プロローグ
街のすぐ隣に広がる森。其処にはさほど強力ではないものの、多くの魔物が生息している。
魔物の討伐や捕獲も冒険者の仕事に分類されている。むろん、あくまでギルドの出している仕事の範囲内での話ではあるが。それを破れば、当然密猟扱いとなり罰則が出る。
魔物とは、云わばこの世界で独自の進化を果たした生物だ。故に、生態系を大きく逸脱する特徴を有してこそいるものの、この世界では広く認知されている。
そもそも、魔物とはマナという自然魔力の影響を受けて進化を果たした種なのだとか。
そして、そんな中僕ことシリウス=エルピスは………一匹のスライムと対峙していた。
「……………………」
「……………………」
スライムは動かない。僕も動かない。ただ、じっと互いに向かい合ったまま対峙する。
リーナとは、別行動をしている。ガンクツも、今は別の仕事で現在遺跡に居る。
故に、此処には現在僕とそのスライムしか居ない。静寂が、沈黙がこの場に満ちている。
スライムに目は存在しない。しかし、何となくだが分かる。スライムがまるで値踏みでもするかのように僕を見詰めている事を。
そして、僕もそのスライムがただのスライムではない事を正しく理解している。故に、そのスライムに対してほんの僅かな興味を抱いてその動向をじっと観察する。
傍から見れば、少年とスライムが見詰め合っているという奇妙な光景に見えるだろう。事実僕とそのスライムは見詰め合っているのだが。
しかし、その沈黙は長くは続かない。やがて、僕はそのスライムに対し口を開いた。
「なあ、そろそろ何か話したらどうだ?僕の言葉が分かるんだろう?」
『あ、やっぱりバレた?』
頭に直接響くような。実際頭に直接声が響いてくる。テレパシーか。
バレた、というよりも分かっていたのだが。何となくだが、こいつには人間の言葉が理解出来るとそう直感で理解していたのである。
だからこそ、話しかけたのだが。やっぱり正しかったようだ。
「で、僕に何か用か?お前、特殊個体だろう?人前に姿を現わしたら問答無用で捕獲対象になり研究対象になるのがオチじゃないのか?」
『もう分かっているんじゃないか?そう聞くって事は』
「まあ、概ねの所はな?」
こいつの言わんとしている事は大体理解出来る。
人前に姿を現わしたら問答無用で捕獲対象で研究対象となるのがオチだろう。しかし、それなのにこいつは僕の前に姿を現した。その意味は一つだろう。
つまり、こいつは………
『僕を、保護してくれないかな?』
「保護ときたか。まあ、別に構わないけど」
そう、つまり誰かの支配下に敢えて入る事で己の身を守ろうとしたのだ。
中々、知能の高いスライムではある。
スライム種って確か、魔物の中でも下位で知能も低い存在ではなかったか?
はぁ、しかしギルドにはどう説明したものか。そう思い、僕は密かに痛い頭を抱えた。




