エピローグ
気付けば、僕は王都の外れに一人立ち尽くしていた。
どうやら無意識で此処まで来たらしい。少し、いやかなり精神的にこたえていたようだ。
「………そうか、僕はバケモノだったのか」
今なら分かる。神山での修行の時、山神であるミコトが僕に何をしていたのか。恐らくは僕の中で目覚めかけていた力をずっと封じていたんだ。封じ込めていたんだ。
そして、その力がさっきの戦いで完全に目覚めた。きっと、あの時バフォメットのアインが口にしていた力というのがそれだったんだろう。最初から、僕の力を見抜いていたんだ。
バケモノ。そう、僕はきっとバケモノだ。
なら、バケモノはきっと此処にいちゃいけないんだろう。
頭の奥を、人々の怯えた顔が過る。皆、僕に対して怯えていた。
そう、僕がバケモノだから。皆、僕の力に怯えていたんだ。
「ああ、なるほど。結局僕は他人に認めてもらいたかっただけなのか」
ずっと独りになりたかった。他人を必要としない、独りで生きていける力が欲しかった。
ずっと、そう思っていた。
けど違う。僕はただ、皆に認めてもらいたかっただけなんだ。ずっと、自分の事を理解してくれる存在を求めていただけだったんだ。ただ、それだけだったんだ。
けど、それももう遅い。もう、僕の事を誰も認めてはくれないだろう。バケモノなんて。
「………死のう。もう、どうでもいいや」
手元には、何時の間にか一振りのナイフがあった。これも僕の持つ力によるものだ。僕の能力を駆使すれば無から物質を創造する事など容易いのだろう。
それこそ、文字通り軽く意思を傾けただけで。
「……………………」
自分の首に、そっとナイフを当てた。そのナイフへ力を少し籠めれば、僕は死ねる。
そう思い、そっと力を籠め———
「駄目っ‼‼‼」
「‼?」
僕に、勢いよく飛び付いてくる何者か。その何者かが僕に飛びついた勢いで、僕とその誰かは共に地面を転がりやがて土塗れで地面に共に横たわる。
しかし、それでもその誰か。リーナは止まらない。
そのまま起き上がると、僕の上に馬乗りになって涙目で僕の頬を叩いた。
ひりつく痛みが、僕の頬に伝わる。そして、呆然とする僕をリーナはぎゅっと抱き締めた。
「ムメイは私にとって希望なの。そんな貴方を失ったら、これからどう生きればいいの?」
希望を失った自分はこれからどう生きればいいのか?
そう、リーナは告げた。
「それ、は………」
「ムメイがずっと誰かに認めてもらいたかったのは知ってる。ムメイの目が私の事を見ていないのは既に理解しているよ。けど、それでも私にとって貴方は。ムメイは———」
それまでだった。僕は、リーナの言葉を遮り強く抱き締めた。
嗚咽が漏れる。止め処なく、涙が溢れ出す。感情が抑え切れない。
「ご、めん。リーナ、ごめん………」
「………良いよ。私こそ、ごめんなさい」
リーナの腕がそっと僕を包み込むように抱き締め、そっと頭を撫でる。
暖かい。心が、リーナの優しさが何よりも暖かい。
そう、感じた。
………
…………
……………
「ねえ、ムメイは何がしたい?これからムメイはどうしたいの?」
やがて、僕が落ち着いた頃にリーナがそっと僕に問い掛けた。
それはきっと、僕の今後に強く影響する言葉だろう。だから、僕はしばらく考えてからやがて自身の回答を告げた。僕自身の、何よりの本音を。
「………やり直したい。今度こそ、間違わない為に。今度こそ、失わない為に———」
「………うん、それで良いよ。けど、これだけは忘れないで。貴方は私にとっての希望、だから私も決して貴方の事を諦めないって」
強い覚悟を秘めた瞳で、リーナは告げた。
そんなリーナに僕も僅かに笑みを向ける。
そして、僕は、僕たちは全てをやり直した………




