表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
閑章、神霊ミコト編
21/57

4、月へ降り立ち月の文明

 そうして世界をあらかた(たび)した俺は、ある事実に気付いた。俺のような幽霊(れい)は、何処にも存在しないという驚愕の事実にだ。いや、正確には幽霊自体は存在(そんざい)する。しかし、だ・・・


 俺のような、はっきりと明確な自我(じが)を持った幽霊は存在しないという事実にだ。浮遊霊や地縛霊などのそこら辺に居る幽霊は、どいつもこいつも自我を失い只其処に()るだけの存在と化している。


 生前の後悔(こうかい)や心残りにより、強い残留思念を残している例はある。しかし、俺のように自由気ままに己の思うまま動き回る幽霊(モノ)は何処にも居ないのである。


 簡単に説明すると、幽霊というのは本来は只其処に漠然(ばくぜん)と存在している霊体。つまりは精神体だ。


 肉体を失い、霊体のみとなった存在は完全に自我を喪失(そうしつ)する。ある程度残留思念が残る例はある。


 その場合、こびり付いた後悔や心残りが強力な霊障(さわり)(たた)りを引き起こす事例は確かにある。


 しかし、それでも俺のような明確な自我(じが)を残したままの幽霊など他に例は()いだろう。事実、俺のような存在が他に居れば、俺のように勝手(かって)気ままに世界を旅する幽霊や家族に多大な影響を起こす霊が居てもおかしくはないだろう。それが存在しないと言う事は、(ほか)にそんな例は無いという事だ。


 つまり・・・


 俺は、(まれ)な事例を超えた本当のイレギュラーという事だ。


 流石に、これには俺自身(あき)れ果てた。我ながら、何とも珍妙(ちんみょう)な存在になった物だ。


 しかし、何故幽霊になると自我を失うのか?それはある程度推測(すいそく)は立っている。要するに、霊体と肉体を備えた完全な状態でなければ自我は芽生(めば)えないという事だろう。


 肉体と精神体が(そろ)ってこそ、自我は芽生えるという事なのだろうと思う。


 簡単に説明すると、だ。肉体と精神体が別々(べつべつ)に存在しても、自我は決して生まれえない。物に触れて知覚する事の出来る肉体と、思考する為の霊体(れいたい)。それが揃って初めて人は自我を芽生えさせる。故にそれ等が別個(べっこ)に存在しても自我は芽生えないという事だろう。と、俺は思う・・・


 故に。


 だからこそ、そのバランスが(くず)れて尚自我を失わない俺はイレギュラーなんだろうと思う。そもそも根本的な疑問ではあるが、何故(なぜ)俺のようなイレギュラーが()まれたのかは流石に解らないが。


 まあ、それはともかくとして。俺は自我を失わずに自由気ままにやっている訳だ。世界を旅し、もののついでに色んな心霊スポットや霊場を巡りながら見分を広げている。見識(けんしき)を広げている。


 まあ、自殺スポットなんかは流石にドン引きしたけれど。幽霊がひしめき合っているから。


 残留思念なんかも充満して陰気(いんき)でじめじめしていた。うん、やっぱり(すさ)まじく暗い。


 俺にはあんな場所は()わねえ。そう、一目で感じた。


 いや、だって幽霊が一か所にぎゅうぎゅう詰めになって陰気な思念を()れ流している。それだけでもう嫌な気分になるという物だろう?こっちまで気分(きぶん)が暗くなってくるって。割と本気で。


 本当、陰気な場所ってやだね。そう、俺は心の底から思った。


          ・・・・・・・・・


 そうして月日は流れ、現在———俺は月面(つき)に居た。そう、俺は今、月面に()り立っていた。


 何を言っているのか解らないって?無論、そのまま言葉の(とお)りだ。俺は今、月面に居る。つまりは月面旅行という意味だ。俺達の星は、(あお)かった。実に、綺麗な青い星だ。


 いや、そもそも何故(つき)に居るのかだって?それはまあ、俺が唐突(とうとつ)に月に行きたいと思ったから?


 それ以外に理由は無い。清々しいまでに自分の意思(おもい)に素直になったまでだ。


 理由は簡単。その方が面白いからだ。何せ、今の俺は幽霊だ。縛り付ける(かせ)など無いに等しい。無重力や真空状態なども問題にならない。高濃度の放射線も、(おそ)らく幽霊である自分には関係ない。


 いや、流石に高濃度の放射線は怖いけど。まあ、今の俺は幽霊(ゆうれい)だし?問題なんて無いだろう。だからこそ俺は即日即断即決で、月面に瞬間移動を()たした。幽霊には距離も空間も関係ないからね。


 俺、幽霊だし?だからこそ、もうあらゆるしがらみや束縛から(のが)れる事が出来るだろう。


 俺は今、自由(じゆう)だ。自由であるが故に、誰も俺を(しば)る事なんて出来ない。だから、俺は思うがままそれを堪能(たんのう)するまでだよ。只、それだけの話だ。だから、俺は月に来た。そうしたいと思ったから。本当にそれだけの理由でそれだけの理屈(りくつ)でしかない。


 ・・・俺、何を一人で言い訳してるんだろうか?まあ良いや。


 そして、現在(いま)に戻る・・・


 いやはや、月から見た俺達の星は実に綺麗(きれい)だ。そう、素直に思った。まるで、一つの宝石のよう。


 しばらく、そうして月からの景色を(なが)めていた。眺めて、素直に感動(かんどう)していた。


 しかし、ふと俺は足元に妙な違和感を感じた。それは、まるで足元に何か月の内部を(おお)うようにして硬い金属の表皮が存在しているかのような?或いは、金属で内部への壁を作っているような。


 とにかく、地面の下に何か金属的な層が存在している。足元に、明らかな人工物が存在している?


 そんな、違和感(いわかん)を感じた。


「・・・・・・・・・・・・では」


 ふと、興が()って俺は月の内部に身体をすり抜けさせた。それはもう、嬉々(きき)として。


 ・・・思った通り、月の表面である地面の部分から(わず)かな場所に、金属の層があった。恐らくは完全な人工物だろうと思われる金属の層。故に、俺は一つの仮説(かせつ)を立てた。


 この月が、古代の文明(ぶんめい)による人工物であると・・・


「この月自体が、何らかの文明による人工物。或いは、天体(ほし)そのものを利用した宇宙船?」


 もはや、そうとしか考えられなかった。それしか、思いつかないような有様だった。


 何故なら、薄い金属の層より内部は完全な人工(じんこう)の空間だったからだ。それは、近未来を思わせるような機械仕掛けの地底都市だった。月の内部をくり()いて、そのまま都市にしたかのような空間だ。


 人口の光が、近未来の地下都市をあまねく()らしている。そして、その地下都市を大勢の人々が所狭しと歩き回るその姿は、俺達の住まう青い星と何ら変わらない有様(ありさま)だろう。


 俺達を青い星の(たみ)と呼ぶなら、さしずめこの人達は月の民だろう。


 どうやら、月の内部には大気(たいき)が存在しているらしい。つまり酸素(さんそ)がある。何故なら、月の民達は皆酸素を供給(きょうきゅう)する為のマスクも、ましてや宇宙空間用の防護服も着用していないからだ。


 月の民達は、まるで民族衣装のような朱色の紋様の入った白い服を着用していた。


 その姿は、まるで古代の神官(しんかん)のようですらある。


 月の都市は、球体である月の内部にそのまま作られている。恐らく、地下都市の上空。つまり月の中央に位置するその場所にある(あわ)く輝く球体。それが重力発生装置となっているのだろう。


 球体の内側に、そのまま都市(とし)が造られている感じだ。そして、その球体内部の中央に重力装置である淡い光を放つ球体が浮いている。それは、まるで空に()かぶ太陽か月のよう。


 そして、その球体の内部に何か秘密(ひみつ)がある。そう、俺の直感が()げていた。


 幽霊となった俺の直感は中々(あなど)れない。それこそ、その直感だけで何度も命拾いした程だ。


 文字通り、あの狂戦士霊能力者に襲われた時のようにだ。あの時のように、勘違いで除霊させられかけた事は何度もあったから。だから、俺は自分の直感は信じる事にしている。


 というか、信じなければ本当に()ぬからだ。幽霊になっても死ぬのは、流石に御免被る。


そして今回、その俺の直感が月の中央にある球体(きゅうたい)に何か秘密があると告げている。そう、俺の勘が強く告げているのである。あの場所に、(なに)かあるのはほぼ間違いないだろう。


 そう思い。俺はにやりと満面の笑みを浮かべて好奇心のままに其処へ侵入(しんにゅう)した。


 そして、その月の地下都市中枢で。俺は運命(うんめい)を変える出会いを果たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ