9,終幕
しかし、僕が冷静でいられたのはそこまでだった。
「……………………」
王都は既に火の海、何処を見渡しても炎の赤に包まれていた。逃げまどう人々、そしてそれを追い殺戮に興じる賊は皆歪んだ笑みを浮かべている。
何だ、これは?一体何なんだ?いや、分かっている。分かっている筈だ。人の世の醜さなんて僕は嫌になるほど見て来た筈だろう?それなのに………
なのに、
「………………………………」
何だ、これは?そう思わずにいられない。
これが人間か?これが人間のやる事なのか?ああ、分かっている。分かっている筈だ。
そうだ、これもまた、人間の醜さなんだと———僕は知っていた筈だ。
これもまた、人間のもつ醜さの一部分なんだと。
「………っ」
胸の奥が、軋みを上げた気がした。そうだ、僕は………
瞬間、僕の中にあった何かがかちりと音を立てて外れた。音を立てて、砕けた。
「おお、おおおああああああああああああ‼ああああああああああぁぁぁぁぁっ‼‼‼」
……
………
…………
………気付けば、其処には血の海が広がっていた。賊は皆ただの肉塊になりはて、そして生き残りの人たちは一様に僕に怯えの表情を見せている。
当然だ、僕が賊を皆殺しにしたのだから。僕が全員殺した。そう、全員を。
「ああ、そうだ———此処は地獄だ。僕は生き地獄に居るんだ」
そう呟いた瞬間、僕の意識は闇に呑まれていった。




