表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
1、少年編
15/57

番外、恋する少女

 ・・・リーナが山賊に襲撃され、無銘(むめい)の少年に助けられた日から数日の時が()ぎた。


 その頃、レイニー伯爵邸。リーナ=レイニーの部屋で、リーナは物思いに(ふけ)っていた・・・


 リーナの手には、無銘から渡された草を()んだお守りが握られている。大切なお守り、これは彼との唯一の繋がりを持つ大切な物。そう、リーナは解釈(かいしゃく)していた。


 だから、リーナはぎゅっと(いと)おしそうにそのお守りを()き締めた。傷付き、それでもリーナを命がけで守ろうとしてくれた彼の事を思い出しながら。その目から涙を(こぼ)しながら。


 と、その時。軽くドアをノックする音が聞こえてきた。こんな夜に誰だろう?僅かに首を(かし)げる。


「リーナ?私だけど、今()いかしら?」


「あ、はい・・・」


 声はリーナの母親、アーシャ=レイニーのものだった。リーナは慌ててお守りを机の上に置き、ドアの鍵を開けてノブを回した。ドアの外にはリーナをそのまま大人にしたような女性が居た。


 リーナの母、アーシャはリーナに優しく微笑(ほほえ)む。


「少し、お話しない?」


「はい、何の話ですか?」


「ふふっ、例えば・・・リーナを守ってくれた小さな英雄(ヒーロー)さんの話とか?」


「っ⁉」


 リーナは途端、顔を俯けて表情を(くも)らせた。そんな娘の心情を察してか、アーシャはリーナの頭に優しく手を乗せ撫でた。その表情は、何処までも(おだ)やかだ。僅かの影も感じない。


 彼女はそういう人物だ。どんな時でも、穏やかに微笑んでいる。気性の穏やかな女性なのだ。


 リーナはそんな母親の事を好いていたし、尊敬(そんけい)もしていた。しかし、今回ばかりはそんな母親の笑顔の意図が読めずに少し困惑(こんわく)する事になった。一体、母親は何を考えているのだろうか?


          ・・・・・・・・・


 そして、リーナの部屋の中。リーナはベッドの(ふち)に、アーシャは椅子に(すわ)った。


「お母さま・・・えっと、それで一体?」


「ふふっ、まずはリーナを助けてくれた英雄(えいゆう)さんはどんな子だったのかしら?」


「・・・・・・・・・・・・」


 リーナは彼の事を思い出す。思い出した瞬間、確かに胸の奥に(あたた)かな何かが灯った気がした。それと共にちくりと刺す何かも感じた。リーナは、ちらりと机の上のお守りに視線を()けた。


 草を編んだ小さなお守り。彼との唯一の(つな)がりが其処にあった。


 当然、その視線の移動に母親も気付いていた。しかし、それを今は問わない。


「彼は、自分の事をムメイと名乗っていました。綺麗(きれい)な黒髪と青い瞳をして、魔法を操って私とじいやを助けてくれました・・・」


「そう、本当に英雄みたいな子だったのね」


 母親の言葉に、リーナは少しだけ笑みを(こぼ)す。頬が、僅かに赤く()まる。


「・・・ムメイは、自分が傷付いて本当は(いた)い筈なのに。それでも私を(かば)って、助けてくれたの。そんなムメイの事が私は、私・・・は・・・」


「・・・・・・そう、リーナは彼の事を()きになっちゃったのね?」


「・・・っ、はい」


 気付けば、リーナはその目から()め処なく涙を流していた。ぽろぽろ、ぽろぽろと、一向に涙が止まらずに溢れ出した。リーナはしゃくり上げながら、涙を(ぬぐ)う。しかし、涙は一向に止まらない。


 本当はリーナだって勘付いている。もう、彼とは二度と()えないのではないかと。


 けど、それを認めるにはリーナはまだ(おさな)過ぎたのだ。そんなリーナに対し、それでも穏やかに微笑みながら母親は優しく抱き締めて頭を()でた。


 ようやく、この時になってリーナは気付いた。アーシャは、母親はリーナを不安にさせない為に笑みを絶やさずにいたのだと。そんな母親の強さと優しさに、リーナは更に泣きそうになった。


 そんなリーナに、アーシャはそっと言った。


「大丈夫よ、リーナ。きっとまたその子とは再会(さいかい)出来るわ。また(いず)れ、リーナの所に」


 何処か、確信(かくしん)の籠もった声音でそう言うアーシャ。


 少し意味深な事を言っていたけれど、リーナがそれを理解するにはまだ(はや)かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ