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異世界の好敵手≪ライバル≫へ  作者: 稲荷大明神
第一章 トレイトン編
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第八話「新たな舞台へ(中編)」

 馬車に揺られて(ルーク)達がたどり着いたのは、やはり二人で住むにはあまりにも大きすぎる屋敷だった。


 綺麗な白塗りの壁に、上の階に見えるバルコニー、そして綺麗な緑色に塗られた三角形の屋根。俺が住むには大きすぎるし、何よりここまで綺麗だと落ち着かない。後ろにいるエンシェントエルフの少女も、その大きさに少し威圧されてしまっているようだった。


 「お前の家すっげぇな! 何人使用人を囲うんだよこのでかい家に!!」


 レオだけがその大きさと優雅さに圧倒されることなく、テンションを上げて俺にそう聞いてくる。こういう家に憧れる気持ちは分からなくもないが、実際に持ってみると妙な気持ちになるものだ。


 「二人だよ。唯一の使用人は強いて言うならガーゴイルだ」


 「もっとすげぇよ! それってつまりほぼ独り占めってことだろ!? なぁこんなところにそんな人数で寂しいだろ? 洞窟から遠くないし定期的に遊びに来てもいいか?」


 お前がここにたまりたいだけだろうに。頼み方が図々しいことこの上なかったが、実際この家に二人で暮らすのは寂しすぎる。なんだかとてもありがたい頼みに聞こえてならなかった。


 「あ、あの……あなたは貴族なんですか……?」


 おどおどしながら、少女がそう聞いてくる。今まで荷台の隅のほうで縮こまり、レオが話しかけても首を振るくらいしかしなかったのだが、どうやらこの家に興味が出てきたようだ。


 「あぁ、一応そうなるのかな? 俺はドルフレッド・アルストル公爵って人に仕えてる騎士って扱いらしい。詳しいことは俺もよく知らないんだけどな」


 「こいつが前まで住ませてもらってた公爵邸なんかこれ以上にでかいんだもんな。やっぱ七星皇を抱えてる貴族はすげぇよ」


 そういえば、お前の家はどこなんだ? そうレオが少女に聞く。すると、少女はその赤い目を潤ませ、顔を手で抑えて泣き出してしまった。あまりに突然だったもので、俺達は思わず目を見開き顔を見合わせる。


 「ご、ごめん! オレ、何か悪いこと聞いちまったかな!? 悪意はないんだホントごめん!!」


 すぐにレオがあたふたしながら詫びるが、少女がその押し殺した声を止めることはない。レオはしばらくの間、手を泳がせながら必死に謝罪を続けていたが、少女が泣き止む気配はない。


 俺は馬車を止め、慌てているレオを尻目に泣き止まない少女に手を差し伸べた。


 「無理に泣き止まなくてもいいから、今は俺に付いてきてくれないか?」


 少女は黙って涙に濡れた手を差し出し、俺はそのまま手を引いて屋敷の中へと入って行ったのだった。




 「エンシェントエルフ……私も実際に会うのは初めてだわ」


  泣き疲れたのか、ソファに座らせると同時に寝てしまったエンシェントエルフを見ながら、何故かずっと屋敷に居たらしいレイラがもの珍しそうにそう呟いた。


 「なぁ、レオもそう言ってたんだが、エンシェントエルフって何なんだ?」


 ルークがそうレイラに質問する。そういえばこいつはオレ(レオ)達の世界とは違うところから来たとかレイラが言っていた。どうやらオレがガーゴイルに蹴られていた時にその話をしたらしい。信じられない話だが、エンシェントエルフを知らないことから考えるに本当らしかった。


 「エンシェントエルフっていうのは、古代の遺伝子を強く受け継いだエルフのことよ。エルフの中から数千人に一人、何の前触れもなく突然エンシェントに変異するの。全員に一致する特徴として、普通のエルフじゃありえない白い髪の毛と赤い目を持つわ」


 アカデミーで習ったことだが、古代に神があるエルフに力を与え、エンシェントエルフに変えたんだそうだ。その遺伝子を濃く受け継いだエルフが、エンシェントに変異することがあるらしい。もっとも、ただの伝説に過ぎないし、大体の学者やらはそれを否定しているのだが。


 「普通のエルフの二倍以上の魔力を持つとされているわ。さらわれてたのならその希少性か、能力を利用しようとした奴の仕業でしょうね……」


 その時、眠っていたエンシェントエルフの少女が目を覚ました。目をこすりながら辺りを見回す少女に、レイラは腰を落として目線を下げ、話しかける。


 「おはよう。あなたのお名前、なんていうの?」


 「……リリー。あなたは……?」


 「レイラよ。レイラ・リオノーラ」


 そういえば名前を聞いていなかったと、オレとルークはハッとしたような表情をして、お互いの顔を見やる。すると、リリーと名乗った少女は突然目を見開き、ルークに詰め寄った。


 「そ、そうだっ! お願いします、弟を、弟を助けてください!!」


 先ほどまでの恐怖に支配された目とは違い、今度は焦りに支配されたような目で必死にリリーは、半ば叫ぶように話している。


 「弟のルベルも、私と同じように捕まって……! 私、逃げることしかできなくて! でも逃げられなくて!! だから! 助けてください!!」


 パニックを起こしているリリーを、後ろからガーゴイルが優しく抱きしめ、ぽんぽんと頭をなでてやる。すると少し落ち着きを取り戻したのか、今度はゆっくりと事情を説明し始める。


 「私の家族はルベルだけなんです。両親はもう亡くなってて……それでも二人で、貧しいけど平穏に暮らせていたんです。でも昨日、家に突然黒いマントの男の人が来て……ルベルは私を逃がして一人で……」


 目に涙を溜めながら話すリリー。きっと今度は恐怖よりも、弟を見捨てて逃げてきてしまったことが情けなくて、悔しくて仕方がないのだろう。我ながら単純だがそんな話を聞いていると、居ても立ってもいられなくなってしまう。


 「……リリー。オレにもルベルを助けるの、手伝わせてくれ」


 「え……? でも……」


 「大丈夫だ、オレはお前が頼ろうとしてる兄ちゃんに勝負で勝ったことがあるんだぜ?」


 オレの言葉を聞いたルークは懐かしむように笑うと、リリーの目を真っ直ぐに見て口を開いた。


 「もちろん俺もやらせてもらうよ。確かに負けはしたが、俺はこいつより強いからな」


 その次に、先ほどからリリーを後ろから抱きしめていたガーゴイルがリリーの肩を後ろから叩く。リリーが振り返ると、ガーゴイルはやっぱり何も言わずに親指を立てた。


 「さて……お前はどうする? オレはルベルを助けるついでに、お前じゃ絶対追いつけないくらい強くなってやるが」


 そして、この場にいるオレのもう一人の好敵手(ライバル)に、オレはそう言って目をやる。するとその好敵手(レイラ)は待ってましたとばかりに笑みを浮かべ、そして。


 「精々頑張ってなさい。あなたがそうしてもがいてる間に、私がルベルを助けて強くなってやるんだから」


 この場にいる全員が、リリーの仲間になったのだった。


 それとほぼ同時に、屋敷の外から馬の声と共に、公爵の召使らしい男の声が聞こえてきた。


 「ルーク様! 召集です!! 至急アルストル公爵邸へお越しください!!」




 「よく来てくれたルークよ。早速で悪いのだが、貴公に頼みたいことができたのだ」


 公爵邸に数時間ぶりに戻ってきた(ルーク)を待っていたのは、初めての任務だった。少しタイミングが悪いが、遂に冥皇との本格的な戦いが始まるということだろうか。


 「はい、遂に俺も冥皇との戦いに参加するのですね?」


 「いや、そうではない」


 ドルフレッド様はあっさりとそう言い切った。では任務とはなんだろうと考えている俺をよそに、ドルフレッド様は事情を話し始めた。


 「実は数日前から、この国のあらゆる地方でエンシェントエルフという特殊なエルフが消える事件が起きているのだ。貴公にはその事件の調査を行ってもらいたい」


 何とタイムリーな話なんだと思いつつも、俺は疑問を覚えた。それは衛兵がやるべきことであって、俺のような騎士がやることなんだろうかと。


 「調査、でしょうか?」


 「うむ。我々が仕入れた情報によると、消えていったエンシェントエルフは皆同じところに向かっているのだ。海の都、トレイトンに」


 なるほど、それがもし本当だとすれば、誰かがエンシェントエルフ達を一つの都市に集めていることになる。元々人をさらうような連中が、通常のエルフの二倍もの魔力を持つエンシェントエルフをそんな所に集めているなら、どんな悪事を企んでいるか分からない。早急に強い騎士が制圧するべきだろう。


 「……なるほど、分かりました。それで、そのトレイトンというのは?」


 「うむ、トレイトンというのは、このソルテールから山を二つ超え、川を渡った所にある街の名前だ。ルベルマンという男の領地で、金皇テオノルトが居るのもこの街になる」


 どうやらこの街はソルテールというようだ。そこからかなりの距離を移動した先にあるのがトレイトン。しかし、俺の頭には一つの疑問が浮かんでいた。


 「ドルフレッド様。七星皇が一人居るなら、ただの人さらいを討伐するのにわざわざ騎士を送り込む必要があるのでしょうか? そのテオノルトという男が戦えばいいのではないですか?」


 ドルフレッド様は一瞬だけ目を大きくし、そしてすぐに俺に命令した。


 「理由なぞどうだって構わん。行って、その人さらいを討伐してくるのだ」


 「……お任せを。しかしドルフレッド様、任務にあたって、一つだけお願いがあるのです。先日俺を見事打ち倒し、共にワイバーンと戦った者たち。そして今日俺がその人さらいから救った少女も連れて行ってよろしいですか?」


 「それは構わん……待て、人さらいと交戦したのか? 何か特徴は?」


 ドルフレッド様が目の色を変えて俺に質問してくる。俺はすぐに答えてみせた。


 「青い長髪の男でした。黒いマントを羽織っていて、そこには竜のエンブレムが……」


 「竜のエンブレム……?」


 ドルフレッド様は眉間に親指を当て何か考えているようだった。しばらく待っていると、何か紙を取り出し書いている。手紙だろうか。それを書き終えると、封をして俺に手渡した。


 「トレイトンにはゼルバートも向かわせているのだ。もし会ったなら、その手紙を頼む」


 「はい。もし会えば必ず」


 大規模とはいえ、ただの誘拐事件にしては制圧せんとする規模が大きすぎる。七星皇二人に、恐らくは俺達以外の人間も使うつもりだろう。何かあるのか、トレイトンに。


 屋敷中が、ただならぬ気配に包まれていた。  

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