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無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
2、エルピス領編
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4、伯爵家の子

 現在、僕はエルピス伯爵家の兵士達に囲まれていた。無論、既に魔力は(ふう)をしてある。


 しかし、オーナー公爵(こうしゃく)が殺されたのはいただけない。重要参考人であるオーナー公爵が殺された以上此処に居る僕が一番(あや)しい人物になってしまうからだ。はっきり言って、手痛い失態(しったい)だ。


 まあ、とはいえ其処は公爵家の跡取り息子であるアーリアが何とかしてくれるだろう。そう信じたいのだけれどまあ、現在押し問答の最中(さいちゅう)だ。


「ですから、この方は父様を()めるために動いて下さってですね!」


「ですから、それ等も含めてこれから我々で調(しら)べさせて貰う事ですから。もちろん御子息からもお話を聞かせていただきますので」


「いや、ですから………」


 と、このように一向に話は進展(しんてん)しないのだった。まあ、解ってはいたけどな?


 この手の話は、大体押し問答になる事くらいは解っていた。


「はぁ、本当に面倒(めんどう)だな………」


 そう、思わず溜息を()いた。その時———


 其処にある意味予想外な、そしてある意味妥当(だとう)な人物が現れた。


「待て!」


 突然(ひび)いたその声。瞬間、場の空気がざわついた。其処に現れたのは、プラチナブロンドの短髪を後ろで纏めた男性だった。細身だが、しっかりと引き()まった体型と優しいけど立派な顔立ちの男性という印象を一目で()ける人物だった。


 そして、その男性は僕の方を見て僅かに瞳を()らした。そして、僕自身何故かこの男性を見て懐かしいような気分になってくる。何故(なぜ)か?解らないけど、何故か懐かしい気分になった。


 或いは、母さんや妹と一緒に過ごした日々(ひび)を思い出したのか?


 ………もしかして、この男?


「そうか、お前が俺の息子(むすこ)なんだな?」


「………父さん?」


 僕と男性の言葉に、周囲の兵士達が更にざわついた。どうやら、兵士達は()らないらしい。


 逆に、アーリアは何処か納得(なっとく)したような表情をしている。


 そうか、この男がエルピス伯爵なんだな?なるほど、僕と僅かに面影が()ている。いや、或いは僕の方が父さんと面影が重なるのかもしれない。


 そんな父さんは、僕の顔を見て僅かに(うる)んだ瞳で見詰めた。そして、感極まったように僕を力強く抱き締めてくる。それを、僕は(だま)って受け入れた。いや、違うか………


 ただ、流石の僕も父親を前にしてどう反応を(かえ)せばいいのか解らなかったのかもしれない。


「魔法で連絡(れんらく)をよこしてきた時はまさかと思ったぞ。しかし、本当に会えて良かった」


「僕は、僕、は………」


「いや、今は良いんだ。また一緒に家族で()らそう。今度こそ、皆で一緒に………」


「…………っ、僕はっ」


 解らない。僕は、これからどうすれば良いんだ?何も解らない。


 ただ、このままでは間違(まちが)いなく父親と一緒に()らす事になるだろう。それだけは解った。果たしてそれは正解なのだろうか?何も解らなかった。


 このまま、家に()れ戻されて家族と一緒に暮らすのが正解なのか?それとも………


「…………少しだけ、(かんが)えさせてください」


 それだけしか、今は言う事が出来なかった。そんな僕を見て、父さんが苦笑(くしょう)していた。


          ・・・・・・・・・


 そして、僕は別室で一人考えていた。果たして、僕はどうすれば()いのか?


 別に、父さんの事は(きら)いではない。かといって、父さんと一緒に暮らしたい訳でもない。少なくとも僕は家族との縁を切ってまで(たび)に出たのだから。


 けど、これ以上家族を(かな)しませるような真似はすべきではないのかもしれない。神山での長い修行を経て考えてはいた事だ。本当に、家族を()ててまで旅に出る事は正しかったのか?


 少なくとも、(ただ)しい事ではないのかもしれないけど。いや、それでも———


 いや、あの時は確かに僕なりに考えた結果旅に出た筈だ。僕なりに考え、それでも一人を選んで結果として家族を捨てた筈。しかし、今考えてそれは本当に正しい事だったのだろうか?


 解らない。解らない。もう、何も解らなかった………


 と、そんな時。扉がゆっくりと開いてリーナがおずおずと中を(のぞ)いてきた。


 ………どうやら、目を()ましたらしい。この部屋も近くの兵士にでも()いたのだろう。


 或いは、魔法で(ねむ)らされた事に何か思う事でもあったか?


「………ムメイ?」


「………目を()ましたか?リーナ」


「うん。えっと………あの、ありがとう?」


 何故か、リーナにお(れい)を言われた。何故だ?今、僕はおそらく怪訝(けげん)な顔をしているだろう。


 少なくとも、お礼を言われるような事は何もしていない筈だ。


 全部、僕が勝手(かって)にやった事なんだから。文句を言われこそすれ、礼を言われる覚えは無い。


「えっと、何が?」


「………えっと、私の家を(たす)けてくれて。私にこれ以上(いや)なものを見せないように、魔法で私を眠らせて一人で全部片づけたんでしょう?」


「勘違いしないでくれ。別に君の為じゃない、全部僕が自分の感情(かんじょう)でやった事だ」


「うん、でも貴方の感情でやった事が、私の家族を結果として助けたのは(たし)かだから」


「…………」


 流石に何も言えなくなった。本当、僕は(よわ)いよなあ。


 神山での修行を()て強くなった筈なのに。それなのに、本当、僕は弱いままだ。こんな程度の言葉一つで揺らぐなんてな。こんな言葉一つでざわつくなんて、僕はまだ弱いままだ。


 こんな筈じゃあ無かった筈なのにな。どうしてこうなったのか?


 僕には、解らなかった。何も解らなかった………


「……………………」


 そんな僕を見て、何を思ったのか?リーナが僕をじっと見詰(みつ)めていた。


「何だ?」


「………そんなに、一人になりたいの?」


「は?」


「そんなに、ムメイは一人じゃなきゃ(いや)?」


「…………」


 リーナの瞳はじっと僕の瞳を真っ直ぐに見詰めている。そんな彼女に瞳に僕は(だま)り込む。


 本当に、僕は弱い。嫌になるくらいに僕は弱いままだ。彼女の言葉に、何も言えなくなる。


 こんな時、強気(つよき)で何か言えれば良いのに。そう、思わなくもない。


「………よ」


「え?」


「良いよ、別に。ムメイはムメイの(おも)うままに行動すれば良いと思う」


「リーナ?」


「もっと、ムメイは自分の思うままに行動しても()いと思うんだ。それが、きっと周りを助ける結果に繋がると私は思うから。私も、それに(たす)けられた訳だし?」


「…………」


 リーナはそう言うと、そっと僕の瞳を(のぞ)き込んだ。息が掛かる程、近い距離。思わずドキリとしそうな程にはかない笑顔で僕を見ている。そのまま、力強く()き締めたい衝動に駆られるが。


 僕は、リーナから視線を()らして思わずふてくされたような顔をした。何だか、これじゃあ僕が彼女に負けたような気分になってくるけど。きっと、この感情も弱い証拠(しょうこ)なのだろう。


 そう思って、余計にふてくされる。本当、僕は弱い。


「何で、そんな事をリーナが?」


「私も、ムメイに(すく)われたからだよ。………ムメイが感情のままに動いてなければ、きっと私もじいやもあの時山賊に殺されていたかもしれない。あるいは、もっと(ひど)い目にあってたかも」


「…………それでも、あれは僕にとって」


「ムメイにとって、ただ気分が(わる)かったからした事でも。それでも私にとってはあの時のムメイは何者より輝く勇者様(ゆうしゃさま)だったんだよ?」


 そう言い、そっと頬を()めるリーナ。思わず、僕もその表情(かお)にドキリとする。


 しかし、そうか。僕がやった事が、結果としてリーナを(すく)う事になっていたのか。


 きっと、僕が感情のままにやっていた事でも。彼女にしっかり影響を(あた)えていたのだろう。


 そして、そんな彼女も(ぼく)に影響を………


「良いのか?僕は()きにして良いのか?勝手(かって)にしても良いのか?」


「うん、それがきっと(めぐ)り巡って誰かを救う結果になるから」


 そう言って、リーナはそっと僕を()き寄せた。暖かい、確かな(ぬく)もりが僕の心を包む。


 少なくとも、この言葉で僕の心は(かる)くなった———気がした。

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