番外、遺跡の奥に眠る1
それからひと月ほどが過ぎ去った。あれ以来、どうもリーナが僕から離れようとしない。
まあ、理由は既に分かり切っている。あの遺跡での一件だろう。
「なあ、もう許してくれても良いんじゃないか?」
「やだ」
即答だ。どうも、少しばかりへそを曲げてしまったらしい。分かっている、流石に僕も自分が悪いという事実は黙して受け入れよう。流石に仕方がないさ。
とはいえ、もうひと月も過ぎたんだ。許して欲しいとは言わないが、そろそろ少しくらいは機嫌を直して欲しいとも思う。
或いは、リーナもバツが悪いだけかもしれないけど。それは言わぬが花かな。
一応、あのバフォメットの一件でギルドから報奨金が出ている。領主からも謝礼があり、金銭的にもかなり余裕があるだろう。既に一生の半分は遊んで暮らせるだけの金はある。
しかし、いくら余裕があるとはいえ流石に外に出ないままでは身体がなまる。
だから、そろそろ外に出ようと思う———
「なあ、リーナ?」
「なによ………」
「………そうだな、デートでもしようか?」
「っ⁉」
そう言うと、リーナはあからさまに狼狽えた。うん、デートというのは少し言い訳臭くはあるが彼女にはかなり効果的だったらしい。少々、良心の呵責があるが。
まあ良い、とりあえず外に出る事は出来そうだ。
・・・・・・・・・
とりあえず、僕達は揃って久しぶりに外へ出た。街の中を巡るだけでも中々面白い。それは流石に僕が外に出なかった弊害だとは思うけど。まあ、それは良い。
とりあえず、此処は僕がリードするべきなのだろう。ともかく、適当な飲食店へと入ろうと思いすぐ近くにあるフォークとナイフの絵が描かれた看板の店に入った。
店に入り、席に着くと揃って店のメニューを見た。どうやら此処はスイーツ店らしい。
メニューにはケーキなど甘味類が並んでいた。
ケーキとはいえ、此処は異世界。地球にあるそれとは色々と違う部分が多い。例えばアロンという名前の地球で言うところのチーズケーキがある。チーズケーキをベースにして様々な果実を盛りつけたような彩り豊かなケーキとなっている。
しかも、その果実類も地球のどこにも存在しない果物ばかり。似たものはあるが、同じものは一つとしてありはしないのである。うん、中々に独創的だ。
「じゃあ、僕はアロンと紅茶のセットで」
「あ、私はアリカとミルクティーのセットで」
僕とリーナはそれぞれ注文をした。ちなみに、アリカとは異世界版ロールケーキだ。
注文を聞いた店員が見事な営業スマイルで去っていく。
さて、そろそろもう一つの用事を済ませよう。
「なあ、そろそろリーナも機嫌を直してくれないか?」
「……………………」
「もちろん、リーナが僕の事を好きでいてくれてるのは分かってる。それに、僕が傷付いて悲しんでくれてるのも分かるつもりだ。けど———」
「………それだけじゃないよ」
「え?」
思わず、僕は聞き返した。リーナは、そんな僕の顔を真っ直ぐ見て言った。
「それだけじゃない。確かにムメイが傷付いて悲しいけど、それよりも私はムメイが大変な時に傍に居られない事が悔しいの」
「…………」
「私は、私はムメイが大変な時こそその傍に居たいと思っている。だから………」
「………ごめん、理解した」
そう言って、僕はリーナに深く頭を下げた。
そうか、リーナは其処まで僕の事を想って。そして、傍に居たかったのか。
「リーナの言い分は理解した。今度からはリーナにもなるべく頼るようにするよ」
「………うん」
そう言って、リーナは今度こそ笑顔を浮かべた。その笑顔はまるで花が咲くようだった。
思わず、その笑顔に僕は見惚れてしまった。




