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無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
2、エルピス領編
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6、剣の街

 そして、僕とリーナは再び(もり)の中を歩いていた。場所は(すで)にエルピス伯爵領だ。


 エルピス伯爵領とレイニー伯爵領は隣り合っている。簡単に説明をすれば、神山(しんざん)を挟んでそれぞれの領地が存在している事になるだろう。


 僕達は今、森を抜けた先にある一つの街に向かっている。その街は、(つるぎ)の街という。とある冒険者の男が仲間達と共に興した街だ。通称冒険者の街という、冒険者が(つど)う街。


 街としてはかなり小規模で、かろうじて街と()べる程度の規模に(おさ)えられている。


 しかし、それでもこの街にはかなりの数の冒険者が集まるらしい。何故かと言えば、剣の街はある神代の遺跡に隣接して造られた街だからだ。


 簡単に言えば、その遺跡から出土する遺物(いぶつ)を目当てにして冒険者が集まるという訳だ。


 或いは、遺跡の冒険や探索(たんさく)そのものにロマンを感じるような酔狂(すいきょう)な奴等とかか。


「………えっと、剣の街に用があるって。ムメイも遺跡が目当て?」


「いや、僕の場合はたんに冒険者として登録(とうろく)をしようと思って」


「じゃあ、まずはギルドの登録を先に()ませる?」


「いや、その前に宿(やど)を取ろう。先に部屋を確保しておかないと」


 ………ともかく、まず先に宿で二部屋確保しないとな。そう、僕はこっそり考えちらりと隣を歩く少女の姿を横目で見る。本当に、どうしてこうなったのだろうか?


 思わず溜息を()きたくなる。結局、僕はリーナと一緒に冒険に出る事になった。貴族の令嬢を連れて共に冒険へと出る、それは口で言うより遥かに(きび)しい状況だろう。


 まず、基本的に不衛生(ふえいせい)だ。


 冒険者は各地を転々と(たび)するため、風呂など一種の贅沢品だ。そもそも川で身体を洗ってそれで終わりの状態が続くという。僕だって、風呂に入った経験は前世以来一度も無いくらいだ。


 次に、食生活が不規則(ふきそく)になる。


 各地を転々と旅して回る。其処にロマンを感じるのは別に()いだろう。しかし、冒険者は食料の確保がかなり大変だ。それ故食生活が不規則になりがちという事実がある。


 次に、睡眠時間が不規則になる。


 冒険者は野宿(のじゅく)が基本だ。それ故、時として魔物の出る森の中で()る場合もあるだろう。その場合冒険者は交代で睡眠を取る必要が出てくる。火の(ばん)をする必要も出てくるだろう。


 そもそも、一人旅の場合は寝ている(ひま)がない場合も多いけど。


 そして、最後にその命を誰も保証(ほしょう)してはくれない。


 冒険者は基本的に自分で自分の命を(まも)らないといけない。それだけに、何時死んでもおかしくないような人間が大多数だという。そもそも、彼等は自由の()わりに命の保証をして貰えない。


 何時死ぬか分からない冒険者にとって、自分の命とは自分で守るものなのだから。


 そんな過酷な環境に、何故貴族家の当主が自身の愛娘(むすめ)を投じたのか?


 それも、一人娘であるリーナをだ。


 もちろん、僕は自分が気に入られているからなどと楽観(らっかん)する気など一切無い。そんな簡単な話では断じてありはしないだろう。


 自分の娘を(あい)していない、というのも無いだろう。リーナと両親の様子を見れば、その親子愛が本物であるというのは火を見るよりも(あき)らかなのは事実だ。


 なら、何故(なぜ)


 ………少し考えて、僕はすぐに(こた)えに行き着いた。


 恐らく、僕はあの両親に(ため)されているのだろう。リーナを預けるに相応しいのか。そんな厳しい環境において自分より彼女を優先して(まも)り切れるのか、それを試されているのだ。


 そして、それはリーナにも言えるだろう。自分の娘に対し、そんな(きび)しい環境に居てそれでも僕への恋心を貫けるのか?それをあの両親(おや)は試しているのだ。


 そもそも、家を出たとはいえ僕は貴族家(きぞくけ)の子供なのだから。


 そんな子供に貴族家が自身の娘を寄越(よこ)した。それはつまり、思惑としては一つだろう。


 それも、レイニー伯爵家が一人娘を寄越したなら思惑としては一つしかない。恐らく僕は何れ実家に連れ戻されるかレイニー伯爵家に婿入(むこい)りする事になるか、そのどちらかだろう。


 まあ、それでもきっとそれぞれの家から信頼を()けているのは間違い無いだろうけど。それは伯爵家を出る時に貰った決して少なくない金貨(きんか)が示している。


 一応、体裁としては娘ともども助けて貰った礼金(れい)という名目であったが。


 袋一杯に入った金貨。恐らく、結婚(けっこん)する事があったらその時はよろしくと言いたいのか。


「……………………」


「………?ムメイ?」


 何かあったら、リーナだけは助けよう。そう、僕は心の中で(ちか)った。


 恐らく、もう僕に自由なんてありはしないだろうから。せめて自由に出来る範囲(はんい)では。


 ……… ……… ………


 そうこうしている内に、僕達は街に着いた。神代(かみよ)の遺跡に隣接して(つく)られた街、剣の街。


 その名前の由来は、街の中央の岩に()き立てられた一本の剣だ。岩に突き立てられた剣、それは神話の中に登場する一人の英雄(えいゆう)に由来して冒険者の男が突き立てたという。


 神話の英雄、遥か神代に一体の悪魔(あくま)から民衆を守って果てたという一人の青年の話。強大な力を持つ一体の悪魔から民衆を守り、最後まで戦った勇敢な英雄。勇者(ゆうしゃ)ゼクスの物語。


 その神話的英雄が振るったとされる聖剣と魔剣。その内一振りである(ほし)の聖剣が岩の台座に突き立てられていたという伝承を元にして、この街を(おこ)した冒険者は岩に自身の剣を突き立てた。


 まあ、中々に馬鹿(ばか)というか。酔狂な話だろうと思う。


 ともかく、僕とリーナは街の中へと入る。中央に剣が突き立った、小さな街。


 冒険者の集まる街、(つるぎ)の街へ。

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