表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無銘の世界~personaluniverse~リメイク  作者: ネツアッハ=ソフ
1、少年編
13/57

10、修行の始まり

 僕は現在、神山の洞窟(どうくつ)の中を歩いていた。僕の前を、ミコトは歩いている。


 その洞窟は(ふか)く深く、まるで何処までも続いているような錯覚(さっかく)すら受ける。一体何処まで続いているのだろうかこの洞窟は?そう思うも、僕は(だま)って後ろを付いてゆく。


 しかし、この洞窟内は妙に(あつ)いな。まるで、火山の中枢(ちゅうすう)にでも来たかのような。少しばかり不安が僕の背筋を伝う感覚がした。いや、まあ何て言うか・・・うん。


 もはや、言うまでも無いだろう。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 そろそろ軽く不安になってきた頃、僕達の目前に(ひら)けた空間が見えてきた。其処は、周囲をマグマに覆われた灼熱の空間だった。まさしく、火山の中枢だろう。


 やはり、僕の予想は見事に当たっていたらしい。本当は、(はず)れて欲しかったけど。


「・・・・・・・・・・・・」


「付いたぞ?入れ」


 流石の僕も、唖然(あぜん)とした。


 その開けた空間の中央には、周囲をマグマに(かこ)まれているにも関わらず、燃える気配を見せない不可思議な小屋がぽつんと建っていた。その光景にそぐわない、木造(もくぞう)の小屋だ。


「何をしている?さっさと入れ」


「あ、はい・・・・・・」


 僕は言われるまま、木造の小屋の中へと入っていった。その瞬間、世界(セカイ)は一変した。


 文字通り、まるで異界(いかい)にでも迷い込んだかのようだ。小屋の中に入った筈の僕の前には、一面の大草原地帯が視界一杯に広がっていた。遥か彼方(かなた)に見える山の向こうに、天と地を繋ぐ光の柱が見える。


 恐らく、あの光の柱こそがこの世界の中心なのだろう。そう、何故か理解出来た。


 空には、燦然(さんぜん)と星々が瞬いている夜空が広がっていた。此処が先程の神山では無い事は明白だ。


 一体、僕は何処に(まよ)い込んだのだろうか?そんな疑問を(いだ)いていると・・・


「ん?君は(だれ)かな?」


「っ‼?」


 唐突に聞こえた声に、ぎょっとして()り返る。まるで気配がしなかった。声を掛けられるまで、この僕が気付けないなんて。そして、その驚愕は振り返った後更に増大(ぞうだい)する。


「・・・・・・っ‼‼‼」


 驚いた事に、その青年は僕のすぐ目と鼻の先に居たのだ。思わず、僕は飛び退()いて身構える。しかしその青年は僕の行動を意にも介さず、口元を僅かに(ゆが)めて笑んでいる。見事なアルカイックスマイル。


 僕は改めて、その青年を観察(かんさつ)する。年の頃は、十七から十八だろうか?その身に軽い皮鎧を纏い腰には一振りの剣を()している。鎧こそ貧相だが、腰に差している剣は見事な物だ。恐らく、神剣の類。


 と、言うか明らかに日本刀だった。金髪の西洋人風の青年には、明らかに不釣り合い。


 それと、今気付いたがこの青年。どうやら英霊(えいれい)の類らしい。つまりは霊体だ。


「ん?これは剣神(けんしん)タケミカヅチと言ってな。剣の形をしてはいるが立派な神霊種だよ」


「いや、それはともかくお前は誰だよ・・・」


 とりあえず、僕は警戒心を最大にして()いを投げ掛けた。一体彼は何者なのか?


 しかし、その問いにむしろ彼の方がきょとんとした。まるで、その質問自体が意外だったかのようでそんな彼の反応にむしろ、僕の方が面食(めんく)らった。


 え?あれ?この質問はそんなに意外だったか?軽く不安になってくる。


「ん?何だ・・・ミコトから何も聞いていないのか?」


「・・・いや、ただ此処(ここ)に連れてこられただけだが?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~」


 長い沈黙の後、青年は深い溜息を吐いた。まるで、心底面倒臭そうに頭をぼりぼりと()く。


 やがて、青年は観念(かんねん)したかのように首を左右に振り、僕の方を真っ直ぐに見た。その瞳は、まさしく心底面倒臭そうな。いや、実際面倒臭いのだろう色をしていた。


 しかし、その面倒臭そうな瞳の色もすぐに一変した。


「まあ良い、まずは自己紹介をしよう。俺の名はミハイル=ブラック。剣聖(けんせい)と呼ばれている」


「・・・無銘(むめい)だ」


「無銘か。本名を名乗るつもりは?」


「・・・・・・シリウスだ」


「シリウスか。うん、よろしくな!」


 青年、ミハイルはにっこりと頷くと僕の手を強く(にぎ)り締めて大きく振り回した。ずいぶんと穏やかな性格の青年らしいな。僕は、初見でそう判断(はんだん)した。


 ・・・しかし、それは大きな間違(まちが)いだと後に理解させられる事となる。と言うか、すぐに。


          ・・・・・・・・・


 で、現在。何故か僕は木剣(ぼっけん)を握りミハイルと相対していた。僕は木剣を正眼に構え、ミハイルは一切構えを取らずに脱力(だつりょく)している。一見舐めているように見えるが、全く隙が無い。


「・・・何か、既視感(デジャブ)を感じるな」


「まあ気にするな。()い」


 そう言われ、僕は僅かに溜息を吐くとミハイルに向かって一足で距離を()めた。しかし、次の瞬間には既に僕は頭を木剣で打たれていた。打たれた瞬間が認識出来ない、それ程の神速(しんそく)の業。


 それどころか、打たれた事に気付きそれを頭が正しく認識するまでしばらくかかる。速過ぎる。


 全く状況を理解出来ず、混乱する僕に対しミハイルはにっこりと清々(すがすが)しい笑顔で言った。


「さあ、まだまだ。時間はたっぷりとあるんだ、もっと来い」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 うへえっ・・・


 思わず、僕は口元を引き()らせた。どうやら、そう簡単にはいかないらしい。思わず天を仰ぎたくなるのも仕方がない事だろう。僕は、心の中でこっそりと溜息を吐いた。


 ああ、どうしてこんな事になったのか?全く解らない。理解出来ない。


 その後、僕は幾度となく木剣によって打たれ続けた。全く、剣筋すら()めなかった。


 そんな僕に対し、ミハイルは獰猛(どうもう)に笑っていた。


          ・・・・・・・・・


 一方、その頃神山では・・・


「ふむ、デウスか。(ひさ)しいな」


「うむ。あいつは・・・どうやら神域(しんいき)へと入ったらしいな」


 ミコトの前に、デウスが現れた。それも唐突(とうとつ)に、何の脈絡も感じさせない出現だった。恐らくは転移(てんい)の術の類だろうが、それにしても全く不自然さを感じさせない見事な転移だった。


 しかし、ミコトが反応したのは別の事だった。


「・・・やはり、無銘(むめい)の少年はお前の差し金か。神王デウス」


「うむ、その通りだが?やはり元人間の神霊種としては俺が一介の人間に気を回すのは意外か?」


 元人間の神霊種。そう呼ばれたのを一切気にせず、ミコトは(だま)って頷く。それ程までに、神王デウスが一介の人間を気に掛けるのが意外な話なのだ。決して元人間として私情を(はさ)んだ訳では無い。


 そして、そんなミコトにデウスは笑みを浮かべたまま頷いた。


「別に、そう大した理由がある訳では無いさ。只・・・あの少年の絶望が、(いか)りが、意思の力の全て人間としての限界を遥かに超越して固有宇宙へと覚醒(かくせい)する兆候を見せたのでな」


「なるほど?つまり最初から解っていた訳か。あの少年が覚醒する器である事を・・・」


「そうだと言った」


 再び、ミコトはなるほどと頷いた。どうやら、神王は最初から(すべ)てを理解して、その上で無銘を転生させこの世界へと送り込んだらしい。つまり、全ては神王の計算(けいさん)の上だったのだ。


「さすがは、全知全能(ぜんちぜんのう)の神王だな」


「・・・別に、それほど難しい話でもない。単純な話でもない」


 少しばかり不快そうな表情(かお)で言う神王に、そうかもなと返すミコト。どうやら、ミコトとデウスはそこそこに気安い関係ではあるらしい。よく見れば、デウスも少し不快そうではあるが、それでもあまり言う程には不快感は(あらわ)にしていないようだ。


 恐らくは、その程度には気を(ゆる)しているのだろう。


「で?そろそろお前も口を割る気になったか?お前がどうやって神霊種に(いた)り、どうやってこの多元宇宙へと来たのかを・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 その問いに、山神ミコトは黙って首を横に()る。そう、たとえ全知全能たる神王デウスでも解らない事はあるのである。その最たる事象(そんざい)こそ、山神ミコトだ。


 彼、ミコトはこの多元宇宙の外からある日突然とやってきた外なる神なのである。


 そう、山神ミコトはこの多元宇宙の何処(どこ)とも知れない場所から、突如として来た神霊種なのだ。


 ミコトが何処からやってきて、そしてどうやって神霊種へと(いた)ったのか、それは神王ですら知らない未知の事象なのである。故に、神王は知りたいのだ。山神ミコトの(かか)える秘密を。


 そして、どうやらそれを(かた)る気はミコトには一切無いらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ