1,王都への招待
そして、冒険者として仕事をこなしていく日々がしばらく続いた。そんなある日の朝、僕達の住む宿では軽い騒ぎが起きていた。それというのも、宿の前に馬車が止まっていたからだ。
その馬車は華美な装飾こそ控えてはいるが、遠目に見ても貴族の物と分かる。非常に洒落たデザインを施された馬車だった。
馬車には僕にとって見知った家紋が入っている。見知った家紋、それもその筈だ。何故ならその家紋はエルピス伯爵家の紋章だったからだ。
馬車から一人の男性が、従者と共に出てくる。僕の父、ハワード=エルピスだった。
僕の姿を確認し、僅かに苦笑を浮かべる。
「父さん、何か用事でも?」
「ああ、少し急用でな。お前を連れて今すぐ王城へ来いとのお達しだ」
その言葉に、僕は決して少なくない驚愕があった。
王城へ来いとの命令があった。つまり、これは国王陛下から直々の命令なのだろう。
流石にリーナもこれには驚きを禁じ得ないよう。口元を押さえ、言葉を失くしている。言葉もなく僕と父さんを交互に見ている。
「ああ、それからリーナ嬢も一緒に来るようにとの事だ。急で本当に済まないと思うが、どうか理解して共に来て欲しい」
その言葉に更に驚いた。僕はともかく、リーナも一緒に来いという。つまり、僕と彼女との関係をある程度理解した上で呼んでいるという事だろうか?
分からない。分からないけど、それでもきっと僕には拒否権は無いのだろう。
そもそも、拒否権があれば此処まで父さんが焦ったりしない筈だ。
なら、僕が此処で返答すべきは既に決まっているのだろう。
それを理解しているからこそ、父さんは苦笑を浮かべたのだろうし。
「分かりました。今すぐ準備をしてきますので、もう少しだけ待って下さい」
「………済まないな、シリウス」
「いえ、良いです」
それだけ言うと、僕はそのまま宿の中へと入っていった。
・・・・・・・・・
その光景を、少し離れた場所でガンクツが見ていた。非常に愕然としたような表情で。




