プロローグ
「はっ……はっ……はっ………‼」
逃げる。逃げる。逃げる。何処までも逃げ続ける。深い森の中、私は何処までも逃げ続ける。逃げなければ追い付かれると知っているから。逃げ続ける。逃げなければ………
逃げなければ。もっと遠くに。ずっと遠くへ。
速く。速く。速く。急がないと………それは追いかけてくるから。
何処までも、何処までも。追いかけてくる。それは、黒いアンデッドの犬。その群れだ。逃げなければ追い付かれて私は食われるだろう。その事実に、私は恐怖する。
足をもつれさせ、それでも何とか姿勢を整えて走り続ける。急がねば、早く、もっと早く走らねば追い付かれてしまうだろう。それが、怖い。どうしようもなく、怖い。
無様でも、恰好が悪くても、それでも逃げなければいけない。私は、逃げなければ。
しかし、それでも私の体力は限界なのだろう。脚をもつれさせ、派手に転倒する。
痛い。
「い、痛っ~~~」
派手に転んだ結果、脚をすりむいてしまった。しかし、痛みに気を逸らしている暇など無い。
アンデッドの黒犬はすぐ傍まで来ていた。唸り声を上げ、ゆっくりとにじり寄ってくる。
私の恐怖は、ついに頂点にまで達した。思わず、悲鳴を上げる。
「い、いやぁ………こ、来ないで…………っ」
しかし、現実とは無情なもの。黒犬は勢いよく私に襲い掛かってくる。
きっと、次の瞬間には私はこのアンデッドの餌となってしまうのだろう。
恐怖のあまり咄嗟に目を瞑る。しかし、次の瞬間黒犬の悲鳴が響き渡った。そして静寂。
「………え?」
疑問の声。それは、私のもの。それは、つまり私は生きているという事実。何故、どうして私は生きているのだろうか?そもそも、今の悲鳴は?
ゆっくりと目を開く。其処には、私と同年代くらいの少年の背中が。その背中に、何故か私は懐かしい気持ちを覚える。何故?
しかし、そんな感傷に浸っている場合じゃないだろう。恐る恐る、私は少年に声を掛ける。
無様だが、震える声で私は少年に声を掛けた。
「あ、あの………えっと」
「君は、また襲われているんだな?」
え?また………?
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。しかし、その声は聞き間違えようがない。その声の主を私は確かに知っている筈だから。間違える筈が無いだろう。
何故なら、その声は………
その声の主は………
「ム……メイ………?」
「久しぶりだな?リーナ………」
そう、無銘の少年が私の前に再び現れたのだ。私は、十年ぶりに彼と再会した。




