表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
2、エルピス領編
46/57

番外、遺跡の奥に眠る3

 そして、僕達は遺跡(いせき)の奥に来た。遺跡には調査隊の人達が不休で張っていたが、僕の顔を見るなり苦笑を浮かべて頭を下げてきた。随分(ずいぶん)とまあ、顔を知られたものだ。


 まあ、それも仕方(しかた)がないだろう。そう思う事にし、そのまま遺跡へと入っていった。


 仕方がない。そう、ある種仕方がないんだ。あの事件があった後、僕達は領主(りょうしゅ)から直々に話を聞かれるはめになり街の住民からは顔を広く知られる事になったのだから。


 領主から話を聞かれる際、僕がシリウス伯爵家(はくしゃくけ)の息子だと知られたのも大きい。


 要するに、僕は伯爵家の息子という事で気を使われているのだろう。


 (ある)いは、実際に伯爵家に連絡(れんらく)が入ったのかもしれないけれど。


 若干憂鬱(ゆううつ)な気分になりつつ、僕達は遺跡の最奥。崩れた壁の更に向こうへと進んだ。其処には何かが突き立てられたような跡が残る台座と、碑文(ひぶん)が記された壁画があった。


 その壁画を見て、リーナが小首を(かし)げた。


「これ、何て()いてあるんだろう?何処(どこ)かの古代文字?いや、それにしては………」


「………これを読む者に()げる」


「?」


 僕の言葉に、リーナとガンクツが同時(どうじ)に僕を見た。


 ()める。いや、読めて当然だろう。これは日本語だ。何故か、壁画には日本語で記された碑文が記されていたのである。それも、壁画に(しる)されている内容も理解出来る。


 これは………


「私は大日本帝国陸軍軍曹。()たして、この世界に転移(てんい)してきて一体どれほどになるか。この世界に居た神を名乗る不届きもの、奴はこの世界に私が来た理由を偶発的(ぐうぜん)と言っていた」


「………ムメイ、この文字が()めるの?」


 リーナの言葉に、僕は頷く。その言葉に、ガンクツは目を見開(みひら)いた。


 そのまま、僕は碑文を読み(すす)めた。


「私は元の世界へ帰還する方法を模索(もさく)した。しかし、その方法は見つからなかった。いや、私には元の世界へ帰還する事が不可能(ふかのう)である事を知ってしまったのだ」


「……………………」


 僕の読む碑文の内容に、リーナがついに(だま)り込んだ。


 恐らく、その碑文に書かれた者の絶望(ぜつぼう)を読み取ったのだろう。


「絶望する私に、それでも(やさ)しく接してくれる存在が居た。彼女は、代々(つい)となる剣を守る巫女の一族であり今代の巫女である姉妹(しまい)の中でもとりわけ力が強かった。そんな彼女は、何故か私に対していつも親しげに接してくれたのだ」


「……………………」


「ある日、何故(なぜ)それほどまでに親しく接してくれるのか?そう直接訊ねた。彼女は苦笑を浮かべながらこう答えたのだ———貴方は、私にとって希望(きぼう)なのです。と」


「………希望?」


 首を傾げるリーナ。僕も、怪訝(けげん)な表情をしながらそれでも続けて読んだ。


「意味が分からなかった。どういう事なのかと、私は続けて()うた。それに対し、彼女はその問いに答えようと口を開いた。その瞬間、(やつ)は現れたのだ」


 奴、その言葉に僕は言い知れぬ悪寒(おかん)のような何かを感じた。


 何か、(おそ)ろしい何かが書かれている気がした。これ以上読み進めれば、もう後に引き返す事は絶対に出来ないだろうとそんな気さえした。


 しかし、それでも僕は読み進めた。


「大悪魔、神を名乗る不届きものは奴をそう呼んだ。奴の事を、オメガと名付(なづ)けた。どうやらオメガと名付けられたその悪魔は神々に単独で(いど)むだけの力を有するらしい。単独で、神々やその軍勢を相手にしてそれでも嗤っていた。嗤いながら、それでも蹂躙していたのだ」


「悪魔、オメガ………?」


「そんな奴が、この世界(セカイ)に?」


「世界は瞬く間に()の海へと変わった。私も、その大悪魔を相手に戦った。別に、この世界に対して何の義理も持たない私だが、それでも蹂躙される民衆(たみ)を見て何も思わない私ではない。そんな私に巫女の少女は二振りの剣を渡した。そう、彼女達が代々(まも)り続けた対の剣だ」


 その時、何故か僕は母から(たく)された一振りの短剣(たんけん)を思い出した。


 何故か、その剣を強く思い浮かべ頭を離れなかった。何故かは()らなかったけれど。


「………何とか、その悪魔を退(しりぞ)ける事には成功した。しかし、同時に私は正しく理解した。この剣はあまりにも強力に過ぎると。故に、その内一振りはこの台座に(ふう)じた。もう一振りも、厳重に封じた後で私と彼女の二人で管理する事とした」


「………ムメイ、この台座何も()さっていないよ?」


 (ふる)える声で、リーナが僕に言った。


 そう、この台座に何も刺さっていない。つまり、この台座に元々(もともと)突き立てていた筈の一振りは何処かへと紛失したのだろう。しかし、何処(どこ)へ?


 世界を火の海に変え、神々(カミ)の軍勢を相手にそれでも嗤いながら蹂躙する大悪魔。それを相手に退けるだけの力を有した対の剣。その片割(かたわ)れ。


 果たして、その剣は一体何処(どこ)にあるというのか?


 碑文の最期には、こう締め(くく)られるように書かれていた。


 ———どうか、この対の剣が、星魔剣(ほしまけん)が新たな(あらそ)いの火だねとならん事を切に願う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ