6、神候補ミコト
シンラの背後にあるモニターに、俺のパーソナルとも呼べる情報が記載されていた。其処には俺の能力値や精神的素養など、様々な情報が数値化されて記載されている。
俺は、すぐにはその意味を理解する事は出来なかった。思わず、怪訝な顔をする。
「まず、先に話しておくと神霊種とはつまりこの多元宇宙において全生命体のオリジナルだ」
「全生命体の・・・オリジナル?」
そうだ、とシンラは答えた。さも、当然とでも言うかのような言動。
・・・えっと?つまり、それはどういう事だろうか?オリジナルという事は、つまりは俺達全人類を創造した時に自分を元に創ったという事か?神話の神みたいに?
混乱する俺に、シンラは補足説明を入れた。解りやすく、懇切丁寧に。
「つまり、だ。神霊種たる俺は物質界たるこの宇宙を創造した。しかし、ならその宇宙に住まう生命体達はどうなんだ?どのようにして生まれた?お前達は何処から来た?」
「・・・やはり、シンラが創造したんじゃ?世界が神の創造した被造物なら、世界に住まう生命達も神が創造した物と考えるのが正しいと思うのだけど・・・」
その回答に、シンラは首を横に振る。どうやら、違うらしい。
そして、シンラは再度説明に入る。俺達物質界の生命と、神霊種との関係を。
「その回答は正確ではない。つまり、俺が全生命のオリジナルなんだよ。簡単に説明すると、全ての生命は俺を起源にして生まれている。より具体的に言うと、全ての生命は俺から切り離された魂と霊を起源にして生まれているんだ。だからこその、オリジナルだ」
「・・・・・・えっと?つまり、俺達全人類はシンラという神霊種から魂と霊を切り分けられて生まれた分霊という訳か?それで、その魂を起源に独自の進化をとげてきたと?」
「そうだ。そして、その進化の末にオリジナルたる神の領域にまで上り詰めたのがお前の魂だ」
・・・ ・・・ ・・・は、はぁ
俺は、どういう反応をすれば良いのか咄嗟に理解出来なかった。えっと?つまり、だ。
俺は神霊種シンラを起源にした魂を保有して生まれてきた。そして、永い進化の歴史の果てに俺の代になり神霊種としての資格を得たという訳か?いや、意味が解らない。
つまり、どういう事なんだ?何故、俺が次代の神霊種なんだ?神霊種とは?
やべえ、軽く混乱してきた。
「・・・えっと?」
「理解出来ないみたいだな。そもそも、不思議に思わなかったのか?この物質界で、一つの例外もなく肉体を持たずに物質に干渉出来る者は居ない。というのに、お前はそれに干渉してきた。その矛盾点はどう説明するつもりだ?そも、何故お前は霊体になっても自我を残してるんだ?」
「あっ・・・」
ようやく、俺は理解した。
そうだ、つまりそういう事だ。不思議に思っていた。気付かなかった訳では無かった。
俺は、幽霊になっても明確な自我を残している。そして、他の幽霊は何処か漠然と存在している事しか出来ない曖昧な存在と化していた。それは、つまり・・・
其処まで言われれば、馬鹿の俺でも流石に理解は出来る。つまり、だ。俺は、オリジナルたる神霊種の領域にまで魂と霊を進化させた。故に、ある程度物質界に干渉させる事も出来たのか。
思考により奇跡を起こす。それは、もはや神の所業だ。最初の内に気付けば良かった。
まあ、気付けたとしても体の良い妄想で片付けたかもしれないけど。
「・・・まあ、物質界にある程度干渉出来ると言っても限界があるがな。現に、この俺でも物質界に干渉する為には明確な肉体を必要としたくらいだ」
そして、とシンラはもう一つ付け加えるように言った。重要な事実を・・・
「お前が幽霊になっても尚、物質界に干渉できるのは元々肉体を保有していたのが原因だ」
つまり、元々俺が肉体を保有していた為に、その感覚に今も影響を受けていると。
直接物質に触れる感覚を覚えていた為に、幽霊になっても物質に干渉する事が出来たと。
そういう事らしい。じゃあ、つまり俺もこのまま時間が経てば、霊体の感覚に馴染んで物質界に干渉が出来なくなるという事か?それを、シンラに聞いてみる。
結果、答えはYESらしい。静かにシンラは頷いた。
「・・・・・・マジか」
「まあ、幸いな事にお前は俺と出会った。そして、俺と出会う前に何人かお前を認識出来る存在とも出会う事が出来た。それにより、お前の神霊種としての肉体を構築する準備は出来ている」
精神生命である神霊種は、人類に観測される事で肉体を構築する。つまり、確かに居ると認識される事により物質界に干渉する為に肉体を得るのだろう。
「・・・・・・マジ?」
「本当だ」
「マジで、本当に・・・?」
「本当の本当だ」
「嘘おーーーっ‼‼‼」
「いや、本当だって言っている」
そう言い、シンラはおもむろに立ち上がりそっと俺の胸の中央に触れた。瞬間、振れられた部分からどんどんと熱を帯びてゆき、次第に全身に熱が駆け巡っていった。
それは、まるで血液が全身に駆け巡るような感覚だった。そして、やがてその熱に俺自身が慣れてきた頃には俺に不思議な感覚が湧いてきた。つまり、幽霊独特の浮遊感が消えている。
死んでから、今まで。まるでふわふわと浮いているような感覚だった。実際、ずっと空中に浮いて過ごしていたから。それが普通だった。しかし・・・
その独特の浮遊感が消え、代わりに確かに地を踏み締めるような感触があった。
それは、久しく感じていなかった肉体の感触だ。つまり、俺は再び肉体を得た訳だ。
「これは・・・え?あれ?」
「混乱しているな?だが、安心しろ。お前は既に思考で物質に干渉する感覚を得ている。それによりお前は肉体を得ても、訓練次第で再び思考するだけで奇跡が起こせるようになるだろう」
「・・・いや、そういう意味じゃなくて。えっと?ええ?」
俺は、柄にもなく混乱していた。幽霊の状態から、再び肉体を得たのだ。無理も無い。
そして、どうやらそれを察したらしいシンラはなるほどと頷いた。苦笑一つ・・・
「なるほど?どうやら、再び肉体を得た事に困惑しているらしい」
「・・・あ、ああ」
「それならば、別に問題はない。すぐに慣れる」
「は、はぁ・・・・・・」
そう、曖昧に返事をした。その直後の事だ。こんっこんっと、ドアをノックする音が。
誰だ?そう思った矢先の事・・・
「お兄様・・・失礼します」
澄んだ、鈴を鳴らすような声だった。
直後、ドアが開いて一人の少女が入ってきた。まるで、人形のようにきれいな。それでいて人間離れした美を放つ少女が入ってきた。そして、俺の姿を認識すると瞬時に硬直した。
そう、俺の姿を見て俺を直視したまま硬直している。まあ、俺は侵入者だからな。当然か?
「えっと・・・誰、ですか?何故お兄様の部屋に・・・・・・」
「あー・・・コンニチワ?不審者デス」
「あ、はい。こんにちわ・・・・・・じゃなくてっ‼‼」
おおっ、見事なノリツッコミ。俺は、思わず親指を立てて笑みを浮かべた。
しかし、からかわれたと知った少女は露骨に警戒心をあらわにする。うむ、からかい過ぎたかと俺は素直に反省をした。まあ、後悔はしていないけどな!
そっと、溜息を吐くシンラ。
「あー・・・紹介しよう。俺の義妹のシンガだ。そして、こいつは俺の後継者予定のミコト」
「は、はぁ・・・って後継者?シンラの?」
「お兄様⁉」
俺は、ぎょっとした顔でシンラを見て。そして少女、シンガは愕然と兄に問う。
偶然にも、この時俺とシンガの意見は一致した。つまり、本気か?
「本気だよ、二人とも。俺は、ミコトを俺の後継者。次代の神霊種にする」
そして、場の混沌はその密度を増していった。どうすんの、これ?




