5,謁見
そして、貴族街を抜けたその先に王城はあった。城の門番と一言二言話した後、僕たちを乗せた馬車はそのまま城の中へと入っていく。
王城の中は中々に慌しい様子だった。城の兵士たちが城内をせわしなく走り回っている。どうにも様子がおかしいように感じるが、気のせいだろうか?
庭で馬車を降りると、僕たちはそのまま城へと入ってゆく。
………城内に入ってすぐ。僕たちは一人の女騎士を連れた青年に会った。
恐らくは王族だろう。煌びやかな衣服に身を包んでいる。そして、腰には長剣を佩いていた。
その青年の姿に、父さんは慌てて頭を下げる。僕とリーナも、揃って頭を下げた。
「これはこれは、殿下自ら御足労を……」
言おうとした父さんの言葉を、殿下と呼ばれた青年は手で制する。
殿下は僕を見ながら問いを投げ掛けた。
「エルピス伯爵、彼が御子息のシリウス殿か?」
「は、はい。私の息子のシリウスです。シリウス、挨拶を………」
「エルピス伯爵家の長男、シリウス=エルピスです」
僕の挨拶に殿下は口の端を僅かに歪めて笑みを浮かべた。そして、そのまま僕に向き直ると王族らしい優雅な仕種で挨拶を返した。
「私の名はクルト=ネロ=オーフィス。王国オーフィスの王太子だ。其処に居る彼女は私の専属騎士であり騎士団団長でもあるビビアン=アルトという」
「ビビアン=アルトです………」
クルト王子に促された女騎士、ビビアンが頭を下げる。僕たちもつられて頭を下げる。
挨拶を終えた瞬間、クルト王子は笑みを消して真面目な表情になる。その表情に父さんは顔を引き締めて姿勢を正した。僕たちも、姿勢を正して王子に向き合う。
「で、だ。謁見の間で父上はエルピス伯爵たちを待っている。より正確に言うと、もう一人伯爵たちが来るのを待つ方が居るのだが。そちらが本題に近いだろう」
「えっと、もう一人ですか?」
「ああ、詳しい話は謁見の間に来れば分かるだろう。言っておくと、今回の一件はかなりの緊急事態だとそう理解しておいてくれ」
「は、はっ!」
そう言うと、クルト王子は僕たちを引き連れて謁見の間へと向かった。
城内を進む事、数分くらい。やがて僕たちはひと際大きい扉の前へ着いた。
扉の前に居る二人の騎士。僕たちの姿を確認すると、扉の向こうへ声を上げた。
「エルピス伯爵及びシリウス=エルピス、リーナ=レイニー。只今到着いたしました!」
言うや否や、扉を騎士二名がゆっくりと開いてゆく。果たして、その先に居たのは、
「…………え?」
思わず、僕は呆けた声を上げる。
謁見の間。その先の玉座に座る国王らしき人物の隣に立つ人物。それは………
僕をこの世界の転生させた神様だった。




