんだもん!!」
「だがな!!通信手段を切られると情報伝達に支障が出るんだよ。今回みたいに、八代の通信機が壊れてしまった場合とかは特にな!!」
「まぁまぁ、魅果ちゃん。今日はその辺にしておいたら?そろそろ夜ご飯が出来るって虎丸君が言ってたよ」
魅果の背後から、この第十四小隊の副指揮官を務めている少しおっとりとした女性、涼城 沙織が現われ怒り狂っている魅果をなだめ始める。
「はぁ・・・、分かった。今日はこの辺にしておいてやる。八代、後は頼んだ・・・」
「了解しました・・・。後は私からカナデちゃんに言い聞かせておきます」
「え、歌葉からも怒られるの・・・!?」
「いいから、ほらまずは食堂行くよ。カナデちゃん」
歌葉は魅果と沙織の二人に一礼すると、カナデを連れて引っ張りながら管制室を後にした。
管制室から出てすぐに、二人の視界には金髪に黒髪が混じっている髪の少し着ている服を着崩した少女と同じ髪をしている派手な服装をした少年の二人が並んで立っているのが見えた。
反対に向こうも管制室から出て来たカナデ達を見つけたようで、少女の方が少年に肘打ちをして何かを知らせた。
「ん。カナデ達がやっと出て来たよ、兄さん」
「・・・!!」
「炎司君、紫苑ちゃん。二人共、待っていてくれたの?」
「正直、私は先に行きたかったんだけど・・・。兄さんが待つって言うから。待ってたのよ」
「・・・、・・・!!」
歌葉達との会話に、無言でジェスチャーの様な物をする少年の名前を、北条 炎司。カナデ達と同じく第十四小隊の隊員であり、そしてその隣で炎司を”兄さん”と呼ぶ少女の名前を、北条 紫苑。炎司の事をそう呼ぶ通り、彼女は炎司の妹でもある。
「相変わらず無口だけど・・・、意味分かんないジェスチャーしてるけど。炎司、お前は優しいな」
「ありがとう、炎司君。紫苑ちゃんも、一緒に待っててくれて・・・」
「私は別に・・・。兄さんが言わなかったら、先に行くつもりだった訳だし・・・。お礼とかは、いいよ」
少し照れくさそうに顔を逸らす紫苑に、隣にいた兄の炎司は、爽やかな笑顔で妹の頭を撫でていた。
「・・・〜〜〜っ!!私は先に行く・・・ッ!!」
照れくささが限界に達したのか、紫苑は兄の手を振り払うと先に食堂へと向かって歩き出してしまった。
「それより、私達も行こう。もうお腹ペコペコだよぉ〜、早く虎丸さんのご飯食べに行こう!!」
「あ、待ってよカナデちゃん!!」
「・・・、ッ!!」
紫苑の後を追うようにカナデも食堂へと向かって歩き出した。その後に続いて歌葉も、炎司も食堂へと向かって歩き始めた。
第1話ー楽機隊、始動ー 終




