3、世界幽霊一人旅
そうして、俺は一人旅に出た。無論、幽霊に距離も空間も関係ない。だからこそ、俺は真っ先に思いついた事を即座に実行した。即ち、海外旅行だ。
本来、海外旅行にはパスポートの発行とか飛行機の予約とか必要になってくるだろう。しかし、俺は今は文字通り幽霊の身だ。つまり、簡単に説明するとパスポートも飛行機も要らない。
そもそも、幽霊だから人間の定めた一切のしがらみが通用しないだろう。幽霊だから‼
だから・・・
「ダイナミックお邪魔しま~すっ」
そう言い、俺は早速大陸の方へと軽いノリで転移した。無論、深い考えは一切無い。
だからこそ、俺はこの時少しだけ失敗した。まさか、転移した先にあんなのが居ようとは。というかあんなモノ予想出来るかと、声を大にして言いたい。声を極大にして言いたい。
あんなの予想出来るかっ‼‼‼
・・・・・・・・・
「・・・・・・何でこうなった?」
俺は今、一人の霊能力者と対峙している。割と大きめのサイズの結界の中で。霊能力者は尋常ではないレベルの殺気を纏いながら、俺を睨んでいる。その表情は、今すぐに俺を滅殺せん勢いだ。
俺はその結界のせいで、逃げる事も転移する事も出来ない。つまり、八方塞がりだ。
「・・・えっと、貴方は一体誰でしょうか?どうして俺をこんな場所に閉じ込めようと?」
「黙れ、呼吸するな。ゴミくずが・・・」
えー・・・。俺は、割とガチで引いていた。ドン引きしていた。俺は何故、こんなに殺意を向けられているんだろうか?そもそも、俺は一体何をした?
俺は必死に言葉を選びながら、恐る恐る訪ねた。恐らく、言葉を一つでも間違えば死ぬ。
「・・・・・・あの、何故貴方は其処まで怒ってらっしゃるのでしょうか?俺が何か———」
「黙れと言っている」
「・・・・・・・・・・・・」
ぴしゃりと、言われてしまった。うむ、これでは話が通じない。というか、全く話が通じない。
何?この殺意まみれの狂戦士は?
「何をだと?死にながらも現世に留まり続ける悪霊が、人様の国に土足で上がり込むようなゴミくずが随分とまあぺらぺらぺらぺらと口から汚物を吐く物だな?」
「え~っ・・・」
何?其処まで言われるような事なのか?というか、幽霊として現世にさまよい続けているだけで?
其処まで俺はボロクソに言われるのか?
「泣き喚け!後悔し絶望を胸に抱きながら死ねえっっ‼」
「いや、無茶言うなっ‼‼‼」
太陽が爆発したような、閃光が奔った。
「ぬうっ‼?」
瞬間、俺の絶叫と共に大爆発が起きた。霊能力者の術ではない、俺の技だ。とはいえ、俺はこんな大爆発を起こすような技を覚えた訳ではない。只の偶然の産物だろう。
要するに、俺が幽霊になってからやっていた事が幸いしたらしい。
つまり、簡単に説明すると幽霊である俺の思考が現実になっただけだ。もっと具体的に言うと、俺が以前幽霊として起こした様々な不可思議。瞬間移動や物体すり抜け、ポルターガイストの延長だ。
要するに、だ。俺の思考が暴走した結果、大爆発が起きた。俺自身、予想外だ。
流石の俺も、これには大口を開けて呆然としている。うん、何だこれは・・・?
大爆発の結果、霊能力者の張った結界が解けた。そして、彼が膝を付いた。
「貴様・・・、この程度の霊障で俺を倒せたつもりか?」
「いや、もう倒れてくれよ。倒れて下さいお願いします・・・」
「死ね———」
「はい、其処までだよ。しっちー」
ぱこんっと、軽い音と共に霊能力者の背後から巫女装束の女が現れ、彼の頭を叩いた。その光景には俺も呆然と硬直する。とはいえ、新手の出現に流石に硬直し続ける訳にはいかないだろう。
すぐに俺は硬直を解き、警戒を強める。そんな時・・・霊能力者が不機嫌そうに巫女を睨んだ。
「貴様、リンメイ・・・。一体何をしに来た?邪魔をするなら帰れ」
「いやいや、君も相変わらずだねえ?僕は君を止めに来たというのにさ?」
「・・・何?」
霊能力者は怪訝な顔をする。何故止められる筋合いがあるのか?それが理解出来ない様子だ。しかしリンメイと呼ばれた彼女は、からからと笑いながら言った。
「いやいや、君の独断で悪霊と決めつけて強制除霊しに掛かるのは流石に|拙《まず》いと思うよ?」
「知るか、俺はこのゴミくずを祓おうと・・・」
「はいはい、君もさっさと帰りなよ。此処は危険だよ?」
「あ、はい・・・・・・」
「貴様、逃げるな!おまっ、邪魔をするなあーーーっっ‼‼‼」
こうして、俺は逃げるように大陸から去った。全く、災難だった。
・・・・・・・・・
それからしばらく、大陸では一人の狂戦士が暴れまくったという。
・・・・・・・・・
さて、次に向かったのはとある島国だった。温暖な気候が目立つ、常夏の国だ。其処ではビキニ姿のお姉さんや黒く肌を焦がしたお兄さん達が楽しげにビーチで遊んでいる。
そんな中、俺は砂浜で一人寝転がりながら楽しげにはしゃぐビキニのお姉さん達を見ていた。
うん、良きかな。楽しげにはしゃぐお姉さん達の、たわわな果実。ふるふると、揺れる一対の果実を見ているととても気分が良くなってくる。少なくとも、俺はそう思う。
思わず、俺は表情をだらしなく緩めた。こんな姿、家族には決して見せられないだろう。
けど、良いさ。俺は幽霊だからね‼
「・・・うん、良いね」
「へんたいですね、わかります」
「うん?」
舌足らずな、幼い声が俺の言葉に反応を返した。いや、今の俺は幽霊だ。俺の言葉に返事を返すなんて明らかに妙な話だと思うけど。そう思っていると・・・
俺の顔を、満面の笑みで覗き込んでくる顔があった。可愛らしい、笑顔の似合う幼女だ。
そんな幼女が、俺の顔を覗き込んで満面の笑みを浮かべている。いや、それはおかしい。
そもそも、幽霊である俺の顔を覗き込むなんて事自体がおかしいんだ。
「そんなところでなにをしているの?ゆうれいさん?」
「いや、君・・・俺の姿が見えてるの?」
「うん!みえていますっ‼」
にぱっと、花が咲きほころぶような笑顔。見事だった。しかし、俺はその事には驚かなかった。
俺の姿には誰も見えていない筈だ。そして、この幼女は俺の姿が見えている。
それは、つまり・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は、さっと周囲を見回した。しかし、誰も不思議そうに俺達を見ている者は居ない。それも、この幼女がおかしな行動を取っている事に誰も怪訝にすら思わない。
それに、俺は驚いた。心底驚いた。
「えっと?おにいちゃんなにやってるの?」
「君、何者だい?」
俺と幼女の言葉が見事にハモった。きょとんっと、幼女が首を傾げる。ああ、うん。まあ良いや。
俺は、そっと溜息を一つ。
「君の言う通り、俺は幽霊だ。もちろん、君以外の人には俺の姿は見えていない。君以外には」
「うん?」
「君、他の人に変な目で見られないのかい?」
「・・・べつに?わたし、とくべつなちからをもっているし?」
「特別な力?」
うん、と幼女は満面の笑みで頷いた。本当に見事な笑みだ。一分の影も無い、一切の影も見せない本当にきれいで可愛らしい笑顔。何もおかしい事は言っていない。そんな様子だ。
「わたしにはとくべつなちからがあるの。わたし、いのうしゃだからね‼」
「異能者、ね・・・」
ふんすっと、自慢げに腕を組む幼女。いろんな人が居るものだなあ。そう、俺は思った。
で、だ・・・。それはともかくとして・・・
「そんな異能者様が、俺に何の用だ?」
「えへへ~、あそぼう‼」
「はあ・・・」
どうやら、この幼女はただ遊びたかったらしい。それは何ともまあ・・・随分と可愛らしい。
結局、俺は夕暮れ遅くまで幼女と遊ぶ事になった。奇しくも、その時刻は逢魔が時だった。
狂戦士パねえ・・・




