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無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
1、少年編
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3、少女との出会い

 とある山道、其処で馬車が山賊達に(おそ)われていた。馬車に乗っていたのは、初老の執事と彼が仕える幼い貴族の少女の二人のみ。馬車の御者(ぎょしゃ)をしていた男は、山賊により早々に害された。


 御者をしていた男は(きた)え上げられた優秀な男だったが、咄嗟の事で判断が(にぶ)ったのだろう。或いは時間帯が深夜だったことも(わざわ)いしたのかもしれない。判断能力が低下していたのだ。


 そんな中、馬車は山賊に襲われて瞬く間に少女と執事は馬車から()ろされた。


          ・・・・・・・・・


 どうして、こうなったのだろう?どうして、こうなってしまったのだろうか?


「いや、(はな)して‼」


「へへっ、放すかよ!」


 私は絶望の(ふち)に居た。山賊に襲われ、もはや囚われの身に堕ちるしかないのだろうか?そんな事を頭の片隅で覚悟した。しかし、それでも怖いものは怖い。身体が(ふる)え上がる。


 そんな私を爺やが(かば)う。庇われるだけの私。どうしようもなく情けないけど、震えが止まない。


「くっ、お嬢様を放せ!わしはどうなっても構わん。・・・お嬢様だけは」


「るっせえよっ‼」


「ガッ‼」


「爺やっ⁉」


 私を助けるよう懇願(こんがん)する爺やが蹴り付けられ、血を吐いた。私は思わず悲鳴を上げる。山賊達が品も無く嘲笑を上げる。私に何も出来ないのがとても(くや)しい。もう、駄目なのか?


 そう、私が諦めかけた。その時———


「お前等、全員(うご)くなっ‼‼‼」


 瞬間、その言葉一つで山賊達が嘲笑を止めてぴたりと止まった。何が起きたのか?そんな事を考えていると再び声が聞こえてくる。聞こえたのは、少年の声だった。


「バインドっ‼‼‼」


 その言葉と共に、何処からともなく(ひも)が魔法のように飛んできて、山賊達を拘束していった。それはまさしく一瞬の出来事だったと思う。私は思わずぼうっとその光景を見ていた。


 すると、木陰の奥から一人の少年が出てきた。黒髪に、きれいな(あお)い瞳の少年。


 恐らく、まだ10歳くらいだろう。そう、まだ少年だった。


 私は、胸が大きく高鳴(たかな)るのを感じた。この感覚は一体何なのか?このときはまだ解らないけど、それでもこれだけは理解出来た。これはきっと、運命(うんめい)の出会いだったのだと。


 ・・・この時の出会いを、私はきっと何時までも忘れないだろう。いや、絶対に忘れない。


 そう、私は誰ともなしに(ちか)った・・・


          ・・・・・・・・・


 ・・・僕は今、裏山を越えて(けわ)しい山道を歩いている。この山道を越えれば、その先にエルピス伯爵の治める街があるはずだから。現在、僕の目的地は其処だ。


 その街にあるギルドで冒険者(ぼうけんしゃ)の登録をしようと思っている。冒険者とは即ち、一定の土地に定住せずに探索と魔物の討伐を生業(なりわい)とする者達の事だ。


 彼等は基本的に、ギルドに所属して組織の斡旋(あっせん)する仕事で食い繋いでいるという。


 ならず者の吹き溜まりと揶揄(やゆ)される事もあるが、中々自由度の高い職業らしい。


 冒険に魅力(みりょく)を覚えた者のたまり場ともされるのが証拠だろう。まあ、他に行き場を失ったならず者も確かに集まるようだが。それでも冒険者になる旨味(うまみ)も確かに存在する。


 ギルドの発行するカードは身分証明書にもなり、この世界全土で有効となる。


 以前、会った冒険者の男が言っていた。ギルドカードは魔術により偽造(ぎぞう)が不可能になっている。それ故にそのギルドカードは金貨(きんか)千枚に匹敵する価値(かち)があるとか。その為、ギルドカードは冒険者にとって誇りと同じ意味があるとか。


 ・・・話が()れた。


 山道を歩いていると、ふと何か鉄臭い香りが鼻を突いた。・・・これは、血の(にお)い?


 どうも面倒な予感がするな。そっと木陰に隠れて様子を見る。気配遮断の魔法を、二重に掛けた。


 其処には、半ば僕の予想通りの光景が広がっていた。其処では、貴族(きぞく)の物と思われる馬車が山賊の集団に襲われていた。馬車の御者と思われる死体もある。


 山賊に襲われているのは、貴族と思われる少女と初老の執事(しつじ)だ。


「いや、放して‼」


「へへっ、放すかよ!」


 貴族らしい身なりの良い少女が、山賊に捕まり必死にもがいている。執事がその少女を開放しろと喚き山賊に蹴り付けられた。執事が血を吐き、少女の悲鳴(ひめい)が上がる。


 山賊の嘲笑が響き渡る。僕の胸の奥がざわつく。どうも(いや)な気分だ。見ていて、気分の良い物では断じてないだろうけれど。それでも、それでも僕は・・・


 黒い感情が、僕の胸の奥を()がしてゆく。しかし、だとしても僕に何が出来る?どうせ、あんな奴等何とも思わないくせに?あんな奴等の事なんか、本当は何とも思っていないくせに。


 ああ、そうさ。僕はあんな奴等、どうなろうと知った事ではない。知った事では無いんだ。


 ・・・それなのに。その(はず)なのに。ちくしょう。


「・・・・・・・・・・・・っ」


 その、筈なのに。何故こうも僕は(まよ)っている?何故こうも胸がざわつく?嫌な気分だ。本当に、どうしようもなく嫌な気分だ。


 ああ、ちくしょうっ‼


「お前等、全員動くなっ‼‼‼」


 言霊(ことだま)。言葉に魔力を籠め、人心(じんしん)を操る魔法。


 気付けば、僕は動いていた。何故この時動いていたのかは後になっても(わか)らない。只、衝動的にとしか言いようがないだろう。そうとしか解らない。


 ・・・そう、本当に解らないんだ。


「バインドっ‼‼‼」


 動きを止めた山賊達を、魔法の紐で拘束(こうそく)していく。やがて、山賊達は全員拘束された。


 そっと、僕は木陰から出る。少女は僕を呆然(ぼうぜん)と見ている。けど、知らない。僕はそれを無視して初老の執事に近付いてゆく。執事が、警戒(けいかい)した瞳で見ているけど。それも知った事か。


 そっと手を執事の腹部にかざす。先程、()り付けられた所だ。


「ヒール」


 淡い光が執事の怪我を(いや)してゆく。その光を見て、少女と執事が驚いた目で僕を見る。そして、執事は僕の顔を凝視するように見詰めた。一体何だよ?


「その黒髪に、青い瞳。それに・・・その魔法の(さい)はまさか?」


「・・・?っ、ぐあっ‼」


「きゃあっ‼」


 瞬間、木陰の奥から一本の矢が飛んできた。矢は、僕の肩に命中する。少女が悲鳴を上げた。


 どうやら、(かく)れていた奴が居たらしい。くそっ、油断した。周囲にも気を付けるべきだった。


 木陰の奥から山賊の男が現れる。その男は、(いか)りに肩を震わせている。その瞳は、僕を真っ直ぐに見詰めて睨み付ける。どうやら、僕は失敗したらしい。


「よくも、よくもやってくれたな。クソガキがっ‼‼‼」


「ファイ・・・がっ‼?」


 魔法を(とな)えようとした瞬間、僕は距離を詰めた山賊の男に腹部を蹴り上げられた。鈍い痛みが、腹部を駆け抜けるように奔る。くそっ、一瞬意識が()んだ。


 そんな僕に、暗い愉悦を(とも)した瞳で山賊の男が睨み付けた。僕は、男の瞳を真っ直ぐ睨む。


「気に食わねえ。気に食わねえぜ、その(ひとみ)・・・」


 そう言って、男はナイフを振り上げる。しかし、直後僕と山賊の二人共に予想外な事が起きた。


駄目(だめ)っ‼」


「何・・・?」


「今の内に()げて、早くっ‼」


 少女が、僕を(かば)うように僕の前に割り込んだ。その光景に、思わず僕も山賊もぎょっとする。少女は怯えを宿した瞳で、しかしそれでも覚悟(かくご)を決めて僕の前に割り込んだのだろう。


 しかし、その行動が山賊の怒りに火を(そそ)いだらしい。瞳を獰猛(どうもう)にぎらつかせた。


「そうかよ、ならお前から死ねガキがっ‼‼‼」


「っ、ファイア‼」


 山賊がナイフを振り上げた瞬間、僕は少女の間に更に割り込んで魔法を唱えた。結果、山賊のナイフが僕の肩に深く食い込む。しかし、代わりに僕の放った炎が山賊を()やした。


 火だるまになった山賊が、地面にのたうち回る。


「ぐっ、ぎゃあああああああああああああああっっ‼‼‼」


 山賊が炎に(つつ)まれ、そしてやがて焼け死ぬ頃になって・・・僕は痛みに耐えかねて意識を失った。


 何か、直前に僕を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど。多分気のせいだろうな。でなければ、こんなに僕を心配してくれるような。こんな()きそうな声をしている筈がないんだ。


 そんな事を思いながら、僕は意識を手放して(やみ)の中に・・・

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