「大門泰三」
島崎家の家系は元々超能力が使えた。怜がこの力に目覚めたのは12歳の頃だ。父、母、姉、そして怜、四人家族で怜が最も才能がなかったわけだかそのことを責めることは誰もしなかった。今思えばいい家族に恵まれていたと思う。怜が使えるのは身体能力が上がる力だけ、それ以外はどうやっても無理だった。姉は物を動かしたり壊したりできていたのが悔しくて八つ当たりしていたのもいい思い出だ、向こうがどう思っていたかは知らないけど。父は強かった。喧嘩はしたことなかったが怒られた時の父の怒りのオーラが目に見えていた、そんな父は尊敬する人でもあり超えるべき壁だと勝手に決めつけている。母は優しくいつも甘やかしてくれる。それに嫉妬する姉が後でネチネチと嫌がらせをしてきたのは今でも腹が立つ。
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超能力を使い、一気に距離を離す。
ーーこんな状況でなんであんなこと思い出してんだ俺!
後ろを振り返らず、全力で走る。
何が何でも逃なければ。
後ろからは嫌な雰囲気はしない。逃げ切れたらしい。安堵とともに汗が一気に吹き出る。
山を抜けれた、よかった。やはり後ろには誰もいない。家に戻ろう、そしてあの人に会おう。
「ぜってぇに除霊させてやるからな、首を洗って待ってろクソオンナ」
いつもの日常を壊された恨みを晴らすこと心に決めたのであった。
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怜が足を運んだのは、塀に囲まれている古臭い屋敷。塀の隅には鯉が泳いでいるちょっとした池があり土地の規模の大きさがわかる。
「ごめんくださーい、師匠いますかー?」
何度も玄関を叩き、チャイムを鳴らす。
しばらくすると、だるそうな足音がだんだん大きくなり
「なんだこんな早くになんか用なのか?」
玄関から半ギレで出てきた男は少し伸びた黒髪が耳にかかり、ダルそうな態度が整った顔立ちを無駄にしている。少しはお洒落に興味を持ったらいいのにと思った日は少なくない。彼は大門泰三、怜の師匠であり良き友人である。
「それが頼みごとがあるんだよ、きいてくれ!」
「.....しゃーねーな、あがれ」
軽く舌打ちをするが意外に素直だ。玄関を抜け、長い廊下を通り、和室の大広間を到着する。そこには先代の顔写真が壁に並べられており泰三は四代目というところだ。
刀のようなものがあるがそれは模造刀だと思う、でも前に触ろうとしたら普通に怒られたのでお高い物なのだ。
二人とも自然に座布団を取り出し泰三はくつろぐ。
怜は泰三の正面に正座し、
「この度は、誠にご迷惑かけると思うのですがーー」
「お前、悪いもんみてきただろ?」
いきなり、本題に入られて焦るがそこはさすが師匠といったところだ。やはりなにか感じるものがあるのか、師匠にはわかるらしい。
「あ、そうなんだよ!よくわかんねぇオンナに追いかけ回されてさ最悪だよ!だからさ、お清めされた塩ちょうだい?」
「いやだよ」
「え?」
予想してなかった返事を即答され戸惑う。
普通なら師匠の力を見せてやるとか言われるものだろうと思っていたがこれは想定外だ。
「お前なぁ、何年俺の弟子をしてるんだと思ってるんだ?除霊の一つもできないでどうする!」
もっともな正論を言われて固まる怜。それをみて、ため息をこぼす泰三。二人の間に甘い空気などなかった。
怜が弟子となったのは、四年前。
その頃から才能がなかった怜は泰三にだいぶしごかれたが、何も変わらなかったので泰三も諦めたのだろうと思っていたがまだ諦めてないらしい。
「明日もそいつに会ってくるつもりなんだろう?ならこれも持ってけ。」
そう言って投げられた物は袋に入った塩のようなものだ。師匠は厳しいが意外と甘い、これは昔から変わらない。
「さすが師匠!惚れてまうわ!」
自分が座っていた座布団を丁寧に元の位置に戻し、颯爽と帰る。それをみた泰三は小さく微笑んだ。
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息が荒い。鼓動も早い
寒い。
でも大丈夫だ、まだ奥の手はある。
とにかく走れ!走れ!。
自分に言い聞かせ、足を動かす。
まだ薄暗い山道を怜は必死に走る。
ーー追いつかれた!、やるしかない!
右手をポケットに伸ばし、小袋を取り出す。
そして中身をオンナに向かって投げつけた。