プロローグ 「いつも通りの朝」
島崎怜の朝は早い。
まだ日も出ていない、鳥の鳴き声もしない時間に起きる。
体を起こし、洗面台に駆け寄る。顔を洗い、歯を磨く
これが島崎怜の朝のルーティーンなのだ。
部屋に戻り、ジャージに着替える。日課のランニングに行くために玄関に駆け足で行く。
まだ起ききれていない情けない顔が玄関にある姿鏡に写っていた。
ランニングは家から軽く山を登って下るシンプルなコースだ。最初の方は坂で音をあげていたが今はもう楽々と登れる。
田舎道で街頭も少なく、多少は怖かったがこれも慣れたはず。だがだんだんと明るくなる風景は普通の生活に刺激を与えてくれるようでこの日課を続けれる一つの理由にもなっていた。
山を登り平坦な道が続く。右には田畑が広がり、殺風景だか朝日がそれをカバーするように照らしている。
季節ごとに色や形を変えていく、これが風情かと感じることができたのはいい思い出だ。
オンナだ。オンナがいる。
田畑の少し奥、ボーっと佇んでいる。
その立ち姿は寂しく、憤怒していてもある。
それはどこか自分に懐かしさを感じるようで。
まるでオンナの周りだけ時間が止まっているようで。
寒気が全身を走る。
オンナの視線がこっちを向いている。
こちらを見ている?
「……!!!!」
自分がオンナを凝視していることとオンナもこちらを凝視していることに気づき、身体中から冷や汗が吹き出る、とっさに走り出す。
ーーやばい!なんで見たりしたんだ俺!
考えもせずに前に走り出し、戻ればよかったと後悔する暇もなかった。
オンナは異常なほど速いスピードで横にスライドしているかのように此方に向かってくる。
ーー寒い寒い寒い!こんなに体を動かしているのに!
オンナすぐそこにまで迫っている。
硬い地面を踏みしめる感覚がなくなる。
「なんなんだよ!いったい俺がなにかしたって言うのか?!?!」
後ろにいる女に叫ぶ。だんだんと腹が立ってきた。そらそうだ、意味のわからないオンナに追いかけられているのだから。
さっきまでいつも通りの生活だったのにあいつがぶち壊した。今まで通り平凡な毎日でよかった。こんなのは望んでない!。生活に刺激なんて必要ない、全くもってだ!。
足がもつれた。最悪だ。
肩に何かが触れた。
その時、島崎怜は自分が使える唯一の力 "超能力"を使った。